DATA:002 勇者と魔王
朝日が、差し込む。
私たちがこの世界に来てから、初めて訪れた朝。そして――――
「お目覚めになられましたか?」
朝目覚めた時、最初に視界に入ってきたのは、メイドさんだった。
…………は? メイドさん?
「っ……此処はアキバかぁ!!」
「面白い寝言ですね。では、こちらにお着替えください」
くっ、さすがプロ……!
あの、起き抜け一発目の意味不明な言葉を、面白いの一言で済ませてしまうとは……! メイドさん、恐るべし……!!
「ルイちゃん、遊んでないで早く着替えなよー」
「あれ、ゆり? なんで此処に居るの?」
「さぁ? おんなじ部屋で寝たんじゃないの?」
ああ、そういえば、昨日はあの後、ゆりが倒れたんだ。疲労だかなんだかで。一晩眠れば元気になるだろうって言ってて……。で、私も眠かったから、同じ部屋のベッドで……うん、思い出した。
メイドさんが用意してくれた、青いワンピースに着替える。良かったぁ。なんかこの建物って豪華だから、着る物もドレスとか用意されるのかと思ってた。
んで、ゆりは……おおっ! ピンクのワンピース!! 私のとは少しデザインの違う可愛いレースがついたワンピースなのだけど、そこはさすがゆり。めちゃくちゃ着こなしている。
「で、何処に行くの?」
「こちらです」
答えてくれたのは、さっきのメイドさんだった。部屋のドアを開けて待ってくれている。そして、私たちの数歩先を歩いてわざわざ道案内をしれくれた。
一人で歩いたら確実に迷子になりそうなお城だ。……お城、だよね?
そのお城の中を、あっちへこっちへと曲がりくねって目的地へと歩いていく。ついた場所、そこは。
「……広っ!」
「こ、ここでお食事を取るんですか?」
馬鹿みたいに広い部屋の真ん中に、ながーいテーブルがおいてある。その上には、長くて広いテーブルに敷き詰められるようにして置かれているの料理。ずらーっと。
そして、そのテーブルに、一人だけ席についている人が居た。その人は、金色の髪。一度見たら忘れられないほどの、美女。
「アミラさん!」
「お目覚めのようですね、異世界の少女のお二方」
にっこり、と彼女は笑った。
しかし、私は正直彼女の事を信用していない。むしろ、この笑顔は怪しい。昨日の経験を生かせば、彼女が笑うと大抵いやなことを言われる。
「……何か、企んでます?」
「あら酷いですね。一緒にお食事をしようと思って待っていただけですよ?」
「だって、昨日の時点で貴女の腹黒さはよーく分かりましたし」
「大丈夫ですよ。私は、味方には基本的に優しいですから」
「…………」
「あ、その顔は信用してませんね?」
彼女は苦笑い。あ、そういう笑い方もするんだ。
ゆりはどうやらアミラさんのことを完全に信頼しているらしく、私のほうをはらはらとした面持ちで見ている。まったく、そう簡単に信頼なんてしないほうが良いのに……。まあ、そういうところもゆりの良いところなんだけどね!
「そう言えば名前を尋ねるを忘れていましたね。お名前は何ですか?」
「ああ、そう言えば名前を言ってませんでしたねー。私は、御井優梨です!」
「るい、です」
「昨日も紹介した通り、私はアミラ。この国のお抱え召喚師、と言ったところです。よろしくお願いしますね、ミィ、ルイ」
「え、ええと、私の名前はミィじゃなくて、ゆりの方……」
「あ、可愛いね、ミィって! 私もゆりのことミィって呼ぼうかなぁ」
「……ルイちゃんがそう言うなら、まいっか」
うん、可愛い! ミィ! 『ゆり』て名前も似合ってたと思うけど、なんだか『ミィ』の方がしっくり来るね。やっぱり、可愛い子は可愛い名前じゃないと!
……私は『ルイ』で、まんまだけど。
「じゃあ、朝食を食べながら、これからの説明と行きましょうか?」
「あ、はい」
「そうですね、お願いします」
うんうん。まずは情報。彼女達が知ってる事は、全部話してもらおう。何をするにも、まずは情報がないと始まらないしね!
