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LOAD:003 ミィのハーレムその一

時間……一章が終わってから、二章が始まる前

視点……ジナ視点



俺は、フィーア国で一番の黒魔道の使い手である。

魔道の使い手となると俺じゃなくなるが、黒魔道だったら間違いなく俺。

庶民生まれで、八歳の時に町外れに住む黒魔道師の弟子になり、その後王宮に仕えだした。

そして、三ヶ月で隊長に上り詰めたという、脅威のスピード出世をした男でもある。


ちなみに、モテる。

これは自惚れでは無い。

女の声が五月蝿い、なんて言う言葉を素で言った事もあるくらいだ。(言ってから、俺今すげぇ事言った! と興奮した)

女遊びが激しい、と言われたこともある。

自分ではそうは思わないが。本気になれないから、本気になれる女を捜してるだけだ。


そんな俺の名は、ジナ。


突然で申し訳ないが、話が変わる。

ついこの間の話なのだが、俺はいわゆる一目惚れというものを経験した。

相手は召喚された勇者。

ミィ・ユリ、と言う名前だ。


「ジナ君、ルイちゃん何処だか知ってる?」


この女は、正直な話、馬鹿だと思う。

何かを説明して分かっていた記憶が無い。

しかも、必ず歩くと転ぶ。

所謂、ドジ。


しかし、この女はこの俺が一目惚れするくらい、可愛い。

目は大きくて丸いし、頬はほんのり赤づいてて可愛いし、唇もいつもみずみずしくて、俺は常に触ってみた…………と、とにかく、人形のように可愛い女なのだ。


そして何より、笑顔が可愛い。

俺はこの笑顔に一発KOだった。

あれはやばい。まさに犯罪級。


……いろいろ話がそれた気はするが、これで、俺がどれだけこの女に惚れてるのか、分かってくれたと思う。


「ジナくーん? ルイちゃん、見た?」

「し、知るかよっ! あんな女!」


俺は、今まで女に本気になった事が無いのだ。

だから正直な話、こいつにどう接して良いのか分からない。

そのため、ついテンパって冷たくしてしまう。

……うう、俺のバカ。


「そっかぁ。何処に行っちゃったんだろ?」


しかも、最近気づいた事なのだが、ミィはルイのことばかりだ。

何にしても、まずルイ。

とにかくあの女が最優先。


それが少し、気に食わなかったり、する。

女にヤキモチなんかしてる訳じゃないが、それでも、なんか…………気に食わない。


「まあいいや。ジナ君にも話、あるし」

「俺に?」

「うん。ルイちゃんの、ことなんだけど」


きた。

話の内容は、だいたいわかってる。リン・マカでの、ルイを裏切ったときのことだろう。

ルイ至上主義のミィのことだから、なにか言われるだろうとは想像できていた。

しかし、俺は決して悪い事はしていない。

あのときああするのが、一番良かったのだ。

国のため、ひいては世界のため、今、勇者と言う存在を無くすわけにはいかない。

あれが最善だった。最善の策を実行して恨まれる覚えはない。

恐らく、いくらミィから問い詰められようと、俺はルイに謝ることはないだろう。

間違ったことをしていないのだから、謝る必要は無い。それが常識だ。

それはルイも分かっていることだろう。

あいつは、なかなか大人だ。その辺りの常識はきっと分かっているはず。


「ジナ君。私ね、ルイちゃんのこと、大好きなんだ」

「ああ。そりゃ、分かってるけど」

「うん。だから、ルイちゃんを傷つける人間は、大嫌い」

「……ああ」

「ジナくんのことも、レオンさんのことも、大嫌い。ルイちゃんを傷つける奴は、嫌いだよ」

「……ミィ。悪いけど、それは子供の意見だ。あの時は、ああするのが一番良かったんだ。最善を尽くして、それで責められるいわれは無い」

「? それ、どういうこと? 相手を傷つけたんだから、状況はどうあれ謝るのは自然なことでしょ?」

「いや、それは可笑しいだろ。その場その場の状況があるんだから、加害者が悪くないことだってある」

「悪くなくたって謝るのが普通でしょ? 悪くないから謝らないって、それじゃただの悪者だよ!」

「……? もしかして、それがミィの世界での常識なのか?」

「もちろんだよ! こっちじゃ違うの?」

「ああ。謝った人間が絶対的に悪者。だから、自分が悪くないと思ったら絶対に謝らないのが、この世界での常識」

「ふーん……。よく分かんないや」


そうか。大分、考えが違うんだな……。

世界が違うということは、人間が持つ常識も違うということ。

その世界の歴史も、状況も、何もかもが違うのだ。よくよく考えてみれば、俺たちの常識がミィ達に通じないのは至極当然。

だったら、俺が常識と考えていることは、彼女達には通じない。この世界の常識など、彼女らにとっては関係無い……。

悪くなくても謝るのが自然な世界に居たのなら、ルイにとって俺が謝らないのはただの悪意の塊にしか感じられない……?

