第6話 魔王
一歩も動けない状況で、目の前には振りかぶられた血塗れの剣。絶体絶命な状況にオレは目をつぶった。だが、一向に剣は降りてこない。不思議に思い、目を開ける。
「ルナ…」
「…コースケは、殺させない。」
そこには魔道具を起動し、オレを守るルナの姿があった。
「ふむ、これは厄介だな。儂の剣で貫けんとは。」
どうやら、この魔力障壁を破る事は出来ないようだ。だが、こちらもここから動けない。それに、オレは左手を落とされてしまっている。どうするか悩んでいると、ルナがオレだけに聞こえる大きさで話しかけてきた。
「…今から転移魔法を使う。」
「そんな魔法使えたのか?」
「…知識だけ。使った事はない。」
この状況で、確実性がないのは痛い。だけれど、オレはルナをしんじる。
「ルナならできるさ。頼むぞ。」
「…分かった。合図したら私の手を握って。」
「了解。」
ルナが魔法の構築に入る。魔法が完成するまでの間、注意をオレに向けるために神様に話しかける。
「なあ、神様。」
「なんだ?」
「あんたって、もしかして魔王?」
「いかにも、儂は魔王だ。最強の魔王、それが儂の正体だ。」
それならば、さっきオレがやられた時も、魔眼の力を使った可能性が高い。
「だからルナを狙うのか。」
「なに?」
「最強の座を奪われるかもしれないから。それを恐れて、ルナを狙うんだろ。」
神様改め、魔王は黙り込む。
「図星か。なんて情けない理由だ。」
「その口を閉じろ、実験台。」
「その実験とやらも、自分の地位を守るためだったりして。」
「どうやら死にたいらしいな。」
魔王が剣に魔力を流し始める。魔王が使っているのは魔剣だったようだ。魔王が全力で障壁を切りつけ、障壁にヒビが入る。魔王がニヤリと笑い、更に障壁を切りつける。更にヒビは広がり、次で割れそうだ。
「…コースケ、準備できた。」
「分かった。」
ルナの準備が出来たと同時に、障壁が破られた。
「実験台ごときが調子にのるからこうなるのだ。」
魔剣が目の前に迫る。だが、青白い障壁が魔剣を弾いた。
「なに、まさか⁉︎」
「誰が一つだけしかないって言った?」
ルナの魔法が発動する。魔王は魔剣を弾かれていて、ルナの魔法を止められない。
「またな、魔王さん。左手の礼はしにくるよ。」
空間が歪み、ルナとオレはそこに吸い込まれる。眩しくて目を閉じ、目を開くと森の中だった。ルナも隣にいる。
「…成功して良かった。」
「そう、だな…」
「…コースケ?」
ルナがオレの顔を覗き込んでくるが、オレは限界に達していた。体がふらつき、意識が朦朧とする。
「…コースケ!」
オレは意識を手放した。




