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旗艦被弾!

 その弾幕は確実に敵爆撃編隊を捕らえていた。


 何故ならB‐17は先ほどの艦載機と違い、水平爆撃を行う為高度三千m辺りを機動もせずに真っ直ぐ我が艦隊向かって来たのだ。


 これは我が二式電探射撃管制盤が最も得意とする対空進入経路であり、たった十秒間で三百六十発もの効力のある十糎砲弾を敵編隊ヘと浴びせかけ、瞬く間に三機のB‐17を爆砕していた。


 それを見た敵爆撃機はワナワナと編隊を震えさせ明らかに怯え出しはじめた次の瞬間、敵編隊は算を乱して我先に回避行動を採り散開していったのだ。


「バンザイ〜!バンザイ〜!」


「撃ち方、待て!」


 艦内のあちこちから凱歌が挙がっていた。


 しかし、十機程の編隊が我が軍の弾幕をものともせずに向かって来るではないか!


「右九十度!爆撃機編隊!撃ち方はじめ!」


「てェーッ!」


 電測長の大倉上曹は以心伝心で残った敵機にすかさず照準を付けており、間髪を入れずに発砲する事が出来たのである。


 ドンドンドン―


 それまで耳をつんざく様な発砲音が、今では小気味良いリズムを奏でる太鼓の様に聞こえて来ていた。


「敵機!爆弾倉を開けました!」


 測距儀員の伊藤二曹が悲痛な声で叫んでいたのだ。


 今頃になってようやく、敵爆撃機に弾幕が覆いはじめていた。


「急げ!」


 俺はすぐに連続射撃を命じたが、その間にも敵編隊は爆撃進路を取りつつ、遂に爆弾を放ちはじめた。


 次の瞬間、十糎砲弾が敵機を捕らえ次々と命中し、爆散していったが時すでに遅しであったのだ。


 敵爆撃機からは爆弾が全て放たれ、我が艦隊に向かって降り注いで来たのである。


 それを見極めて我が艦は、取り舵を採り左ヘと急回頭をしはじめた。


「先任!我が艦はなんとか、かわせるな。」


「ですが砲術長!あれを!」


 その声で俺は慌てて後ろを振り返った!


 なんと、旗艦摩周が右に回頭しているではないか!


 俺は百個余りの、二百五十kgと思われる爆弾が迫り来る大空を再び顧みて、その落下経路を目で追い摩周がそれから逃れるよう天に祈った。


 刹那!


 爆弾が海面で炸裂し始め無数の水柱が上がり、水煙で摩周や他の艦も見えなくなった、次の瞬間!


 水煙の向こう側の明らかに海面より上で、爆発が起こったのが見えたのだ。


 二、三秒程して金属がぶつかり合う爆発音が聞こえ水煙が収まった海上には黒煙を吐く、旗艦摩周の姿があったのである。


「クッソーッ!やられたかッ!」


「撃ち方辞め!」


 艦長から射撃中止の命令が下ると同時に俺は撃ち方辞めの号令をかけ、辺りに敵機の居ない事を確認して艦橋へ駈け降りた。


「摩周被弾、通信途絶により我が艦が艦隊の指揮を採る!全艦、摩周を中心に輪形陣を作れ、各艦は被害状況知らせ。」


「駆逐艦竹、梅、桃より入電。我に被害無し。第五十二駆逐隊より入電。我が隊はいつでも戦闘可能成り。以上!」


「電測長、こちら艦長。周辺空域の状況知らせ。」


「半径三百km以内に、接近する航空機無し!」


 艦橋は慌ただしく各艦とのやり取りがされており、双眼鏡を覗く佐竹水雷長に話かけた。


「摩周の被害状況は分からんのか?」


「はぁ、それが見る限りでは船足も衰えとりませんし、あ!今、発光信号を発しました!ワレ、ソンガイケイビナリ、サレド、ツウシンニ、シショウアリ、マツガ、カンタイノ、シキヲトレ。以上!」


