DATA:016 勇者と魔王
逃げ回る王様にメイドたち。
勇敢にも立ち向かおうとする兵士。
ジナとレオンも、鳥型の魔物へ立ち向かっていっている。
これは後から知った事なのだが、飛行能力のある魔物、つまりは鳥型の魔物というのは、大きく分けて二種類に分かれるそうなのだ。
群れを成すものと、そうでないもの。
そのうちの、群れを作る魔物の方は、どれもずいぶんと弱いらしく、一体では他の魔物に食べられてしまうとか(?!)。
ちなみに、私はこの話を聞いたとき、魔物にも食物連鎖の上下関係はあるんだ、と思ったものだ。
とまぁ、ひじょーに弱い魔物らしく、このタイプの魔物は余程でない限り、自分から人間を襲う事は無いそうなのだ。
そして、もう一方の、群れを成さない魔物。
こっちの方は一体で充分強い血筋らしく、ずいぶん好戦的で、人間を襲う事なんて当然らしい。
しかし、単独行動を好む型ばかりで、群れを作るという行為は、家族間でも無い。
そして、最重要事項の、今此処に居る魔物の型は。
群れを作らないタイプの鳥型だ。
そう。なのに、何故か大群で城を攻めてきた。
これは、世界的に考えても、異常な事態らしいのだが。
当然、このときにそんな知識は私には無く、ただ強い魔物が襲ってきた、程度に考えていた。
「ルイちゃん!!」
「ミィ?! あぶな――」
私に駆け寄ってこようとするミィ。
しかし、その後ろを魔物が襲ってきていた。
すさまじいスピードで、ミィの後頭部を狙う鳥。
ミィは後ろを振り向き、その鳥と対峙した。
ヤバイ、ヤバイよ。
ミィ、が。
ミィが、死んじゃう。
魔物の鋭いくちばしがミィに当たる、と思った瞬間。
その鳥は急に失速した。
そして、あろうことか、ミィの目の前で、ぴたりとその鳥は止まった。
ありえない事態だ。
魔物が、人間に対する攻撃を止めた。
……どういう、事?
「ミィ? 何したの?」
「わ、わかんない!」
どう考えても、何かの力が作用したとしか思えない。
魔物の鳥は、止まったせいで空中に浮く事が出来なくなったのか、ぽて、と地面に落ちた。
そして、ミィは驚いたのか、その鳥を抱えた。
ちょ! 危ないよ?!
「ミィ、止めた方が……」
「だ、だって! 何にもしないのに、飛べなくなっちゃったんだよ?何かあったんじゃ……」
「相手は魔物よ? 危ないって!まだ生きてるんだから……」
そう言った瞬間、魔物の鳥は唸った。
いや、唸ったというより、鳴いた。
むりやり人間の言葉に直すなら……グゥ?
「グゥグゥ」
「え? なぁに?」
「グゥグググーグ、グゥグァ」
「本当? でも……」
「グゥア。ググゥグッ」
「大丈夫なの? なら、頼むけど……」
私は、ミィが怖い。
魔物と話をしている。
っていうか、何の話?
すると、ミィの腕の中にいた魔物は、高く飛び上がった。
私たちの遥か頭上で、仲間割れをしている。
「ミィ……? さっきのって?」
「なんかね、あの鳥さん、私に力を貸してくれるんだって」
「力を貸してくれる?」
「うん」
というか、なんでミィは魔物の言葉が理解できるの?
謎だ。
しかし、ミィが手懐けた魔物のお陰もあってか、城へ侵入した鳥の数は目で見ても分かるぐらい減っていた。
そう思った、一瞬後の事だった。
この部屋に居るすべての魔物が、私とミィのことを見た。
え、え、ええ、ちょっと待ってよ。
何、この感じ?
これって、まさか……
その魔物たちは、一気に急降下してきた。
とても両手では数え切れない量の、槍のように鋭いくちばしが私たちに迫ってくる。
「一斉攻撃ですか?!」
「きゃああ!」
ミィは、頭を抑えて、その場にうずくまる。
そんなんじゃ、ダメだ。
身体が蜂の巣になっちゃうだけだ。
どうしよう、どうしたら、どうしたら助かる?
何をしたら、生き延びる事が…………
――――――白い、爆発だ。
ふと、思い出した声。
そうだ、ジナは言ってた。
体中のエネルギーで白い爆発を起こすイメージ。
白い爆発。
白い、爆発。
迫ってくる、くちばし。
爆発。
黒い鳥たち。
ミィの声。
薄暗い部屋。
命の危機。
すべてが黒。
その中にある、
白い爆発。
その時のことは良く覚えていない。
覚えているのは、魔道を使おうとした事だけ。
気が付いて上を見れば、……嗚呼。
良い天気だなぁ。
…………あれ?