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DATA:010 勇者と魔王

嗚呼、空が青いなぁ…………。



すみません。現実逃避をしていました。

この、微妙な空気に耐えられません。

昨日と同じように、野菜と一緒に荷車に乗る私たち。

だが、昨日と違うのは、全員が無言なところと、ピンク色の頭が増えている所だ。


「……ルイ、こいつ、なんなんだよ」

「うーん……盗賊?」

「はぁ?」

「あ、いや、なんか、リン・マカで顔が利くっていう奴で……」


私は、昨日ヴィーザからされた話を、そのまま話した。

いろいろと省略した所はあるが、話はそのまま伝わっただろう。


「ふーん、そうなんだ……」

「で、なんで俺らに手を貸すなんて言ったんだよ? その猫は」


上機嫌に私の肩に手を回す、猫ことヴィーザ。

ちょっ! 触るな! 近寄るな!


「いやぁ、ルイと一緒にいたくて!」

「……村の検問抜けたからって、調子の良い…………」

「やだなぁ、俺とルイの仲だろ?」

「どんな仲だっ!」

「ん〜、キスした仲?」


瞬間、固まる荷車の中。

一瞬の内に、この場の空気は零度まで下がった。


このクソ猫がっ!!


「嘘っ?! してないでしょ?! ルイちゃん!」

「してねぇよな、ルイ!!」


そして、攻め寄ってきたミィにマオ。

怖い。

いや、逃げられない。

しかし、言い訳をしなければ……!!


「し、してないよ…!!」

「キス、初めてだったんだな、ルイ」

「ヴィーザは黙ってて!」

「うっそぉ!! したの? したの?! ルイちゃん!」

「いや、だから、」

「意外とルイって胸おっきかったんだなー」

「この変態猫! 黙ってろ!」


余計な事をべらべらと…!!!

私がこんなに他人に殺意がわいたのは、人生で三度目です。

いや、事実だからなんともいえないけど……。


「あ、昨日の続きする?」

「近寄るな!」


なんかヴィーザがよって来たから、急いで逃げる私。

すると、私の前にマオが立った。

私を守るように両手を広げて、ヴィーザを睨んでいる。


「ルイに近寄るな、獣人ごときが!」

「……へぇ? 獣人を馬鹿にすんの? クソガキが」


途端に本気モードになったヴィーザ。

あれ? なんで怒ってんの?

っていうか、獣人て何?


「獣人って?」

「ヴィーザのような奴のことです。半分人間で半分獣。他にも、亜人とか半獣などと呼ばれたりもしています。

こいつは猫の半獣みたいですが、他にも犬とかリスとかいろいろ存在しています」


そう説明してくれたのは、レオンだった。

そうか、そんな人種がこの世界にはいるんだ……。


「ですが、獣人は人間から差別されやすいのです」

「差別?」

「はい。古くから、獣人は差別されやすい立場にありました。半魔物、などと呼ばれて」

「ああ、だからヴィーザは……」


こんなに怒ってるんだ。

そうだよね、そんな過去があって、その上あんな言い方されたら、そりゃ怒るよね……。


少しヴィーザを可哀想に思っていたら、すぐ近くから地響きのような轟音が響いた。

そりゃあもう、すごい音。

一瞬宙に浮くくらいの音でした。


急いで音がした方を見る私たち。

其処には、真っ黒の犬が居た。

いや、どう見てもワンちゃんには見えない。

そうか、これが、獣型の魔物、か。


「お、出たな」

「これが、魔物?」

「はい。魔物の中でも一、二を争うほど弱い魔物です。この程度なら、一瞬でしょう」


一瞬?

どうやって?


……待って。

何か、すっごく、一番大事なことを忘れてる気がする。


「行くぞっ!」


元気に先頭を切って走っていったのは、ジナだ。

あいつは、好戦的な性格してるからな。


……って、違う。

そうだ、すっかり忘れてた。

頭からすぽんと抜けてたよ。


私もミィも、戦闘能力ゼロだっつの!!


「きゃああ!!」


魔物が襲ってきて、ミィが叫んだ。

あ、ヤバ。


咄嗟に、私はミィを自分の体の下に入れるようにして、庇った。

すると、目の前にヴィーザが現れた。

一瞬で真っ黒な犬のような魔物を吹っ飛ばす。


ああ、助かった。


「あれ、ルイたちは戦わねぇの?」

「……いま気付いたんだけど、私たち、戦闘能力皆無でした」

「そ、そうだった〜。武器も無しでどうやって戦おう?」


私にもついにミィの馬鹿さがうつってしまったか。

馬鹿だ。

これじゃ、ただの足手纏いじゃないか?


