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夏の日  作者: きりもんじ
6/11

やっと着いた

いきなり行く気にはなれない。

ひとまず近くを回ってどこかで一息入れて、

まずは電話でもと大きく深呼吸をした。


立派なマンション群だ。夫と子供二人、

そしておばあちゃんの5人暮らし、

幸せそのものではないか。


このマンションなら4LDK以上はありそうだ。

分乗だろうか?賃貸だろうか?


夫はどんな奴だ?その両親はどこに住んでる?

うまくいってるかどうかも全く分からん。


マンション群の中央にスーパーがあった。

木蔭伝いに40℃の熱波の中をやっとの思いで、

スーパーに入った。涼しい!生き返った!


ここから電話をかけることにしよう。

トイレに入り頭を洗って大きく深呼吸をした。

冷静な自分がよみがえってきた。


『ここは千葉県の柏だ、娘と孫が住んでいる』

『俺はいったいここで何をしているんだ?』


もう一人の自分が現実の自分の一見おろかな行為に

ため息をついている。


『電話して3回コールして出なければすぐに引き返そう』

弱気な自分がそう言い聞かせていた。


もう一度大きく深呼吸をして腹を決めた。

『使命のためだ。選挙のためだ。勇気を持って壁を破れ』


階段下の電話機のところへ行く。やっぱりやめようか、

の心を抑えてポケットからテレフォンカードと手帳を出す。


受話器を回した、心臓が高鳴る。

『ブルルル。ブルルル。ブル(カチャ)』


「はい、今村です」

懐かしい元妻の声だ。

「あ、若林です。京都の」


「えー?どーしたの?なんで?今どこから?」

驚いて戸惑っている。いやな感じではない。懐かしい昔のままだ。


「選挙の応援に東京に来て、今すぐそこのスーパーの中」

「ええっ?そこの?」

「そう。先にいるかネットを確かめて、あまりの熱さだったから

ひとまずスーパーで冷やしてから、今電話してる」


「そう、今皆出払って私一人だけど、遠慮なく上がってきて」

「ああ、ありがとう。スイカでも買ってゆっくりと歩いていくよ」




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