第2話 風呂は大切
決意を固めたオレは神様に話しかけようとした。だが、またオレの思考を読んでいたらしく、
「ん?どうするか決めたか?」
と聞いてきた。だからオレは、決意したことを口にする。
「はい。オレは神様の弟子になります。」
「おお!そうかそうか、では早速、」
「ですが、俺からも頼みがあります。」
「なんだ?言ってみよ。」
「オレに体をください。」
「何を言っておる。肉体は後でやると言ったろうに。」
「オレはすぐに肉体が欲しいのです。」
「すぐにだと?」
「はい、すぐにです。」
これを神様が許してくれるのかわからない。しかし、俺もこれは譲れない。
「理由を聞いても良いか?」
「体がなければ風呂に入れないからです。」
「風呂、だと、、、」
「はい、風呂です。」
そう、オレは風呂が大好きだったのだ。それはもう引くぐらいに。しかも、今の魂だけの状態だと、なにも感じないようなのだ。そんなのはつまらない。どうせ弟子になるのなら、楽しく修行したい。
(オレも、案外余裕あるな。)
「ハハ、ハッハッハ、風呂か!気に入ったぞ。よし、肉体はやろう。 だが、まだ普通体しかやれん。特別なのをやるつもりだからな。しばし、待て。」
「えっと、オレは普通のでいいのですが。それに、特別なものってなんですか?」
「まぁ、楽しみにしていろ。悪いようにはならん。」
「はあ、わかりました。神様がそう言われるのであれば待ちます。」
「よろしい。では、仮の肉体に魂を定着させるからな。」
そう神様から言われると同時に、視界が暗くなり、目を開けるとそこには、想像とは異なる50代ほどのダンディーなおじさんがいた。この人は、状況的にさっきまでの神様だろう。次に、自分の体を見てみる。きちんと体がある。前のオレより少しがたいはいいが、概ね前のオレの体と同じようだ。
「成功だな。」
「そのようですね。というか、その言い方だと失敗もあるんですか?」
「ま、まぁ一応はな。しかし、儂は神だぞ。失敗など万に一つもあるものか。」
目をそらしたり、どもったりしなければ信じられたのに。
「まぁいいです。成功したんですから。」
「そうだな。そういえば、お主自分の顔とかは確認せんのか?」
「えっ?何か変な顔になってるんですか?」
「いや、そういうわけではない。前のお主の顔と同じにしてあるぞ。」
「ならいいです、別に見なくても。」
「そうか、ならいい。よし、では早速始めるとするか。」
「もう始めるんですか?」
「そうだ。急ぐぞ。」
体を得て、1分も経ってない。さすがに急ぎすぎではないだろうか?
「待ってください、なぜそんなに急いでいるのですか?」
「ああ、話しておらんかったな。儂にはな、もう時間がないのだ。儂の魂の寿命は持ってあと1日という程度。お主に儂の技術その他もろもろを授けるのに5時間はかかる。」
1日で死ぬとか言ってるが、まだピンピンしてるし、5時間で修行済むんだとか、それぐらいだったら体も我慢できたとか、言いたいことがいろいろ出てきた。
(それに、なんでオレを助けてくれたんだ。5時間で済むことなら俺じゃなくても良かったんじゃないのか。)
「そんなもの、偶然お主を見つけた。それだけだぞ。」
また思考を読んで話しかけてくる。流石に少しやめて欲しい。
「あの、思考を読むのはやめてください。」
「なぜだ?」
「単純に嫌だからです。」
「?、、、仕方ないな、もう思考は読まないようにしてやる。」
わかってなさそうだか、一応やめてくれるらしい。
「ありがとうございます。それで、偶然とは?」
「偶然は偶然だ。まさか、、、偶然がわからんとは言わんだろうな。」
「偶然ぐらい分かります!はぁ、偶然かー。助かってるんだからいっか。」
「そんなことより、始めるぞ。」
オレには大事なことなんだが。何はともあれ修行っぽいもの、開始だ!