「勇者一行じゃないのかよ」

「勇者一行だよ! むしろ、こいつが勇者だよ!」

「え、まじで?」

「まじ」


ほんとに吃驚してるヴィーザ。

どうしよう、どうしようどうしよう!

もう、ほとんどパニックに陥りながら、私はとりあえず皆を守らなきゃ、と思っておじさんを近くへ呼んだ。

マオも呼ぼうと思ったんだけど、何処にも居ない。

え?! 何で?!


「どうしようヴィーザ、マオが居ない!」

「はぁ? 死んだじゃねーの?」

「そういう事言わないで! 何処に行ったんだろう……」

「探す暇なんてねーぞ? ジナもレオンも単独で敵の数減らしてるし。俺一人じゃ、この人数守るのでさえ神業」

「……どこかに隠れてるのかな?」


さーな。

ヴィーザはそう一言零した後、腰に差していた短剣に手を伸ばした。

二つあるそれを、二つとも逆手に握って、構える。

どうやら、それがヴィーザの武器らしい。


すると、黒い犬がヴィーザに襲い掛かる。

ヴィーザは、それを右手のダガーだけでなぎ払った。

立て続けに襲ってくる黒い犬を、彼は両手の刃物だけで、すべてを戦闘不能へとしていく。


――――強い!!


そう思った。

しかし、今はそれどころではない。

マオ、は。何処に居る?


「マオー!!」


どれだけ大きく叫んでも、マオからの返事はない。

それでも私は呼びつづける。

だって、心配じゃないか。

こんな敵の群れの中に一人で居るなんて。


どれだけ辺りを見回しても、マオは見つからない。

けど、次第に敵の数は減っていった。

もうすぐ終わる……。


そう思って、気を抜いた一瞬。


爆発(ダムラ)!」


遠くの方で、ジナの声が聞こえた気がした。

あれ、なんだか、左半身が熱い。

そして左を振り向けば、灼熱の炎が私たちに向かって襲ってきていた。


……ジナの、魔道だ。


それも、半端無い大きさだ。

こんなのに当たったら、誰でも粉々だ。跡形もなくなるだろう。


「逃げろっ!!」


ヴィーザは叫んだ。

私たちは、必死になって走った。

おじさんは一目散だ。脅威のスピードで走ってゆく。

しかし、ミィは転んでしまう。

私もヴィーザも振り返り、ミィを連れて逃げようとする。

が、時既に遅し。

目の前には、爆発寸前の火の塊があった。


――――ああ、終わったな。


私は咄嗟の判断で、ミィを庇う体勢をとる。

だれかが舌打ちをして、私の隣りを駆けて行った気がした。

私たちの前にはヴィーザが居て、二つの短剣を構えていた。


あ、と思った瞬間には、ジナの魔道は綺麗さっぱり消えていた。


「……え?」

「…………セーフ」


ヴィーザは気が抜けたのか、べしゃ、と座り込んだ。

私とミィは突然消えた魔道のことで頭がいっぱいだ。


「……ヴィーザ、今の…………」

「短剣で切った」

「ああ、そう……」


私も、もう喋る気力が無い。

ジナが慌てて、大丈夫かっ? と走ってくるが、私はジナに対する怒りさえも湧いてこなかった。

放心状態だ。疲れた。


暫らくするとレオンもやってきて、どうやら、黒い犬は全滅したらしい。



「……馬鹿ジナ」

「悪い」

「…………死ぬかと思ったよ」

「ほんっとに悪い」


ジナは、誠心誠意ミィに謝った。

もちろん私たちにも謝ったが、ミィに謝る時が一番思いつめたような表情をしていた。

ああ、そうだね。ミィに嫌われたらあれだもんねぇ……。


「まぁ、この馬鹿のことは謝ってるし置いといて……」


ヴィーザは、腰をおろしたまま口を挟んだ。



「とりあえず、まずしなくちゃいけないことが発覚したな」

「ああ」


うん。そうだね。私も、そう思う。


「え? 何?」


ミィは皆に尋ねた。

そっか、分かんない?

だってさ、今回の戦いで一番足手纏いになったのって、誰だと思う?



「お前らが戦えるようになること」



…………神様。どうやら、修行編に突入しそうな感じです。




ヴィーザ

職業:盗賊

属性:無し

キャラ:変態・ケモノ


エロイ。変態。しかし、盗みの腕はぴか一。リン・マカでは中々顔の利く奴らしい。猫の獣人で、身が軽い。苦手度88。パッションピンクの髪に瞳。耳と尻尾はオレンジ。

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