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ここどこ?

 水のおかげで、のどの調子も治ったみたいだ。

 早く戻らないと。きっと待っているだろうから。

 「遅くなって、ごめんね。待った?」

 この薄暗い中でも、男の子の顔が、ぱっと明るくなったのが分かる。

 「ぜんっぜん待ってないよ!」男の子は、無邪気な笑顔を浮かべて、言った。

 笑顔がゆがんでいるように見えるのは、炎が揺れているせい?

 「よかった。じゃあ、続きを話すね」そう言ってから、どこまで話したかわからないことに気が付いた。

 「えっと・・・どこからだっけ?」

 「扉を開けたところ!」




 私は扉を開け、一歩踏み出してみる。突然の光に、目がくらむ。光が突き刺さってくるようで、痛い。自然と、涙が出てくる。


 少しすると、だんだん、外の光に目が慣れてきて、あたりの様子が確認できた。


 そこには、真っ青な大空と、草のない、薄い茶色の地面があった。白い建物が、たくさんある。その間をうねうねと這うように、茶色い地面は続いていた。ちょっと向こうで、茶色の道が見えなくなっている。そこで曲がっているらしい。


 私はもう一歩、というか、自分でも気づかないうちに2,3歩くらい進んでいた。


 上靴のまま、外の地面を踏むのは変な感じ。教室とか廊下の、かたい床しか踏まないから。それに、町の道ってほとんどコンクリートだから、グラウンドくらいしかないような気がする。


 ・・・ってあれ?さっきまで地下にいなかったっけ?


 私は、さっきまでいた場所を確認するため、後ろを振り返る。


 後ろに、扉なんかなかった。3方向を、白に近い色の塀で囲まれて、袋小路のようになっているだけで、本当に何もない。そして、塀は2,3メートルほどあって、向こうがのぞけない。


 私は、私が出できた扉があるはずの壁をぺたぺた触る。頭がぐるぐるする。


 「そこで立ち止まっていてもしょうがないよ」男の子の声がした。地下室みたいなところで聞いた声と同じだ。あの時は後ろから聞こえたけど、今は耳元で聞こえる。イヤホンか、ヘッドフォンを付けているみたいに、はっきりと。


実際、横を見ても誰もいないし、耳にも何もない。幻聴かなぁ?


 とにかく、前へ進むことにした。ここで考えていても、何も変わらないもんねー。くるん、と180度回転して、進んでいく。


 ここは、住宅街みたい。曲がっても曲がっても、同じような風景。白い塀に、茶色い土。青い空に、白い雲。ここら辺の塀はさっきより低くて、私の肩よりも、少し高いくらい。家の屋根はカラフルで、赤や青、緑とかもある。壁は白だけど。


 なんだか疲れてきた。どのくらい歩いたんだろう。


 のどが渇く。ここどこだろう。同じような景色ばかりで、方向が分からなくなってきた。目印になるようなものを見つけようと思っても、周りには、白、茶、青。あと屋根の色。上を見ても下を見ても、右も左もさっきと同じ。


 なんだかさっきよりも暑いような気がする。視界がかすむ。水が欲しくても、リコーダーしか持ってないし。制服だから、さらに暑い。地面がゆらゆら揺れているような気がする。空を見上げると、太陽が2つあった。右のほうに1つと、前方の高い位置に1つ。


 太陽が・・・2つ・・・?


 「え・・・?」見間違いかと思った。結構な距離を歩いて疲れたし、のどは乾いているし。幻覚が見えても仕方がない状況だもん。だけど、何回目をこすってみても、太陽はそこにいた。


 どうりで暑いわけだよー。太陽が2つあるんだもん。なんだか頭がすっきりしてきた。疲れものどの渇きも、少し吹き飛んだ気がする。


 あれ?なんで私ここにいるんだっけ?っていうか、ここどこ?


 この服は何?暑すぎるーー!


 この細長い袋は何?なんで私は、これ持ってるの?


