DATA:015 勇者と魔王
ちょっと待ってよ。
何よそれ。
聞いてない。
こんな展開になるなんて、きーてないんですけどっ!
「早く答えろ! あの部屋で、何をしていた!!」
昨日とは打って変わって、迫力満点の王様。
怖いよ。昨日はゴマすりまくってたくせに。
「ちょっと、待ってよ……」
私は混乱しながらも、とにかく弁解しなくちゃと思って、弱々しい声を出した。
「なんで、私って決め付けるの」
「こんな色の髪の毛は、お前しかおらんだろう」
「分からないじゃない。外部犯かもしれない。私を犯人に仕立て上げる為に置いたのかもしれない。
もっと可能性は考えられるわ!」
「分からぬことを言うな! お前がやったのだろう!」
王様は、青筋を立てて怒り出す。
違う違う! 私は、ずっと寝てたよ! 本当だよ!
「違う! 私は、」
「ええい! さっさと白状せい!!」
王様は、目が血走っている。
本気、だ。
ちょっと待ってよ。
そんなことして、私になんのメリットがあるのよ!
周りを見てみると、その場にいた誰もが、私の事を犯人だと思って睨んでいる。
あ、これ、ヤバ。
「違う! 私は、あの部屋になんて一度も入っていない!」
「やかましい! なにが勇者一行だ!」
皆の方を見ると、ミィは慌てふためいている。
どうしてこうなったのか、よく、分かってないのかな。
マオも似たようなもんだ。
これ以上立場が悪くないように、と考えて、何も言わない。
そして、ジナとレオンは。
冷静に。
短く、話をしていた。
「ルイ! お前、やっぱりやったのか?!」
ジナの、突然の叫び。
ミィもマオも、驚いている。
当然だ。話し掛けられている私でさえ、何の話だか理解できない。
冷静なのは、ジナとレオンだけ。
「だからやめておけっていっただろう?! ミィ!」
「え? え?」
何の話だか分かっていないミィに、レオンが近づき、何も言わないように言う。
もちろん、マオにも同じ事を言うのを忘れずに。
「俺たちを襲った女なんかを仲間に入れるのは!!」
「?!! ちょ、ジナく」
抗議しようとしたミィを、レオンが慌てて止める。
私なんか、何が起こってるのかさっぱりだ。
え、嘘。
もしかして、私――――
「こういう風になるのが嫌だったから、俺は反対だったんだ! どう見ても、悪人面をしてるだろ!」
悪人面って。
……そんなに悪そうな顔してないと思うんだけど。
レオンを見れば。
申し訳無さそうな顔をしている。
……え?
ジナは。
悪いな、と。
目で語っていた。
私、キられた?
二人に……裏切られた――――?
つい、呆然としてしまう。ああ、私…………
もし、ここで勇者の仲間である私が犯人として捕まったら、勇者へと不信感が高まってしまう。
少なくとも、リン・マカでは、勇者一行に良い印象を持つ人間は居なくなるだろう。
だから、私が捕まる前に、私との関係をキった。
…………ジナとレオンは、冷静に、赤魔道師ではなく勇者との未来を選んだ。
悲しむ事なんてない。
だって、ジナとレオンの対処は、正しいんだから――――――。
マオは抑えるレオンの手を退け、レオンとジナと、向かい合う。
そして、叫ぶ。
「お前らっ! ルイを見捨てる気か!!」
マオが、そう、叫んだ瞬間。
この部屋の窓が、全て割れた。
窓ガラスは、勢い良く王の間全体に飛び散り、一瞬のうちにこの部屋の空気が変わった。
「きゃあああ!!!」
そう叫んだのは、誰だったか。
あそこの、メイドさんかもしれない。
割れた窓を急いで見れば、其処に居たのは。
到底数え切れないほどの、――――魔物。
「何これっ……!!」
「鳥型の魔物?! 奴らは、こんなに大群で襲い掛かったりしないのに……!!」
そう言っていた、誰かの声もよく聞いていなかった。
私は、ただ。
ただ――――裏切られたことが、ショックで。
難しいことを考えることが、出来なくなっていた。
嗚呼、私。
なんで、こんなにショック受けてるんだろ。
あそこで私をキったのは、間違いじゃない。
私を庇ったら、これからの勇者の仕事に、支障がでる。
だから、仕方なくジナもレオンも私を見捨てたんだ。
分かってる……分かってるのに。
胸の奥が、ぽっかりと穴が開いてる気がして、しょうがないんだ。