DATA:008.5 勇者と魔王
俺としたことが、なんという失態だ。
後ろからは、この村の警察が追ってくる。
明るいライトが背中に当てられる。
これは、完全に姿を見られたな。
後姿だけだが、これは致命的だ。
此処で運良く逃げ切れたとしても、この村から逃げる時に何らかのカモフラージュをしなくてはいけない。
じっくりと俺のことを警察に見せとく訳にも行かないので、今まで走っていた屋根から飛び降りる。
よし、この辺りにはまだ奴らは来ていない。
くそっ。
こんなに必死に逃げてるのなんて、何時振りだろうか?
ああ、国宝級のダイヤを盗んだ時以来だ。
アレはいい稼ぎになったな。
なのに、今回はしょぼい女の手持ちの金だけだ。
あっちから誘ってきたから、こりゃ運が良いと思ってすぐにホテルへ行ったのがダメだったか。
反省点を挙げるなら、警戒が足りなかった。
まさか、あの女も俺と同業者だ何て、誰が思うだろうか?
あのクソ女、盗みが失敗したからって自分から警察に連絡するなんて、盗賊の風上にもおけねぇ。
ああ、せめてあいつの宝石のついたアクセサリーだけでも一緒に盗んでくるべきだった。
と、さまざまなことを後悔していると、前に光が当てられたのが見えた。
やばい、先回りされた。すぐさまくるりと百八十度回転し、すぐ横の狭い道へと入る。
しかし、どうせこの辺り一体を封鎖されているだろう。
ならば、最後の策だ。
ここは、盗賊らしく運任せ。
すぐ横にあった木造のボロそうな建物の二階の窓に手をかける。
そして、其処の窓を横に引けば、カラカラと小さな音を立ててすぐに開いた。
嗚呼、運が良い。
そして、すぐさま中へと入り、窓を閉めた。
警察のことは、あとは成り行き次第だな……。
残りの問題は、この部屋の主がどういう人間か、だ。
頭の固い人間ならば、迷わず警察に通報する事だろう。
反対に、かくまってくれるような人間なら、ばんばんざいだ。
……さて。今、この部屋に人はいるのだろうか?
「誰?!」
鋭く叫ばれた声。
声の主は、若い女。
暗いので確かではないが、珍しい、真紅の髪をしている。
――――――嗚呼、やっぱり運が良い。
「……犯されたくなかったら、少し静かにしてくれるか? ――――紅毛のお嬢さん」