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死にたくなる穴  作者: 南あきお
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プロローグ

挿絵(By みてみん)



Akkun:みんな、オハヨー(^∀^)



パソコンに向かい、今夜も素性も知らぬ電子旅人たちと会話をする。

会話といっても、いつもただ馴れ合っているだけで、会話自体の内容は非常に薄っぺらい。


でも、死にたくなる穴の最下層には落ちたくないので、こうやって寂しさを紛らわせている……。


僕がここ数年ハマっているのは、オンラインゲーム『ラファド・ファンタジー』だ。

元々はファンタジーRPGゲームのシリーズだったが、オンラインゲーム化され、今ではオープンワールドのオンラインRPGゲームとなって人気があるゲームだ。

オンライン化してからは、アバターがクリエイト可能になっていて、主人公である自分の分身が自由自在に作成できる。


このオンラインゲームでは、世界中の人々とパーティを組んで一緒に冒険ができる。

パーティメンバーと協力してボスを倒しに行ったり、ダンジョンやクエストをクリアしてゆくのだ。

もちろん、パーティメンバーとのチャットによる会話も可能だ。


僕は何度かこのゲームをクリアし、エンディングを見たし、レベルも高くなっていた。

正直、冒険して敵やボスを倒す事はやり尽くした感があるので、いつもチャットでいろんな人との会話を楽しんでいるほうが多くなっている。

僕はレベルが高いからか、新しくゲームを始めた人や、まだまだレベルが低くてクエストをどうしてもクリアできない人など、頼ってきてくれるプレイヤーもいる。

でも、惰性でプレイしているのは事実である。


ゲーム内でチャットを通して親しくなったプレイヤーも沢山いる。

よく僕の話を聞いてくれるOndyさんもその一人だ。

現実の世界で会った事もないし、性別は分からないけれど、メールアドレスの交換をして、ゲーム以外でのメールのやり取りもする時も極たまにある。



カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…………



Ondy:そろそろ落ちるわ。もう眠くなってきた(;´Д`)


Akkun:そうかぁ~(´・ω・`) じゃあ、おやすみなさい。


Ondy:あ、そういえば、この前Akkunから送ってもらったメールに添付されていたイラスト、凄く上手だったよ! プロかと思ったよ/(>o≦)ノ


Akkun:プロじゃないよ(´°ω°`) ただ昔、趣味で描いていただけだよ。プロになれるほど上手でもないし……。でも、褒めてくれてありがとう!


Ondy:もっと自信持っていいと思うけどなぁ。じゃあ、本当に落ちるね。おやすみね(^_^)/~~



時刻は深夜四時を廻っていた。


もう、こんな時間かぁ……。


会話相手を失った寂しさからか、なんだか無性にお腹が空いてきた。

……あぁ、何でもいいから胃袋に詰め込みたい。


僕は、いつもの如くコンビニに向かう。



こんな時間だ。

外は薄っすらと明るくなり始め、葡萄色の空が広がっている。

人の気配は無い。

居たとしても、新聞配達員くらいだろう。



自動ドアが開き、僕はコンビニの中に入る。

こんな時間だから、店の中はいつも店長らしき中年男性だけで、客は僕だけだ。


僕は値段も見ずに、とりあえず食べたいと思った物をカゴの中にどんどん入れていく。


弁当、おにぎり、パン、カップ麺、スナック菓子、お酒、ジュース、チョコレート、アイスクリーム、おつまみ……etc


漫画雑誌なんかも買っていく。

少年誌、少女誌、青年誌、レディース・コミック、主婦層が読む漫画雑誌など。

分厚くてページ数が多ければ、内容なんて二の次。

何だっていい。

どうせ、寂しさを紛らわせるアイテムに過ぎないのだから……。


レジにカゴいっぱいの商品を持って行く。

店長らしき中年男性が、何とも言えない絶妙な表情をしながらレジを打つ。


コイツ、こんなに買い物して……



(レジ打ち大変なんだよボケがッ!!)


(こんなに大量に食うからオマエはデブなんだよ!)


(過食症か? 可哀相だなぁ~)


(ありがたい! オマエ、売り上げにかなり貢献してくれてるよ!)



これらが混ざった表情だ。


でも、もう慣れた。

最初は気まずかったが、回数を重ねる毎に感覚が麻痺してきて、逆にこの表情を見るのが楽しみなくらいだ。


コンビニから家に戻るなり、すぐさま買ってきた物を片っ端から食べ始める。


弁当だって、箸なんか使わない。

全て手掴みだ。


餓鬼のように、次から次へと貪り尽くす。

味なんて分からない。

ただ満腹になれば、それでいい……。


二十分あまりでペロリと全てたいらげ、布団に包まりながら漫画雑誌を読み耽る。


そのうち睡魔が襲い、僕を夢の世界へと(いざな)う……。


翌日、目を覚ますのは夕方頃。

のそのそと布団から起き上がり、昨日食べ散らかした残骸を片付ける事から始める。


パソコンは常時立ち上げっぱなし。

毎日『ラファド・ファンタジー』にログインする。

いつでもプレイヤーはいるが、時間帯によってはプレイヤーが少ない時もある。

馴染みのパーティメンバーがチャットルームに集まるまでは、テレビを見たり、インターネットをしてるか、自慰行為をしているか。


そして夜から朝方にかけては、また『ラファド・ファンタジー』を一緒にプレイしてくれる人を探したり、チャットで馴れ合ったり、と、ふりだしに戻ったかの如く同じ事を繰り返す。


……僕は、誰が見たって駄目な奴だ。

こんな生活が良いなんて、微塵も思ってはいない。


いつからだろう?

こんな生活をするようになったのは……?

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