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総員!戦闘配置!

「ブーッ!ブーッ!」


 異常を知らせる警報ブザーが鳴った!


「艦橋、こちら戦闘指揮所。電探に感あり!左三十度、距離二万、潜水艦の司令塔らしい!」


「総員戦闘配置!」


「直ちに旗艦に報告!我、敵潜らしきを発見せり!」




 予兆は十分程前からあった。


 その時、電測員から俺に声が掛かったので戦闘指揮所に顔を出すと、水平線に波とは違う感度があると言うのだ。


 俺も一緒になって、表示画面を見ると確かに波間に感度が現れたり、消えたりしている。


 そこで捜索電探では、らちがあかないので目標捕捉電探(こちらの方が感度や精度が高い)で探してみろと言うと、今度は捜索電探からも消えてしまったのである。


 可能性としては、艦艇では無く潜水艦の司令塔などの電波反射の低いものが考えられたので、引き続き捕捉電探でその辺りを警戒せよと言っておいたのだ。


「駆逐艦竹より入電!我、電探に感あり。敵潜らしい!」


「通信員!艦隊電話はどうか!応答はあるかッ!」


 艦橋は喧騒の只中にあった。


 当直将校の俺は矢継ぎ早に報告を受け、命令を下した。


「どうした?敵潜かッ!」


 戸高艦長や航海長らが慌てて艦橋に上がって来た。


「はッ!只今確認中です!」


「艦橋、こちら戦闘指揮所。目標接近中、方位変わらず、距離一万八千!」


「旗艦摩周より入電!敵味方識別すまで撃ち方待て。以上!」


「艦長!お聞きの通りです。」


「うむ、総員、合戦準備夜戦に備え!砲雷撃戦用意!」


「見張り員どうか!まだ発見出来んのか!」


 水雷長が怒鳴った。


 この海域には味方の潜水艦も活動していた為、相撃ちだけはしてはならなかったのだ。


「電測員!逆探はどうか!」


「逆探に感無し!」


 今時の帝国潜水艦は全て電探を装備しており、夜間航行中であれば電探を使わない訳はなかった。


「う〜ん、まずは間違いないだろうが念のためだ。探照灯用意!」


「艦長!探照灯ですか?」


 俺は驚く様にして聞き返した。


 こちらから敵に、わざわざ我が艦の位置を教えてやるのか?と暗に問うたのではないかと思い艦橋に居た皆は、俺を凝視した。


 海軍では命令は絶対であり、命令の意味を問う事も厳禁とされていた。


 しかし、当の俺は聞き違いのないよう復唱したつもりだったのだ。


「砲術長!急げ!それと電探射撃の用意もな敵潜と判明次第、撃つ!」


「はッ!探照灯用意!目標左三十度、潜水艦!」


 俺はそう叫ぶと艦橋を出てトップへと上がり、戦闘指揮所へ繋がる伝声管を通して命じた。


「電探射撃用意!左砲戦、左三十度、潜水艦!」


「捕捉電探射撃準備よし!」


「一番砲塔、準備よし!」


「二番砲塔、準備よし!」


「探照灯、準備よし!」


 俺は十五糎双眼鏡を覗き込み、敵潜が居ると思われる辺りを探して見たが真っ暗闇の海上から、潜水艦らしき姿を見つけ出すのは至難の技であった。


 その時、三m測距儀から伝声管を通じて報告して来た。


「砲術長、左四十二度、距離一六五、潜水艦の司令塔を発見。」


 さすが、我が艦一の眼力の持ち主である。


 俺も双眼鏡をその位置に向け、星明かりを頼りにじっくりと探すとうっすらとではあるが、司令塔の影が見えて来た。


「測距儀、そっちから艦種の確認は出来んか?」


「はい、確か識別表の新しく配布されたものに載っていた、敵潜水艦のガトー級だと思われますがはっきりとは分かりません!」


「良し!艦橋!こちらトップ。潜水艦を確認!探照灯、照射します!」


 伝声管を通して艦橋に報告するとすぐ返事が返って来た。


「探照灯、照射はじめ!」


それを聞いて俺は、伝声管に探照灯員へ通じる艦内電話のマイクを近づけ、復唱と命令を同時にした。


「探照灯!照射はじめ!」


 その途端、パァッ!っと一筋のまばゆい光の帯が、暗闇の海面を真昼の様に照らし出した!


 いたッ!間違いなく敵潜である。


 ガトー級だッ!


「トップ!こちら艦橋!撃ち方はじめ!」


「撃ち方はじめッ!」


「てェーッ!」


 俺は艦橋からの号令を聞くなり、怒鳴って射手の國本先任曹長に命じていた。


 ドォン!ドォン!ドォン!


 たちまち我が艦の前後の高角砲が連射をはじめた!


