DATA:014 勇者と魔王
もし、これがばれてしまっても、仕方の無いことだと思って諦めよう。
そうだ、仕方なかった。
不測の事態なのだ。
まさか、こんなにも早く奴らが動き出すとは思っても居なかった。
だから予定よりも早く消すしかなかったのだ。
リン・マカの馬鹿どもがつくったこの魔道陣が、まさか此処まで私の手を煩わせることになるとは。
誰も予測していなかった事態と言っても良いだろう。
さまざまな不測の事態が重なったが、此処はこれで良い筈だ。
もう、心配はいらない。
明日の朝、騒ぎにはなるだろうが、犯人が見つかる事は無い。
私だと感づく者はいないだろうから。
この、めちゃくちゃな魔道陣を消した犯人は、決して見つかる事無く、フィーア国へと帰るのだ――――。
*****
私は、外の騒がしさの所為で起きてしまった。
しょぼしょぼする瞼を擦り、上半身を起こす。
何があったのだろうか?
半分寝ながら私は着替える。
あまりにも眠かった為、途中の記憶が無い。
寝ながら着替えるなんて、私って何て器用なんだ。
昨日と全く同じ服を着て、私は部屋を出た。
私は、とりあえずミィの部屋のドアをノックする。
すると、ミィはすぐにドアを開けて私を中へ招いた。
招かれるがまま部屋に入ると、そこには何故かレオンが居た。
え? 何で居るの?
「よかったぁ。呼びに行こうかと思ってたんだよ」
「ねぇ、なんでレオンが居るの?」
「ああ、さっきね、なんか騒がしいなー、と思って廊下に出たらたまたまレオンさんが居て。
それで、話を聞くために中にいれたの」
「あ、そうなんだ」
ジナ君は起こさないほうが良いし、ルイちゃんを呼ぼうかどうか悩んだんだよ?
ミィはそう言って、私をベッドに座らせた。
そして、私も話を聞く体勢をとる。
とりあえず、何かを知っていそうなレオンへ何があったのか尋ねる為に、顔は見ないようにして前を向く。
え? 何故顔を見ないかって?
カッコイイからに決まってるでしょう。
「で、何したの?」
「……この国の魔道師が協力してつくった魔道陣の話は、昨夜しましたね?」
ああ、ジナがぼろくそ言っていた、あれね。
円が歪んでるとか、いろいろ言ってたな。
あれが、どうしたって?
「その魔道陣が、一晩にして跡形も無く消えたそうです」
「魔道陣が? そんな事って、あるの?」
「あれの場合は、ただの墨の落書きですから。やろうと思って出来ない事はありません。
ただ、やはり人為的であること。それから、王宮内にある魔法陣だったことが関係して、騒ぎになっているそうです」
「そっか。国の魔道陣を消すような輩が王宮に忍び込んでる可能性があるってことか」
こくり、とレオンは頷く。
ミィも真剣そうに頷いているけど、意味わかってんの?
冷や汗をかいている辺り、分かってないんだろう。
すると、ミィの部屋のドアが控えめに、トントンと二回叩かれる。
どうぞ、というミィの声を聞いてからドアは開いた。
其処に居たのは、国の使用人、メイドさん。
彼女は此処に三人揃っているのを見て驚き、そしてすぐにその表情を消して、淡々と告げた。
「王が皆様をそろえるように、と。王の間へお急ぎください」
そして、彼女はすぐにミィの部屋を出る。なんだか、やけにバタバタしている気がするのは、気のせい?
彼女はそう言ってから、ジナの部屋へ急いだ。
ジナかぁ。あいつは寝起き悪いから、なかなか起きないだろう。
と思っていたけど、ジナは案外早く部屋から出てきた。
けど、大分機嫌は悪い。
そりゃそうだ。
今日もジナの部屋で寝ていたらしいマオは、すっきり目覚めました! というような顔をしている。
いいなぁ、寝起きがスッキリな人って。羨ましいよ……。
私たちは、五人揃って王の間へと急ぐ。
そして、昨日も来たこの場所へとついたとき待っていたのは、昨日と全く同じ。
王様、だった。
「……ここに来てもらったのは、ほかでもない。魔道陣の件だ」
ジナとマオは意味が分からない、と言ったような表情をしている。
その二人に、レオンが小声で教えているのが、視界の隅に映った。
「あの魔道陣があった部屋の隅から隅まで証拠を探した所、こんなものが見つかった」
そう言って、王様は右手をあげた。
その手には…………ん? 何を持ってるんだ?
大変見づらいそれは、どうやら毛のようだ。
紅く色づいている。
…………紅い、毛?
それって。
「紅毛のお前に問おう。あの部屋で、何をしていた?」
紅毛のお前って。
私?
そうだよね、今此処に私以外に紅い髪の人間はいない。
……え?
私、そんな部屋に入ったっけ?
…………記憶にございません。
「……わ、たし?」
嗚呼、神様。
何故、私にこのような仕打ちをなさるのですか?
※注意:神様をグーで殴ると宣言した人間の言う事ではありません。