第10話 別れと旅立ち
この世界でする事も決まり、全てがひと段落した。やっとゆっくりできる、そう思った時、神様が透け始めた。
「どうやらそろそろ時間のようだ。」
「時間ってなんですか・・・まさか⁉︎」
「魂の寿命が来てしまった。」
神様がどんどん薄くなっていく。もうお別れの時間になってしまう。
「神様、オレはあなたに心から感謝しています。オレを救ってくれてありがとうございます。」
「偶然だがな。」
「それでも助かったのは確かです。ですから、安心してください。先ほど頼まれた事は必ずやりますから。」
「本当か?」
(なんでこんなにオレのこと信用してないんだ?)
「大丈夫ですって。何がそんなに心配なんですか?」
「いや、それならいいのだ。」
「そうですか。」
「それより、お主にこれを授ける。」
神様のブレスレットが輝き、一冊の分厚い本が出てきた。かなり年季が入っている。
「これは?」
「儂の全てだ。」
「全て、と言うと?」
「はぁ、やはりお主は物分りが悪いな。」
(な!今のでわかるやつなんているわけないだろ!)
そんな内心を押し隠し、本を開く。
「こ、これは!」
「どうだ、気に入ったか?」
そこにはミスリルやアダマンタイト、オリハルコンの精製方法。転移扉の仕組み。戦略級魔法を放つ武器の作製法など、神様の全てが詰まっていた。
「これをオレにくれるのですか?」
「うむ。お主を信じるからこそだからな。それとこれもやる。」
消えかかっている腕からブレスレットを外し渡してくる。
「これまで、本当に良いのですか?」
「どうせ儂はもう消える。消える者が持っていても意味はない。」
(やった!これでオレの研究が捗るぞ。)
素晴らしいものが貰え、舞い上がっていると、本格的に神様が消え始めた。
「神様、足が・・・」
「お別れだ。」
過ごした時間は多くないが、なぜか悲しくなる。
「神様、本当にありがとうございました!」
涙がこぼれそうで思いっきり頭を下げる。
(なんでこんなに悲しいんだ?)
異常に悲しい事に違和感を感じたが、その違和感もすぐに消えた。少しして、顔を上げる。その時には顔を笑顔に戻し、神様を見送る。既に神様は胸から下はなく、消え去る寸前だ。
「頼んだ事、任せたぞ我が弟子よ。」
「任せてください!」
「では、さらばだ。」
芝居じみた捨ぜりふとともに完全に神様の存在がこの世界から消えた。少し間余韻に浸る。心が落ち着いたところで行動を再開する。
「まずはブレスレットの中身の確認だな。」
このブレスレットは魔道具で、魔力を流せば使える。ブレスレットに魔力を流してみると中に何が入っているかが頭の中に流れてくる。
「これだけいろいろな物があればとりあえずは生きてけるだろ。」
ブレスレットの中には、食料や衣服が大量に入っていた。
「どうせここにいても仕方ないな。早速出発するか。」
荷物はブレスレットの中に入っているため手荷物もない。とりあえず自作の剣を腰に差し、転移扉を出す。
「二度目の人生、楽しみだ!」
扉を開け、新たな希望を胸に一歩を踏み出した。