「そうですね……まず、魔王のことについて説明しましょうか」
「魔王?」
「ああ、やっぱりラスボスは魔王なんだ」
「彼の目的は、世界を滅ぼす事です」
「なんで、ですか?」
「分かりません。彼は突如現れ国を一つ滅ぼし、世界中へと宣戦布告をした。その時の魔王の言葉は彼の手下の魔物の手によって、世界中の重役へと伝えられました。
それからです。多くの国々は、競って勇者を魔王の元へと送り出した」
「え、ちょっと待って。今、競ってって言った? 勇者ってたくさん居るの?」
「ええ。勇者になるための条件は特にありませんので。なろうと思えば、その辺の商人だってなれます」
「ちょ、それって、私たちが異世界からやってきた事そのものを否定してない?!」
「いいえ。確かに、勇者は数多く居ましたよ。しかし、誰一人として、魔王の姿を見ることさえ叶わなかった。
そこで、私たちが住むこのフィーア国は、異世界からの勇者召喚に目をつけたのです」
「……どうして、異世界じゃなきゃ駄目なの?」
「異世界から来る人間には、皆、不思議な能力を授かるのです。相手の心を読んだり、テレポート能力を持っていたり」
「へぇ、なかなか便利」
「そこで、光属性の者を選び召喚する陣を創った。それが、昨日のアレです」
ああ、あの床にたくさん文字が書いてあった円ね。変な床に書かれた模様。
あれは光属性だけを選んで召喚する為のものだったんだぁ。……って、納得できるわけなかろう。
「その、属性って? まさか、それで使える魔法が決まるとか、そういうの?」
「うーん……。そのとおりなんですが、細かく言うと違います。属性が決めるのは、職業」
「職業、ね。ますますRPGらしくなってきたねー」
「確かに、職業が決まると使える魔法も決まるので、先ほどの推論も外れていないと言えばいないんですが」
「おっけ、大分把握できた。つまり、勇者っていう職業につくには、光属性じゃなきゃ駄目なんだね?」
「はい。属性が分かると、職業が決まり、そして使える魔法も決まる、と言うことです」
ゆり……もとい、ミィは、必死にアミラさんの言葉を聞こうとしている。
どうやら、今日は会話について行けているらしい。ああ、よかったねー。昨日とか、まったく理解できてなかったのに!
「で、ミィは光属性で、勇者でしょう? 私は?」
「ルイさんからは、赤色の波動が感じられました。恐らく赤属性でしょう」
「赤……? へぇ、赤なんてあるの?」
「ええ。光に闇、そして、青に緑に赤。これが、五大属性です」
「ふぅん。で、赤属性はどんな職業になれるの?」
「……実は、赤属性はとてもまれなんです。その希少性から、なれる職業は限られてくる。
槍使い。または――――赤魔道師。この二つのどちらかです。まぁ、職業に関しては、後で資料を渡すので、其方の方もお読みになってください」
私は、槍使いか赤魔道師になれる。
今のとこ、第一希望は赤魔道師かなー……。そりゃ、どっちかって言ったら、魔道が使える方が良いよね! 折角異世界に来たんだから、魔法、使ってみたいし!
「では、説明はこのくらいでしょうか。何かわからなかったところとか、ありますか?」
「……あの、実はさっぱりだったんですけど…………」
さすが、ゆ……ミィだなぁ。真面目な顔してるから分かってるのかと思ってたけど、分かってなかったんだね。昨日の話も全く分かってなかったし。なんて面倒な子なんだ!
結構、ミィ馬鹿だからね。でも可愛いから許す。
「分からなければ、何度でも読んでください。何回も反復して読めば、理解できるでしょう」
「うわ、意外とスパルタだね、アミラさん」
「そうですか? 普通だと思いますけど。分からないなら、千回くらい読んでから文句を言ってください」
いやいや。千回って、単位が違う気がするけど、それで良いのか?
ミィは必死にアミラさんの言葉を反復している。うわ、この子ほんとにやってるよ。ミィなら、ほっといたら千回くらい本当にしそうだから怖い。
まぁ、分からないなら何度も読んだほうがいいのかもしれないけど、さ。
「では、説明も済んだ事ですし、二人には紹介したい人がいるんです。あ、食べ終わりました?」
「ああ、はい」
「ふあ、ああ、はいっ!」
ミィは急いで立ち上がって、アミラさんの後ろをついていこうと足を前に出した。しかし、何故か私の視界からミィが消える。
「うひゃあ!!」
そんな奇声を発しながら、床とキスをしたミィ。いったぁ、なんて言いながら赤くなった鼻を押さえた。うーん、その仕草はカワイイんだけど。
ミィは、この人形のような容姿に加え、ドジっ娘でもあるのだ。歩くと転び、走ると激しく転び、飲み物を持つと約九割の確率で、私にぶっかける。そう、狙ってんのかと問いただしくなる位正確に、私にかける。
Why? 何故私?
「……ミィ。そんなんで勇者、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよっ! ルイちゃんの意地悪!」
「いや、意地悪じゃなく、本気で……」
「大丈夫だってば! ……たぶん」
「あのね、たぶんじゃ駄目でしょ」
「むゅー……」
「そもそも、何でいきなりこけたの?」
「あ、自分の足に躓いちゃって」
「…………」
そのとき私は、確信した。
馬鹿で運動オンチな女の子に、世界の命運を託しちゃう、その理由は。
――――神様が、面食いだからだ。
ミィ・ユリ(御井優梨)
職業:勇者
属性:光属性
キャラ:ドジっ娘
お人形のような可愛らしい容姿を持つ。亜麻色の髪に茶色の瞳。控えめで大人しい。しかし、勉強は出来ず、なかなかのお馬鹿さん。極度の運動オンチで、歩くだけで転ぶ。モテるのに付き合ったことはない。実は好きな人が居る。