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対空戦闘

「てェーッ!」


 國本曹長が怒鳴りながら引金を弾くと、一番、二番砲塔の十糎連装砲が勢い良く火を噴きはじめた。


 ドドン―


 一斉射分の遅延信管付きの十糎砲弾四発が、敵雷撃編隊へと秒速九百mで放たれると、僚艦の竹と桑もほぼ同時に発砲を始めたのである。


 すると敵機の手前に真黒い弾幕が四つ現れ、他の艦の弾幕もそれに続くと十六機程の敵編隊に乱れが生じ、その内の何機かがたまらずに機首を上げた。


「遠二! 急げ!」


 手前で炸裂した弾幕を見て、とっさに出した俺の近弾修正号令で我が艦砲が一斉に速射を始めると、僚艦も同時に連射を始めたのである。


 今度は敵編隊の周りで、無数の我が砲弾が炸裂し出したではないか!


 途端に数機のTBDが、火を吹き海面へ堕ちて行った!


 その後の二十秒間の射撃で我が艦だけで八十発、他二隻の僚艦から百六十発、計二百四十発の砲弾が迫り来るデバステイター編隊へ叩き込まれたのである。


 この時点で、我が艦隊へ更に突進を続けて来る敵機はまだ十機程あり、降り注ぐ弾幕をものともしない米兵の攻撃精神の旺盛さに、俺は驚きを覚える共に闘志が湧いてきた。


 ここで奴らを殺らねば、こちらが必殺の航空魚雷を喰うのだから!


 最初の二十秒間の射撃で、我が長十糎砲弾は落下式弾倉に用意しておいた即応弾を使い果たし、人力による給弾で二秒に一発を射撃する低速射撃となってしまって、敵機への砲弾投射量が減った反面、接近して来た雷撃機への照準が正確になってきており、十kmにまで近づいた敵機には恐怖の弾幕と成りつつあった。


「更に!急げ!」


 俺はあまりの命中率の悪さについつい力が入り、あらぬ号令を掛けてしまった。


 各砲塔では、砲員達が精一杯の給弾を行っていたのであり、彼らも自分達の努力が自ら艦を救う事になるという結果を知っていたのにである。


 すると、それらの念か通じたのか立て続けにTBDデバステイターが火を吹き、次々と墜落して行ったのだ!


 残った敵雷撃機はその様子に、たまらず航空魚雷を投下し回避しだしたのであった!


「よし!撃ち方待て!次はッ!」


 俺は右へと別れた敵雷撃機を探したが、我が艦の迎撃射界から外れていた為、上空から接近している急降下爆撃機へ視線をやった。


 すると敵機は二つの編隊に別れ左十度、距離五千m、高度五千m辺りから今、まさに急降下を開始せんとしているではないか!


「電探射撃ッ!左十度、左爆撃機編隊、撃ち方はじめッ!」


 俺の号令で前後の高角砲が砲身を上げ、敵急降下爆撃機へと照準を付けた!


「トップ、こちら戦闘指揮所。目標捕捉ッ!準備よしッ!」


「てェーッ!」


 ドドンッ―


 五秒後、降下をはじめた敵艦爆編隊のやや右側に四つの弾幕が花開いた。


「左よせ二!急げェーッ!」


 するとSBD編隊が乱れ、あらぬ方向へと機首を翻したのだ。


 と次の瞬間ッ!敵艦爆へ突っ込んで行く我が戦闘機、烈風の姿が飛び込んで来た!


 ドンドンッ―


「撃ち方待て!」


 一瞬の間に、二斉射程の我が砲弾が放たれてしまったのである。


「南無さん!」


 そう叫んだところへ、先ほどまで敵機の居た空間に運悪く、烈風数機が突入して行った!


 パッパッパッ―


 俺は思わず目をつぶった。


「砲術長ーッ!味方機が!」


 國本先任の悲痛な叫び声で目を見開き、弾幕に視線を送ると一機の烈風が黒煙を吹き、ガクンと機首を下げ降下しはじめたのだ。


 なんたる事かッ!


 よりによって味方を撃つとは!


 その堕ちて行く戦闘機に、一機の烈風が寄り添う様にしているのが見えたので、俺は双眼鏡にしがみ付き慌てて覗いて見た。


 すると、被弾した機の搭乗員が盛んに手を振っているではないか!


 その機は発動機が今にも止まりそうであったが、なんとか機首を上げはじめた。


 それに近づくもう一機の烈風の搭乗員は隊長らしく、下を指差し盛んに何かを叫んでいる様だ。


 どうやら無線機がやられ、手信号でやり取りしているらしい。

  

 あの様子では、恐らくラバウルまで行き着く前に墜落してしまうのは間違いなく、俺が痛烈に責任を感じはじめていると、途端に我が艦が回頭をはじめ、風上の北に向かい速力を上げ出した。


 俺はもしやと思い、旗艦の摩周を見ると飛行甲板上になにやら網が張られているではないか。


 あれは確か、艦載機の着艦失敗時に海中への転落を防止する防護網だったはずだが?


 なるほど!


 あの機を収容しようというのだ!


 しかし、未だ敵艦載機の攻撃が続いており、っと上空を見上げて視るとそこには敵の姿は無く、いつの間にか我が戦闘機隊により敵機はことごとく、駆逐されていたのだった。


「トップ、こちら戦闘指揮所。左九十度より敵編隊接近中!距離二○○」


 真西から敵機だと!


