DATA:020 勇者と魔王
「ルイー! やっぱり、一緒に行かないのか?」
マオは、半泣きで私の両手を握った。
彼の左肩の上には、可愛くない魔物が居る。
ちょっと、不細工だ。
その魔物の名前は、スープ。……不味そうなスープだな、とか思ってしまったのは失礼だったかな。
で、その彼は、マオの分身に近い存在らしい。
決して魔王を裏切る事はなく。魔王が死んだ場合、一緒に死ぬ。
そんな存在。
実際には補助的な役割を担う予定らしい。
「うん。私、勇者のパーティとして頑張るって、決めたから」
「…………俺、やっぱりルイと一緒にいる!」
「駄目ですヨ! 魔王は、皆に顔を見せなくてはいけマセン!」
「細かい事言うなよ、スープ!」
「というか、勇者と魔王が一緒に行動するって言うのもどうかと思うしね」
「そうだよ! ルイちゃんにあんまり触らないで! 早くどっか行って!」
マオが大きくなった途端に何故か冷たくなったミィ。
もちろん、マオに対して、だけど。
そして、ミィの頭上にも、魔物が居る。
あの時ミィが手懐けた、鳥型の魔物だ。
ばっさばっさと、大きな羽で飛んでいる。
くちばしが尖っていて痛そうだけど、外見は大きなカラスみたいだ。
「うぅ……帰りたくねぇよぉ……」
「いいカラ! 行きますヨ!」
「ルイぃ……」
結局。
マオは、このまま帰す事になった。
理由は二つある。
一つ目は、魔王を倒しても意味が無い事が判明したから。
また新しい魔王が誕生するくらいならば、私に大分懐いているこのマオを生かしておいたほうが得策だと考えた。
そして、二つめ。
簡単に言えば、脅された。
突然空からやってきたスープが、魔王を返してくれと言ってきた。
当然、魔王の身柄を拘束しておきたいこちら側は拒否したが、そこでスープの一言だ。
「返さないと、世界中の魔族をあなた方の国へ送りマスヨ」
職権乱用だ。
しかし相手は魔王。ものすごく真実味がある脅しだったので、話し合った結果、仕方なくマオの身柄を引き渡す事にした。
「ルイ……」
「ほら、魔王になったんだからしっかりする!」
「……それ、勇者のパーティの人間が言うセリフじゃないよね」
「あ、魔王なら、もうマオなんて呼べないね」
魔王って呼んだ方が良いかな?
そう思って、マオの顔を見上げる。
しまった! 顔を見てしまった!
うぐぅ! ルイは20のダメージをうけた。
「……いいんだ」
「え? マオでいいの? でも、魔王なんじゃ……」
「ルイが、俺のことをマオって呼んだ瞬間。その瞬間から、俺の名前はマオなんだ」
「あ、そ、そう」
マオはずいぶん真剣な顔で言った。
な、なんか名前にこだわりでもあるのかな?
「そろそろ行きますヨ! 魔王!」
「マオだっつの!」
「はいはい! 分かりマシタ! だから、さっさとゴー!」
「スープ、面倒だなぁ……」
「王!!!」
「あ、ちょい待って! ルイ、耳貸して」
「ん?」
耳を貸すんなら、顔を見ないから大丈夫だ。
マオは、私の耳に口を近づけて、小さな小さな声で囁いた。
(……魔王と勇者は、運命の関係にあるんだ。……なーんか、引っかかんねぇ?)
え?
「じゃ、またな、皆! ルイを虐めるなよ!!」
そう言って、マオはスープと一緒に空へと飛んでいった。
私は良く分からない事だらけだったが、それでもとりあえず手を振っておいた。
そして。
この国でやることもなくなった私たちは、フィーア国に帰ることにした。
さまざまな事をアミラとシントに報告しなくてはいけない。
でも、ま、とりあえず。
一件落着、かな?
〜第一章 終了〜
ルイ・チハラ (千原琉依)
職業:赤魔道師
属性:赤属性
キャラ:ツッコミ
この物語の主人公。美形が苦手なのには、ちょっとした過去があるよう。もとは日本人らしい真っ黒な髪と瞳だったが、染めた為紅い髪になり、しばしば紅毛と呼ばれる。ちなみに、苦手度=美形度。何故か、魔王であるマオからものすごく熱狂的な好意をもたれている。