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艦橋で俺は、甲板指揮を執り駆逐艦松は急速に出航の態勢を整えていった。
前部甲板では、水雷長の佐竹大尉が揚錨作業を指揮しており、艦橋にまで彼の元気の良い号令が聞こえて来た。
「艦長、旗艦より敵情についての詳細が送られて来ました。」
早速、戦術長の長谷川大尉が報告し、現状の把握に当たった。
それによると今日、新たに発足成った帝国空軍館山航空隊に所属する、哨戒機二式大艇改が基地帰投中、電探に不審な反射波を発見直後、逆探に我が軍では使用していない電波を受信し、すぐにその電波が消えたという報告が有り、付近を飛行中の木更津航空隊の哨戒機が現場海域に急行したが、発見に至らなかったと言うのだ。
「機関科、出航準備良し。」
「後部甲板、出航準備良し。」
「前部甲板、出航準備良し。」
「艦長、出航準備完了しました。」
各部署からの報告を受けた俺は、戸高艦長に報告すると
「了解。通信長、旗艦に発信、我、出航準備良し。時間、一七○五。となッ!」
間もなくして旗艦から出航命令が発令されると、
「出航用意!」
と艦長が号令を発し、高らかに出航ラッパが鳴り響いた。
前部甲板からは、先ほどにも増して佐竹大尉の威勢の良い号令が聞こえて来た。
「錨鎖放て!」
「左後進微速、右前進微速、取り舵。」
と艦長が号令をかけ、我が駆逐艦松は横須賀基地を出航し、帝国海軍海上護衛総隊に所属する第五十一護衛艦隊は、旗艦摩周を中心に綺麗な輪形陣を作り、敵潜のひそむ大島沖へと向かったのである。。
「それにしても、こんな近海に敵潜水艦の侵入を許すとは由々しき問題ですね、砲術長。」
航海長の大谷大尉が、海図を睨みながら俺に話し掛けて来た。
「ああ、ここ二、三日我が艦隊をはじめ敵潜を狩るべき艦隊は、ほとんどが横須賀基地に入っとったからなぁ、その隙を突いて来たんだろう。」
「って事は、空軍の哨戒機もあんまり充てに出来んちゅう事ですかねぇ。」
と我々の会話に水雷長の佐竹大尉が参加して来た。
「いや、満更役に立たんと言う訳でもなかろう。現に警報を発したのは、その空軍機なのだからなぁ、砲術長。」
と長谷川大尉も会話に加わった。
「ま、空軍の哨戒機は対空、対水上艦艇を第一に警戒しているからなぁ。潜水艦の様なちっぽけな目標は、専門の対潜哨戒機が出来るまで我が護衛艦隊に休んでる暇は無いって事じゃ。」
そう言って戸高艦長は、我々の会話に終止符を打った頃、我が艦隊は大島沖南五十kmの現場海域に到着していた。