 毎分六十発の砲四門が、毎秒四発の十糎砲弾を敵潜に叩き込んでいった。


 探照灯に浮かび上がった潜水艦の司令塔の周りに、おびただしい水柱が上がりたちまち水煙で敵潜は見えなくなってしまった。


「撃ち方待て!」


 水煙が収まった時、敵潜の姿はかき消えていた。


 俺はすぐ様、艦橋へ降り戦闘指揮所へ入り


「敵潜はどうか!」


 と聞くと


「両舷機関停止!取舵。」


 艦長が俺の顔を見てから艦橋に向かってに命令を発し、僚艦の竹にも機関を停止するよう通信員の藤一曹に命じた。


 水中音波探知機で敵潜を探る為には、艦から発する雑音を消さねばならなかったからだ。


「戻せ、宜候。」


「感有り!正面、近づく。」


 水測員が聴音機を、耳に押しあてながら報告をした。


「一、二番投射機、こちら戦闘指揮所、雷撃戦よーい。」


 水雷長が艦内電話で静かに命令していると、


「更に近づく、針路そのまま、距離一○○。」


「両舷前進微速。」


 艦長が敵潜へと艦を進めさせた。


 シーンと静まり返っていた艦にディーゼル機関の音が甦り、独特のリズムを刻み出すと艦はゆっくりと前進をはじめた。


「触接を失いました。」


「まずは距離を詰めるか、両舷前進一杯!」


 二式爆雷発射機の射程は二百mしかなかった為、十kmある敵潜との間合いを詰める事にしたのである。


 しかしこの間、聴音機は自艦が出すディーゼル機関音の為、ほとんど使い物にならないが潜行した潜水艦の水中速力はせいぜい時速十km程なので、だいたいの位置は特定出来た。


 十分後、艦長は機関を停止させ海中に潜む敵潜を探らさせた。


 水測員の大友一曹は、自慢の耳で聴音機から聞こえてくる雑音の中に、潜水艦特有のモーター音を捕らえた。


「感あり!右六十度、遠ざかる。」


「敵潜の位置を特定する、音波探信儀用意!」


 艦長は大友一曹に命じ、探信音を発信させた。


 ピィーン、…カァーン!


 一.三秒後に反射音が返って来た。


 空気中の音速は毎秒三百四十mであるが、水中は毎秒千五百mという速度で音波は進んで返って来るので、計算すると敵潜は千m先に潜行していたのだ。


「両舷前進強速、面舵!」


 我が艦は更に探信音を発しながら、敵潜が潜む辺りへ接近して行った。


「敵潜、浮き上がりつつあります。方位正面、距離五、深度二十。」


「まずいなぁ、苦し紛れに魚雷を発射して来るかもしれんな。」


 艦長の予言は間もなくして、的中したのである。


「敵潜!魚雷発射管を開けています!」


 それまで静かに報告していた大友一曹が、大声で言った。


「両舷前進一杯!」


「敵潜!魚雷を発射しました!」


 戸高艦長が叫ぶのと、大友一曹が悲鳴に近い声をあげたのはほぼ同時であった!


「爆雷!撃ち方はじめ!」


「一番!てェーッ!」


ドドドッ!


 二式爆雷発射機から三十六発の小型爆雷が、一斉に夜空へと打ち上げられた。


 爆雷が着水する前に艦の機関が唸り出し、一気に加速しはじめ敵潜へと向かって行き、打ち上げられた爆雷が弧を描いて海面へ落ちると、毎秒七mの速さで海中へと沈降して行き、一発でも命中すれば全弾が爆発するのである。


 が、しかし爆発は起きなかった。


 敵の魚雷も発射距離が短かった為、浅深度まで浮き上がる前に艦底を通過して行った。


「ちッ、続いて四番投射機!後方百八十度!よーいッ!」


 佐竹水雷長が艦内電話に怒鳴った。


「敵潜の位置はどうか!」


 水雷長の問いに、大友一曹が答えた。


「我が艦の真下!…、今、後方に抜けました!距離五十m、百m、百五十m!」


「てェーッ!」


 ドッドッドッ!


 艦後方にある爆雷発射機から小型爆雷が敵潜に向けて、再度発射された。


 ヒューン、パシャパシャパシャッ!


 すると間もなく腹に響く連続した振動が有り、海面が白く盛り上がると同時に無数の爆発音が聞こえて来た!


「やったゾーッ!バンザーイ!」


 艦内のあちこちから歓声が揚がった。


 二式爆雷は一発でも敵潜に命中すると、他の爆雷も全て一斉に爆発するのである。


「敵潜の様子はどうか?」


「はッ!まだ海中の雑音がひどく聴き取れません。」


 爆雷が爆発するとその辺りの海域は掻き乱され、水中聴音機は使い物にならなくなるのだ。


 しばらくして、大友一曹の耳に金属のきしむ独特の音が聞こえて来た。


「敵潜の圧壊音を確認!」


「確実に撃沈したか確認する、探信儀を打て。」


 佐竹水雷長が命じた。


 水中から返って来た探信音は、沈み逝く潜水艦の様子を我々に伝え深度が三百mを超えたところで


「間違いないな、戦闘終了!用具納め!」


 戸高艦長は号令を発し、大谷航海長に戦闘詳報の記入を命じた。


「ガトー級一隻を撃沈すとな。」


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