DATA:018 勇者と魔王
皆は、これで一件落着、と言ったような顔をしている。
あれ、ちょっと待って?
魔物が襲い掛かってきたりとかで、後回しになってたけど。
私、裏切られた事、忘れた訳じゃないよ?
「……謝罪の言葉も、ないんだ?」
私は、ジナとレオンに向かって言った。
彼らは少しばつが悪そうな顔をしたが、それでも取り乱す事は無かった。
「俺たちは、間違った事をしたとは思っていない」
そのとおりだ。
間違っていない。
でも、そのことは終わった訳だし。
万事解決するために謝罪……て、あった方が良いと思わない?
とりあえず落ち着いてみると、結構、酷いことされたと思うのだ。
今更ながら腹が立ってきた。
あんなにあっさり私を裏切るなんて、なんだか凄く心外だ。
あの言葉で、確かに私は傷ついた訳だし、謝罪の一言くらいあったって良いと思うのだ。
なのに、この二人と来たら、間違っていない、謝るつもりは無い、の一点張りだ。
流石の温厚な私も、ちょっとこの対応にはカチンと来るものがあるわけだ。
「あのさ、」
「おい、女」
そう呼んだのは、ミーディアだった。
なんだよ。お前に用はないんだけど。
「しつこいぞ。そいつらの判断は正しかった。それがすべてだ」
「すべて? ……あっそう。あんた達と私じゃ、価値観がずいぶん違うみたいね」
「そう言う事だ。何も、責任がジナとレオンだけに在るわけでもあるまいし。
お前にだって責任はあるだろう? そんな目立つ色の髪をしているからそうなるのだ」
「残念ながら、髪の色はアミラチョイスよ!」
何が悪い?
髪の色が赤で、何が悪い?
裏切られて傷ついて、何が悪い?
私に責任があるの?
私が傷ついた事は、私にすべての責任があるの?
もう、なんかいいや。
どうでもいい。
だって、こんなんじゃあ――――
そう思った私の視界に、誰かが映った。
誰だろう、と思ってよく見れば、それは、マオ。
あれ、そういえば、何時から居なかったっけ……?
「お前らっ! ルイに何やってるんだよ!」
やってきて早々、彼は三人に向かってそう叫んだ。
とくに、ミーディアに向かって。
さっきの会話を聞いてたのかな?
すごく、怒ってる。
「ルイを裏切ったくせに、偉そうなこと言ってんじゃねぇ!」
「なんだ、このガキ?」
「……俺たちが此処にいる理由だ」
ミーディアへ適当な答えを返すジナ。
それでもよく分かっていないミーディアへ、レオンが説明をする。
今思ったけど、レオンっていっつも説明係だな。
そんなどうでもいい事を思っている私の脳に、マオの声が響いた。
「ルイを責めるなよ! 何も悪くねぇだろ?!」
「何も、と言うのは少し違うな。そもそも、こいつが疑われなければこんな面倒な事にはならなかったんだ」
「疑われたのだって、ルイの所為じゃない!」
「それは、本人の意見だ。過程の話であり、結果には関係無い」
「あるだろ?! 少なくとも、こうやってルイが責められるのは、お門違いだ!」
マオは、必死になって私を庇う。
そして私を庇う言葉のすべてを、ミーディアは軽くあしらってかわしてしまう。
それでも、彼は叫びつづける。
……何のために?
嗚呼、そうか。
――――私の、ためだ。
「マオ、」
「ルイは悪くない! 何も、悪く、ない」
「マオ、いいよ、もう」
「良くない!」
「ううん。ほんとに、もう、いいの。大丈夫、だよ。
私が悪かったんだよ。私が、疑われなきゃ良かったの。それで、解決なんだよ」
私は、苦笑いをしながら、マオを宥めた。
ほんとにもういいんだ、と。
マオがやめてくれるように、願いながら。
私の為にそんなに頑張るなんて、しなくて良いよ。
馬鹿みたいでしょう。
私なんかの為にそんなに必死になるなんて、馬鹿みたいでしょう?
大丈夫、私は私の立場をよく理解しているよ。
こんなところで粘ったって、嫌われるだけだよ。
もっと、もっと、でしゃばらないで。大人しく、静かに、しなくちゃいけないんだ。
マオは、傷ついたような表情になった。
泣きそうになって、そして、悔しそうに唇を噛んだ。
「ルイは……っ、何も悪くねぇのに……!!」
「……マオ、」
悔しそうに、彼は呟いた。
感情を全て押し殺したように、心底悔しそうに。
まるで、空気すべてを憎んでいるような、声色だった。
「っ、もういい! お前らに、ルイは任せられない!」
「……? マ、オ?」
マオは、私の前に立って、ミーディア達三人を睨んだ。
……あれ?
何か、変。
違和感、が……?
マオの髪が、黒く、なっていた。
確かに、彼の髪は元は黒だった。
けど。あれ? 染めたんだよね?
なんで黒に戻ってるの?
確かに、ついさっきまでは黒じゃなかったのに……。
しかし、彼の変化は髪だけではなかった。
どんどん、身体が大きくなっていっている。
……え?
自分で言ってて違和感を感じた。
『身体が大きくなっていっている』?
何それ、そんなのありえないじゃない?
けど、そのありえないことが実際に起こっている。
彼はどんどん大きくなっていき、ついに、成人男性程度の身長にまで達した。
…………え?
「ルイは、俺が連れて行く!!」
このイケメンは……一体誰?