 多分、ポートモレスビーからの大型機であろうか。


 それにしてもまだ距離があるから烈風が着艦するまでは心配はいらないであろうし、他の烈風がいるではないか。


 烈風が着艦すべく高度を下げ、摩周の後方から近づいて来た。


 俺は身を切る思いでその様子を見つめていると、見張員が報告してきた。


「右百二十度より、編隊!摩周の零戦隊と思われます!」


 我が艦から見て丁度、摩周の向こう側の高度五千m辺りを、編隊を組んで帰って来るのが見えてきた。


 だが、出撃した時よりもかなり数が減っていたのは遠目で見てもすぐに解ったのだ。


 彼らの中には空中戦がこれが初めてという、ヒヨッ子搭乗員も多いと國本先任から聴き及んでいたが、恐らくは敵艦戦と激しく渡り合い喰われてしまったのであろう。


 双眼鏡で我が艦載機編隊を視ている間に先ほどの烈風が着艦態勢に入り、摩周の艦尾から近づき車輪が着いた次の瞬間、プロペラが止まり網に突っ込んで機体が停まった。


「上手くいきましたね!砲術長!」


「あぁ、本当に良かったなぁ。」


 俺は心の底から熱いものが込み上げ、泣きたくなるほど嬉しかった。


 味方の砲弾で友軍機を撃墜したうえ、搭乗員まで死なせたとなれば一生後悔して往かねばならぬと思ったからだった。


 間もなくして烈風は、損傷が激しい為か飛行甲板から海中に投棄され空中で旋回していた零戦隊が次々と着艦を始めた。


「戦闘指揮所、こちらトップ。西方の敵編隊の距離知らせい。」


「こちら戦闘指揮所。敵編隊との距離五○、只今ラバウル航空隊が檄撃中成り!」


 敵艦載機をあっという間に蹴散らした、あの烈風隊が迎撃しているのであれば安心して良かろうと思っていると、あろう事か彼らが撃墜に手こずっているというのだ。


「それは敵艦載機を追い回している内に、二十mm機銃弾を使い果たのでありましょう。残った十二.七mm機銃ではなかなか撃破が難しいのではないでしょうか。相手が重爆のB‐17であれば。」


 と國本先任が横で丁寧に解説してくれた。


 しばらくすると西の高空にB‐17と思われる編隊が接近して来るのが遠望され、双眼鏡を覗いて視ると確かに烈風が盛んに攻撃を仕掛けているが、烈風の両翼からは発砲炎は見えず機首からか細い機銃弾を射撃しているのが見え、爆撃機からは一向に火も吹かず煙も吐かなかったのだ。


 やはり國本先任の言う通り、空飛ぶ要塞B‐17フライングフォートレスはその名にふさわしい防御力持つ、爆撃機であった。


「トップ、こちら戦闘指揮所。摩周より入電、命令有るまで発砲を禁ず。以上!」


 当たり前である!


 たった今、誤射をしたばかりであったのだから。


「測距儀、まだ距離は測れんか?」


「はい、もう少し近づいてくれませんとダメであります。」


 伊藤二曹が自慢の裸眼の持ち主でも、三m測距儀は二十kmを切らねば距離を測る事が出来ず、歯ぎしりしながら答えた。


 すると、敵爆撃機を反復攻撃していた四十機のラバウル航空隊が潮が退く様に、敵編隊から離れて行くではないか。


 それを見たB-17は我が艦隊への爆撃の為、それまでの密集態形から散開し始めた。


「それでもラバ空の連中は良くやってくれましたよ。なんせ当初五十機と言われていた編隊が、あの様子ですと三十機そこそこですから。」


 海軍では約何機という言い方はしないのである。


 何故ならば約三十機は百三十機と聞き間違えてしまうからだ。


 また、敵などの方位を示す時も時計の時刻に置き換えて何時の方向という表現はせず、正面を零度として角度で表すのである。


 よく新兵などが間違った言い方をするので俺はたしなめたものだった。


 ともあれB‐17の敵編隊は我が戦闘機の妨害がなくなった事をいい事に、爆撃態形を整え悠然と我が艦隊に向かって来たのだ。


「敵編隊との距離一九.九○!」


「電探射撃戦用意!右九十度、敵爆撃機編隊!」


「捕捉電探準備よし!」


「トップ、こちら艦橋。撃ち方はじめ!」


 旗艦摩周より発砲許可命令が来たのだ!


「撃ち方はじめ!」


「てェーッ!」


 射程いっぱいの距離から俺の号令で國本先任が声を発すると共に、前後の長十糎高角砲が一斉射分の発砲をした。


 ドドン―


 敵編隊との距離がある為、着弾まで二十数秒間かかりその間にも敵機は我が艦隊にジリジリと接近して来ていた。


「弾着、今!」


 計時員の報告と共にブザーが鳴り、同時に敵爆撃機編隊の手前で黒い弾幕が四つ炸裂した。


「遠三!急げッ!」


 俺は直ちに修正値を命じ連射を開始させた。


 我が艦より若干遅れて僚艦からも発砲が開始され、敵編隊の周りにパラパラと弾幕が現れ出した。


 駆逐艦松の一番、二番砲塔は先ほどから盛んに耳をつんざく発砲を繰り返しており、間もなくして敵爆撃機の先頭を行く編隊の辺りに連続して弾幕が現れ、有効弾を送り出しはじめていた。


「ヨーソロー!そのまま急げーッ!」


 つい口を次いで俺は叫んでしまう。


 すると敵編隊が黒煙で隠れてしまうほどの、弾幕が発生しはじめた。


 我が第五十一艦隊、九隻の十糎高角砲三十六門の砲弾が毎秒一発の速度で、空飛ぶ要塞に襲いかかり出したのである!

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