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「…?、砲術長!たった今見えてきました!敵潜が中央から真っ二つになって沈んで行きます!」
「そうかッ!やったか!戦術長、敵潜水艦の撃沈を確認!」
「戦術長了解!艦長、目標を撃沈したと判定します。」
「艦長了解。攻撃止め!対潜戦闘用具納め!通信長、司令部に伝達。我、敵潜水艦一隻、撃沈確実。となッ!」
我が駆逐艦松は、通算十二隻目の敵艦を葬り、意気揚々と旗艦に合流すべく北上を開始した。
「戦術長、我が艦での初の実戦は、いかがでしたか?」
俺は、艦橋を出て自室へ向かう長谷川大尉の後を追い、背中越しに先ほどの対潜戦闘の出来を聞いてみた。
「ん?…砲術長か。噂に違わず見事だったよ。さすが、我が海軍一の敵潜撃沈数を誇るだけは有るな。それもこれも艦長以下、君等の日々の演練の賜物なのだろう。」
「及第点を頂けたと思っておきます。」
「いやいや、世辞でも何でも無いよ。この艦の性能が素晴らしいのはもちろんだが、それを生かすのはあくまでも我々軍人なのだよ、香月大尉。どんなに優れた武器を持とうとも、それを間違う事無く正解無比に扱える兵が居なければ、それはただの鉄の塊に過ぎんのだよ。それを君等は、先ほどの戦闘で自分の手足の様に操った結果、撃破したではないか!少なくともそれは、褒め称えられるべきではないかね?」
俺は、その言葉を聞いて直立不動の姿勢をとり、長谷川大尉の去り行く背中に海軍式の敬礼をしていた。
翌日の朝、我が艦隊に激震をもたらす一通の緊急電が入った。
「発 海上護衛総隊司令部、宛 第五十一護衛艦隊。
情勢−七月二日未明、陸軍南方軍一部部隊ト連絡ガ途絶セリ。
○五五○、国防府ハ南方軍隷下ニ叛乱ヲ起コセシメル部隊有リト判断ス。
・各隊ハ令有ルマデ、現任務ヲ継続セヨ。
・各隊ハ令有ルマデ、警備ヲ強化、情報収集ニ努メヨ。」
「叛乱だとッ!?」
水雷長の佐竹大尉が一番先に声を上げ、艦橋内が色めき立った。
「こんな時期に一体、どこの部隊が起こしたというのだ!」
いつもは静かな航海長の大谷大尉までもが、珍しく声を荒げたのには、驚かされた。
確かに今、帝国軍は戦時という異常事態の真っ最中であり、ただでさえ強大な米軍を相手にしているというのに、陸軍の能天気さには呆れてしまい俺は、声を出すことも出来なかった。
「やはり、最近陸軍中央から排除された統制派の連中の仕業でしょうかねぇ。」
そう言ったのは、ついこの前まで陸に上がっていて中央の情勢に明るい長谷川大尉だった。
「まぁ、詳しい事は追って判るであろうし、我が艦隊には関係の無い話しだよ。それより、皆には騒がず、各自の職務に精励するよう伝達してくれたまえ、戦術長。」
戸高艦長は、静かにそう言うと腕を組んで目を閉じた。
それを聞いて艦橋に居た者達は、なるほどと思い直し、それ以降騒ぐ者は居なかったがしばらくして艦長の予言は、覆される事となったのである。