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「上空の木更津航空隊哨戒機より入電!我、敵潜ヲ見失ウモ当海域ニ潜伏ノ公算大ナリ、貴隊ノ健闘ヲ祈ル。以上!」
「旗艦摩周より入電!対潜警報発令。松、竹、梅、桃ハ主隊ヨリ分派シ敵潜水艦ヲ捜索、撃滅セヨ。現場指揮ハ松ガ行エ!」
「通信員、旗艦摩周へ打電。松、了解。コレヨリ、支隊ノ指揮ヲ執ル。以上!」
戸高艦長が旗艦への返信を命じ、
「総員、戦闘配置に付け!」
と号令をかけた。
俺は、いつもなら艦橋トップへと駆け上がるところだが、今日からは戦闘指揮所で第一分隊の指揮を執るので、艦橋のすぐ後ろの戦闘指揮所に入った。
間もなくして艦内電話を通して報告が入って来た。
「射手、配置良し。」
一等最初に、國本兵曹長が言って来た。
「測距儀、配置良し。」
本日付けで測距儀長となった、伊藤一等兵曹から元気な声が聞こえた。
「第一砲搭、配置良し。」
「第一銃座、配置良し。」
そして最後に、最後部に在る第二砲搭から配置良しが伝えられ、
「砲術科、戦闘配置良し!」
と俺は、艦橋から入って来た艦長に報告したのである。
それらの報告を聞いた艦長は、
「合戦用意、夜戦に備え!」
「戦術長、通信員に一○一駆逐隊全艦を対潜哨戒隊形作くるよう伝達してくれ。発動、二○一五とな。」
艦長から戦術長を介し、隊形変換の命令が発せられた。
現在の我が隊の隊形は、一本棒の一列縦隊であったがこれを横一直線に並べ、それぞれの間隔を三kmにする事で左右十km以上の海域の潜水艦を捜索出来る様にするのだ。
この隊形で強速の時速二十八kmを維持し、二十分間航行すると十×十kmの面海域の捜索が出来るのである。
この様にしてある地点を基点とし、敵潜の潜伏が予想される海域をしらみ潰しに探索して行くのだ。
しかし、これが又、とてつもない忍耐力を我々に強いるのである。
敵潜は、己を探し回る水中探信儀の音を聴いて、発見されじと艦の危険深度一杯に潜り、機関を止め、物音ひとつ発てずにじっと潜んでいるからだ。
「艦長、どうやら長丁場に為りそうですから、戦闘配置を哨戒第三配置にしませんか?」
戦術長の長谷川大尉が進言し、艦長はこれを受け入れ艦隊に配置変更の令が伝達された。
「砲術長、そろそろ四時間になりますが、ほんとうにこの海域に敵潜がいるんですかねぇ。」
しびれを切らし、佐竹大尉が俺に聞いて来た。
「ここは、辛抱するんが肝心だぞ。いざ、発見と成ったら貴様が引導を渡すんだからなぁ。」
その時、水測長の大友兵曹長が叫んだ!
「探信儀、感有り!三十度、距離五千!敵潜水艦らしい!」