LOAD:007 魔王の未来
時間……二章が始まる直前
視点……マオ視点
酷く空気の淀んだ、薄暗い部屋だった。
酸素が薄く感じられるような密閉空間。だけどその部屋はバカ広く、その中央にぽつんと立派過ぎる椅子だけが置かれていた。他には、何も無い。
そんな、薄ら寒い魔王の部屋。こんな居心地最悪な部屋に辿り着く為に、世界中の選ばれもしない勇者は奮起しているのだ。
そんな事実がどんな喜劇よりも笑えてくるなんて、やっぱり俺は魔王なんだなぁと変な所で実感してしまった。
「魔王様」
「…………何の用だ、デルガオ。俺は呼んだ覚えは無い」
「俺も呼ばれた覚えなんか無いね」
不機嫌を露にして言ってやったのに、こいつはけろりと言い返す。つくづく人の神経を逆なでする野郎だ。口で勝てる気がしない。俺、こいつと性格的に合わないと思うんだ。
えー、皆さんはこいつを覚えているだろうか。きっと覚えていないだろう。分からない人は、番外編の一番最初の話。LOAD:001を呼んでいただきたい。そこに出てくる、嫌味な魔族がこいつだ。
「まぁ、成長したって聞いたので。媚でも売っておこうかな、と」
「……デルガオ。お前を呼ばなかったのが、俺の慈悲だと気付かなかったのか?」
「慈悲?」
「俺は、お前の顔を見ただけで、声を聞いただけで、お前を殺したくなる」
俺は、淡々と告げる。言葉に感情を一切込めないように。
すると、デルガオは興味深そうに聞き入った。その行為が俺には少し癇に障ったが、そこはあえて無視して、俺は続けた。
「ルイの髪の毛。それに似せた毛をあの部屋に置いたのは、貴様だろう?」
「へぇ? どうしてそう思ったんだ? 魔王様?」
「少し考えれば、馬鹿でも分かる。
ミーディアは、魔族が動き出したと言っていた。しかし、やってきたのは不自然に群れた鳥の魔物。あの魔物は、魔物使いが操りでもしない限り、群れをなすことは無い。
これだけ条件が揃えば、動き出した魔族、というのがお前だと言う事を想像するのは容易い」
デルガオは、肯定するかのようにククッとのどをならした。否定をしないということは、イコール正しいということと同じだ。
そしてこの仮定が正しいならば、この後の俺の推論も真実だということになる。
「本来のお前らの狙いは、あの魔道陣だ。あの部屋を知っていても不思議じゃない。
そして、何を考えたのか、お前は紅い毛をあの部屋へと置いて行った」
「That`s right!(※その通り!)
では第二問! 何故、俺はわざわざ紅い毛を用意してまでその女を嵌めようと思ったのか、分かるか?」
「魔族の考える事など、知った事か。大方、俺をからかおうとしたんだろ」
「またまた正解! いやぁ、魔王様はクイズもお得意なようだ」
「……デルガオ、お遊びもその辺にしておけ」
嗚呼、流石の俺も堪忍袋の緒が切れた。此処まで馬鹿にされて、我慢などできるだろうか?
ここで引き下がったら、魔王の名が廃る。否、男の名が廃る。
「お前は、俺を怒らせた。……この事を、忘れるなよ」
「ククク。肝に銘じて置きますよ」
デルガオは、大人しくこの部屋を出るために俺に背を向けた。
…………いろいろと不本意な所は残っているが、肝に銘じるというのなら、とりあえず今回は見逃しておこう。
そう、思ってすぐ。あいつは余計な事を言い出した。
「しかし。ここまでした俺を泳がすなんて、三代目は随分甘いと見える」
「……お前な、」
「それと、もう一つ。魔族が、全てあんたの部下だと思わない方がいい」
それだけ言って、デルガオはふっと消えた。瞬間移動、ね。面倒だ。
まったく、あいつは最後まで嫌な奴だった。
魔族というものは、総じてあんなものだ。何を考えているのか想像できず、自己中心的考えで、自分のやりたいことしかやらない。
そんな奴らの、トップが俺だ。つまり、俺はあいつら全員をねじ伏せなくてはいけないというわけだ。そんな未来の俺を少し想像。
――――いや、無理だろ。
これからの自分を少し想像してみて…………苦労している姿しか思い浮かばず、ついつい痛む頭を抱えたのだった。
――――嗚呼……。未来が、心配でならない…………。