 帝国海軍において独断先行は陸軍と違い厳に戒められており、先ほどの戸高艦長の判断はこれに当たりかねない微妙な問題であったのだ。


 しかし、艦長は迷い無く即断し命令を発したのである。


 戦闘という異常事態では、最悪の状況下で瞬時に最良の選択をせぬば負けるのであって、それはすなわち自らの死を意味するのだ。


 この旗艦被弾という緊急事態において的確な判断を下した、戸高一少佐を俺は信頼に値する上官だと思うと共に、自分の命を預けられる人にやっと出会えたと思ったのである。


 海軍軍人は星の数ほど居れど、俺は今まで自分が納得できる様な上官に恵まれず、これまで数々の艦を渡り歩いて来た。


 それが帝国の命運を掛けたこの大東亜戦争において、ようやく長年の念願が叶ったのだ。


「航海長、操艦を任す。通信員、第四艦隊司令部へ打電、我、旗艦に被弾すも作戦続行に支障無し。更に全艦に伝達、我が艦隊は作戦を続行す各艦はその責務を全うせよ。以上!」


 戸高艦長は矢継ぎ早に命令を下すと、俺と佐竹水雷長に一緒に戦闘指揮所に来るよう声をかけ艦橋を後にした。


 俺達が戦闘指揮所へ入ると艦長は機関科ヘと連絡し、安藤特務少尉を呼んでいたのだ。


 俺にはなんとなく艦長の考えが解りかけてきた。


 間もなくして安藤少尉が戦闘指揮所に入って来ると艦長が口を開いた。


「諸君、しばらくの間我が艦が艦隊の指揮を執る事になった。そこでここに仮司令部を設け、各員に艦隊運用を行ってもらう。香月大尉は艦隊防空対艦指揮を、佐竹大尉は艦隊対潜指揮を安藤少尉は機関運用管理をそれぞれ任じる。慣れない事とは思うが艦隊司令部機能の復旧までの間は、我が艦が艦隊の全責任を負うのだ。心して当たってもらいたい!以上カカレ!」


 それから俺達は大わらわで艦隊司令部の代行をしたのだが、これがまた結構大変な仕事であったのだ。


 まず俺は、電探により近隣の空域に不審な航空機が居ないか大倉電測長に確認し、艦隊直衛役のラバウル航空隊の烈風以外は先ほどの敵爆撃機編隊が、我が艦隊より遠ざかって行くだけである事を聞いて当面の脅威が無い旨を戸高艦長に報告した。


 その後、敵機侵入時の各艦の射界を再度それぞれの艦に伝達し、合わせて旗艦摩周の戦闘機隊の状況を機上無線電話で問い合わせさせた。


 すると、摩周の状況が搭乗員を通じて明らかとなってきたのである。


 摩周は操艦に支障は無く機関、船体共に無事であった。


 しかし、唯一被害を受けた所が艦橋の無線室を含む戦闘指揮所であったのだ。


 なんたる事か!


 たった一発の二百五十kg爆弾がよりによって艦橋後部に命中し、艦隊指揮の中枢部を破壊したのである。


 これはどの艦でも同じ構造である為、どの艦でも起き得る事を示していたのだ。


 とにかく、摩周の飛行甲板にはほとんど被害は無く艦載機の運用は可能であったので、直ちに直衛機を上げるよう命令した。


 なにせ今、上空に居るラバ空の烈風は先ほどの迎撃戦で弾切れの機がほとんどなのだ。


 そうこうしている所へ、旗艦摩周から復旧した艦隊無線電話で被害の詳細を伝えて来た。


 それによると通信機能はある程度回復したが、各種電探はまったく使用不能であり、何より司令部要員のほとんどが被弾時戦闘指揮所に詰めて居た為、死傷者が多数出ており、しばらくどころか本作戦中は、我が駆逐艦松が艦隊の指揮を執るよう重傷を負った原司令から正式に命が下されたのである。


 いよいよこれは本腰を入れねばと思っていた矢先に、電測長の大倉上曹が北方より編隊が接近中である事を、我々に知らせたのだ。

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