 さっきまでの記憶が消えていく。すくった水が、手の中からこぼれ落ちていくみたいに。頭の中から記憶が落ちていく。わからなくなっていく。頭の中にクエスチョンマークがたくさん浮かんでくる。


 私は辺りをみわたす。答えを探すみたいに。私がここに存在していることを、確認するみたいに。


 ふと、左胸のポケットに、何かが入っていることに気が付いた。薄い水色の、カードのような、なにか。抜き出してみると、そこには黒い字で文字が書いてあった。右上には、赤い印が押してある。


 私は、その黒い文字を読んでみた。読んでみようと思った。でも、読めない。わからない。何かを思い出せそうで、思い出せない、変な感じ。仕方がないから、ほかのを解読してみよ。

 

 白樫 奈々子


 ふと、目の前に文字が飛び込んできた。何かが分かりそう!もうほんとに、ぎりぎりまで出かかってるのに!


 声に出して読んでみる。


 「しらがし、ななこ」


 頭の中に、電流が走ったような気がした。一瞬にして、記憶が戻る。戻ってきたというより、大量の情報が頭の中になだれ込んできたみたいで、なんだか気持ち悪い。


 記憶が戻るまでに、どのくらいの時間がたったかわからない。太陽の位置がさっきよりも低いような高いような?


ふと、後ろの曲がり角に人影が見えたような気がした。気のせい?ではないような・・・


振り返ってみると、陰に隠れるようにして、一人の女の人が立っていた。あの人に、ここが何処か聞けばわかるかもしれない!


 「あの・・・」そこで私はやっと、気が付いた。こっちをすごい形相でにらんでいる。近寄らないほうがいい感じ。少し上のほうを見ると、頭の上に、平べったい三角がついていた。ふさふさしていて、なんだか触りたくなる。


 「・・・あれ?」三角がぴくっと動いた。「やっぱり耳だ!」猫耳だぁぁ!それも本物!


 自然と腰のほうにも目がいってしまう。やっぱりある。しっぽ!今は、上に向かってぴんと伸びているけれど、普通の時はゆらゆら揺れているんだろうなぁ。猫みたい。


 「な、なんで?!なんで効かないのよー!」突如、女の人が叫びだす。私は驚いた。たぶん10cmはとんだよー。


 よく見たら、両手で何か持っている。形は懐中電灯に似ているけど、光っていない。なんだろう、あれ。


 女の人は、スイッチらしきところを、カチッカチッと音を立てて動かしているけど、特に何も変わらない。そのうち、ぽたぽたとしずくが懐中電灯にかかって・・・って、え?涙?泣いてる?


 「だ、大丈夫ですか?」私は心配になり、思わず聞いてしまった。


 「サ、サぺルギアに心配されてたまるかぁぁぁぁ!」急に叫びだしたから、私は吃驚した。


 サぺルギア?


 そして、手に持っていた懐中電灯みたいなのを投げつけてきた。気づいた時には頭にヒットしていて、よくわからないまま暗闇に落ちていく。闇の中で思ったことはただ一つ。


 サぺルギアって、何?




 「・・・終わり?」急に話が終わった。

 ぼくは恐る恐る聞いてみる。「主人公の女の子は死んじゃうの?」

 彼女はきょとんとして首をかしげた後、言った。

 「まだ終わらないよ。奈々子も死なない。でも、もう眠たいから」そして軽く微笑んだ。「そろそろ寝よう?」

 無意識に頭が、上下にこくりと動く。耳が赤くなっていくのが分かる。ぼくはそのままうつむいた。微笑みはずるい!可愛すぎるもん!

 「具合、悪い?」頭上から声が降ってきた。

 慌てて頭を上げると、本当に心配している顔で、こっちを見ていた。首を少し左に傾けている。

 ・・・かわいい!

 耳だけでなく、顔まで熱くなっていくのがわかる。

 「大丈夫だから、もう寝よっ!」

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