じゃあ、もしかしたらルイは、謝らない俺のことをまだ恨んでいるかもしれないと、そういうことか……。


「とにかく、そういうわけだから、ルイちゃんに謝って」

「……いや、それでも俺は」


だって、悪いことは何もしていないのだ。それで謝るなど、納得できない。

ルイからしたらその返答では満足できないと分かっているけれど、それでも俺の常識はこっちだ。

俺のやり方を通させてもらいたい。


「……んっと、あのねジナ君。ルイちゃんはね、あの時確かに傷ついたんだよ」

「……」

「裏切られたことが悲しくて、傷ついたのに、ジナ君たちのこと恨んでないの」

「恨んで、ない?」

「ルイちゃんは大人で頭良いから、あれが正しかったって分かってるんだよ。その上優しくて心が広いから、もうジナ君たちのことを許してる」

「ああ、なるほど……」

「でもね、それでも傷ついたことに変わりはないんだよ。きっと、今でも気にしてる」


俺はその時、驚いていた。

何にって、ミィのルイへの理解にだ。

ルイはそういうところを表に出そうとしない。自分を隠そうとしているのだ。

それは、言い換えれば大人ということなのかもしれないが、周りからは誤解されやすく、理解されづらいということを示している。

だから。ミィがそこまでルイのことを理解しているのに、俺は少なからず驚いていた。


「ジナ君。私はね、ルイちゃんを傷つける人は大嫌い。でも、ルイちゃんはきっとそれを嫌がる。自分が原因で誰かの関係を壊すことを、怖がってるから。だから、私は表立ってジナ君やレオンさんを避けたりとか、しないの」


そうだったのか……。

ミィは、本来なら俺たちのことを避けてしまいたいほど、俺たちのことを憎んでいる。

でも、ルイのためにそれはしない。

結局、今俺がミィと話ができているのは、ルイのお陰ということ。

ミィの眼中にルイ以外の人間は居ないと、そういうことなのだ。


「私は二人を許せない。でも、ルイちゃんはそれを知ったら悲しむ。だから、せめて形だけでも二人を許したいから、ルイちゃんに謝って、て私は言ってるの。謝ってくれたら、とりあえず、あの事件のことは忘れるから。

 ほら、私バカだから、忘れるのは得意なんだ」


にっこりと、ミィは可愛く笑った。

いろいろ、考えているんだ。ミィはミィなりに、考えている。

それはすべてルイ中心の話だが、いつもの様子からは考えられないほど、いろいろ、考えている。

俺は今のミィに、息を呑んだ。


(いつもの、お馬鹿な雰囲気が無い……)


別に、ミィが裏表をつくってるとは思わない。

むしろ、いつも通り。ああそうだ。思い返してみると、ミィはいつもこんなんだったな。

ルイのことが大好きで、大好きな女の子。それだけ。

少しいき過ぎな気もするが、それは別にいい。友達想いなだけだ。

ミィは、実はただのドジっ娘じゃなかった。芯の強い、心の強い、女性だった。そうだ、それだけ。

ミィやルイと知り合ってからまだ間もないのだから、彼女の知らない部分があったって、当然。うん、そうだ。


「じゃあね、ジナ君。ルイちゃんに謝らないと、イジメちゃうからね?」


最後の言葉はどうやら冗談だったようで、彼女はいたずらっ子のような含みのある笑顔をしていた。が、そうは分かっていても俺には少なくない衝撃をあたえる。

だってつい先ほど、無視したいほど嫌いとカミングアウトされたばかりなのだ。

その言葉の何割かは本気に決まっている。

謝らなかったと分かったら、確実に避けられる。無視される。ハブられる。シカトされる。


エコーがかかったように、頭の中で俺を責める声が鳴り響く。

ミィはすぐに、にっこり笑ったままドアを閉めて部屋を後にしたのだが、俺はショックからなかなか抜け出せない。


究極の、選択だ。

プライドを捨てるか、ミィにイジメられちゃうか。

そんなの、もう答えは出ているようで……それでもなかなか捨てる覚悟ができなくて……。

ミィ。もう少し悩む時間を勝手に貰っても、いいだろうか?



ミィ・ユリとは。

彼女は馬鹿でドジで、ここぞと言う時に頼りにならない女の子で。

ルイのことが大好きで、何はともあれとにかくルイが最重要、最優先で。

実は芯が強くて、意外と思い切った女の子だったりして。

そして俺が溺愛している、最愛の片想いの相手である。

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