LOAD:004 ミィのハーレムそのニ
時間……一章が終わってから、二章が始まる前
視点……レオン視点
夢を、見た。
そこは六年前の、我らの城。
六年間過ごしたはずの城が、壊れていく様を見て、自分はただ冷静になることができなかった。
普段は冷静なのに、冷静さが飛ぶことが多々あるのが、自分の欠点だ。
そして、自分の前に立つ、両親。
姉も弟も、そこにいる。
下がっていてください、と自分は皆に言うが、皆はただ笑うだけ。
ただ、優しげに笑って…………、
「レオンハルト」
「お前は優しい子だから」
「俺たちの希望なんだ」
「……幸せに、おなり」
優しげに、笑う。
そして、母上と姉上は、自分の足元に陣を組む。
説明を要求する自分に、家族はただ大丈夫だ、と言う。
光の中に、自分は消える。
幾千の夜を越えても。
幾万の朝を迎えても。
――――あの優しげな笑みが、離れない。
*****
カーテンから、朝日が漏れていた。
嗚呼、これでは完全に寝過ごしたな、と思い時計を見る。
時間はまだまだ大丈夫だったが、もしかしたら、自主的に毎朝している剣の稽古は出来ないかもしれない。
なんという失態だ、と自分を責める。
……、どうして、あんな夢を。
どうして、今更、あの日の夢を。
原因を思い起こしてみるが、考えうるのは一つしかない。
魔王と対峙したことだ。
そうだ、それしかない。
しかも、その魔王が告げた、衝撃の事実。
――――国を滅ぼした魔王は、すでに死んでいる。
この言葉を信じるならば、自分は、一体、何のために戦えばいいのだろうか。
魔王を消さなければ、サーディルグ国のような国がまた出るのは理解できるし、
そのために戦うという理由ができる。
しかし、国、そして家族の復讐という、自分の気を高ぶらせる為の理由がなくなったのは、大きい。
それほど、ショックだったのだ。
自分が目指していた目標が、既に存在していなかったのは、あまりにもショックだった。
…………、自分は、どうしたら、
「レオンさーん?」
こんこん、とノックされる自分の部屋の入り口。
自分は、開いています、と返事をした。
すると控えめにドアは開く。その奥にいたのは、ミィ殿だった。
「あ、あの、朝錬に来ていないので、様子を見てきてくれないか、と頼まれまして……」
恐らく、自分の部下が、朝錬に来ていない自分を心配してくれたのだろう。
そのために勇者を使ったのは、感心できないが、それでもその心遣いは素直に嬉しかった。
「すみません。すぐ行くと、伝えてください」
「あ、はい。…………あの、なんだか、顔色、悪くありませんか?」
顔色が悪い?
恐らく、あの夢を見てしまったからだろう。
「少し、悪夢を見てしまって」
「ええ?! 大丈夫ですか? あ、私でよかったら、話、聞きますよ?
夢を他の人に話すと正夢にならない、ってよく言いますし!」
自分に気を使ってくれるその心は、ほんとうに感謝したいが、正夢も何も、過去に起こったことだ。
正夢になる、どころの話じゃない。
しかし、ミィ殿は、それでも心配そうに夢の内容を尋ねてくる。
自分の夢をミィ殿に話すことで、彼女の心配が少しでも和らぐなら、と私は話し出した。
自分が王子であった事。
その国が魔王に襲われ、滅びた事。
家族に、場所移動の魔道によって、救われた事。
魔王に復讐する為に、この国の騎士になった事。
全て、順を追って話した。
そして、すべてを話し終わったとき。
俯く彼女は、泣いていた。
彼女の涙を見たとき、何故か、心がすっと落ち着いていった。
――――彼女は、泣いてくれている。
自分の為に、泣いてくれている。
その事実だけで、なんだか心が救われたような気分になった。
何故、そんな気分になったのか。
恐らく。許されたような気分になったのだ。
一人だけ生き残ってしまった自分を責める人間など、どこにもいなかった。
国民も、家族も、すべての人間が殺されたのに、自分だけが生き残ってしまった事に、少なくない罪悪感を抱いていたのは、自分でも自覚していた。
それを責め、だけど他人は誰も自分を責めない。
その事実が、また自分を苦しめていたのも、事実だ。
両親が、自分を憎んでいない事は、分かっている。
自分が幸せに生きて行く事を望んでいるのも、理解していた。
けれど、やはり、自分で自分が許せないのだ。
誰も救えず、そして自分だけが生き延びてしまった事が。
どうしようもなくやるせなくて、許せない。
そんな風に思っていた自分を。
自分でさえ、許せなかった自分を。
――――彼女が、許してくれたと感じたのは、何故なのだろう。
嗚呼、きっと彼女は、許してくれるだろう。
貴方は悪くなんて無い、と。
きっと、この方ならば、言ってくれる。
すみません、泣いちゃって、と彼女は涙を拭いながら言った。
「いいえ」
「それから、そんなこと、私に話してくれてありがとうございます」
いいや、感謝の言葉を告げたいのは、こちらだ。
――――自分の為に泣いてくれて、ありがとう。
心のそこから、そう言いたい気分だった。
本当に、有り難い。
そのとき、なんだか、胸がいっぱいになっていくような感覚を、私は覚えた。
「……ミィ殿、」
「はい?」
「自分の身の上話などで泣いてくれて、本当に感謝している」
「い、いえいえ、こちらこそ!」
「――――どうやら、自分に、戦う理由が出来たようです」
「ふえ?」
貴女の為に、戦いましょう。
この身を、貴女に捧げます。
――――貴女に、永遠の誓いを。