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ゲートの向こうにある世界  作者: nit
第1世界・キルト
9/32

9.王都メニア到着

1話を長くまとめました


 カイルは南門の前に着いた。


 おぉぉぉ! これがうわさに聞く王都メニアか。門でけぇーな。


 彼の目の前には木造りの巨大な門が立っている。そしてその左右には、頑丈がんじょうそうな壁が山のごとくそびえていた。

 高さは10メートルぐたいだろうか。所々、少し崩れていて年季を感じるが、立派なものだ。

 カイルが門を見上げていると、


「何をしている」


 前からそんな声が聞こえた。

 そちらを見ると、メニアの紋章もんしょうである赤い蛇が胸に入った鉄色てついろの鎧を着て、やりを持っている男がいる。

 体は大きいが、カイルの目で見れば鍛え方がなってないのが分かる、いかにも雑用兵らしい男だった。

 どうらやこの男が門兵のようだ。


「王都には初めて来るので、門の大きさにびっくりしてしまって」


 カイルは面倒ごとを避けるため、すぐにそう返した。


「そうか。南門に来るということはお前はここより南にあるサイロの町の者か」

「はい」

「王都に来た目的は何だ?」

「旅をし始めて、立ち寄ったんです」

「うむ。王都に入るには持ち物検査が必要だ。怪しい者を中に入れないためにな。

 わかったらさっさと持っている物を全て出せ」


 門兵は強い口調でかしてくる。たが、カイルはそれを気にも留めなかった。


「わかりました」


 彼は言う通りに従った。

 門兵はカイルの持ち物を一通り確認している。ご丁寧に、リュックの中のものを地面に広げた布の上に全部出して。


「この剣はなんだ? 何のために使う。それとこのナイフは?」

「この剣はモンスター護身用です。ナイフは料理用。

 ほら、そこにミニリザードの肉があるでしょう」


 旅人がモンスターの肉を食べることは周知の事実であるため、門兵は納得したようだった。


「そうか。……他には特に不審物は見つからないな。よし、OKだ」

「どうも」


 了解を得た上で、カイルは出された物をリュックの中へ戻し始める。


「ああ、それと」


 荷物をまとめ終え、王都へ入って行こうとしていた彼をその門兵が呼び止める。


「まだ何かあるんですか?」

「お前がこの先どこに向かうのか知らないが、北にあるタルッタの町には行くなよ」

「何かあったんですか」


 カイルは軽い気持ちで聞いてみた。


「ああ、ちょっとな……。

 い、いいから! 行かなければいいんだっ!」


 門兵は渋い顔をしたかと思うと、急に怒りだし、そのまま持ち場に戻って行ってしまった。


 なんでキレるんだよ。


 カイルは門兵の言いずらそうな態度を少し不思議に思ったが、追求するとめんどくさそうなのでやめておいた。


 門から中に入ると、真っ先に視界に入ってきたのは様々な種類の店で、その向こう側には巨大な白色はくしょくの城が見えた。


「いらっしゃい! いらっしゃい! 新鮮な肉がたくさん売ってるよー。

 おっ! そこのおばちゃんどうだい? 安くしとくよっ!」

「どうしようかしら。おいくらですの?」


 サイロの町の商店街より店の数が多いし、それに比例して客の数も多い。

 しかし店といっても、サイロの町のものは家の前で売っているだけだったが、王都のものは1つ1つの店が露店ろてんになっている。

 その違いもあいまって、カイルは自身の体に満ち満ちた活気を覚えた。


「新鮮な野菜はどうですかー。うちの畑でれたいいものだよー」

「おい、兄ちゃん! 魚はどうだい?」


 騒がしさもサイロの町の何倍もあり、肉などを焼く時の「ジュージュー」という音も聞こえる。


「さすが、王都だな。サイロの町の賑わい方とは全然ちがうぜ」


 寄ってみたいけど、まずは宿探しだな。


 カイルは香辛料のツンとした匂いの誘惑に耐えながら、まずは宿をとることにし、王都の東側へと向かった。

 改めて見ると、1つ1つの建物がサイロの町と比べて大きい上、石造りのものが多い。

 彼はサイロの町との違いを肌で感じ取っていた。


 他の世界の町もこんな感じなのだろうか。


 カイルはこれから行くことになるだろう、先の世界へ思いをせながら、辺りを見回し続けた。


 宿が集まっている辺りに着くと、


 そういえば、ライラスの本におすすめの宿について書いてあったな。

 えっと、たしか名前はニキフで、場所は北側だったはず。


 カイルはそれだけの情報を頼りにその宿を探した。

 宿群は迷路のようになっていて、彼は正直、他の宿でもいいかなと思ったが、ライラスの泊まった宿を見てみたいという好奇心がまさっていた。


「あった。……やっと見つけた」


 カイルは少し息切れている。

 宿の入り口の手前に、「ニキフ」と書かれた看板が設置されていた。

 かなりの時間をかけてやっとのことで見つけたのだが、どう見ても普通の宿にしか見えない。


 まあ、宿なんてどこでも一緒だしな。


 あまり気にすることなく、彼はニキフへと入った。


「いらっしゃいませ」


 中に入ると、これまたいかにも普通の店主が居た。メガネをかけていること以外に、これといった特徴がない。


 ロビーには、誰が描いたのかわからない風景画が壁にいくつかかけられていた。

 他には、すみに汚れた漆喰しっくいがある焦げ茶色のタイル張りの床や頭上にはちょうど良い明るさの照明があった。


「お泊まりですか? ご休憩ですか?」

「泊まりです」

「それではこの宿泊者名簿に必要事項をお書きください」


 カイルはカウンターの上に常置じょうちしてあるペンで、言われた通り、出された紙の1つ1つの項目を書き埋めていった。


「できました」


 そう言って、その紙を店主へと返した。店主はそれを一通り凝視し終える。


「ありがとうございます。それではこの宿、ニキフのご説明をさせていただきます。

 お食事は朝、晩ごさいまして、それぞれ食堂にて6時から10時、18時から22時に召し上がっていただけます。

 お風呂は共有で大浴場です。これはいつでもご利用いただけます。

 トイレはそれぞれのお部屋にございますので、そちらをご利用ください」

「わかりました」

「それでは説明は以上になります。

 他に何か聞きたいことはございますか?」

「いえ、大丈夫です」

「かしこまりました。

 後ほどになって、また何か聞きたいことがありましたら、従業員に声をお掛けくださいませ」

「はい。ありがとうございます」

「それではお客様のお部屋は105号室です。

 そちらの廊下沿いにございます」 


 店主はそう言って、手で廊下の方を指す。カイルは目線でその手の先を追った。


「こちらが部屋の鍵となります。どうぞ」


 そして、彼は宿主から鍵を受け取る。


「ありがとうございます」

「ごゆっくり」


 カイルは良い接客態度だと思った。


 薄暗い廊下を進むと、「105号室」と書かれたドアがあった。

 彼はそれを開き、中に入る。

 部屋は大きさが6畳ほどで、床はタイルの上にウール素材の白い絨毯じゅうたん、ランプが取り付けられているテーブルがあり、そなえ付けのベットも置かれていた。


 やっぱり普通の宿だぞ。

 そういえば、本にはベットがふかふかだって書いてあったけど……。


 カイルは手を広げてベット沈めてみた。


「うぉっ! 確かにふかふかだ」


 彼は今日の夜に、このベットで寝るのが楽しみになり、顔が自然とほころんだ。


「よし。そうと決まれば。その前に情報収集といくか」


 そして、カイルは王都の中央広場へと向かっていった。



 広場に着くと、大きな噴水が見えた。流れ出る水が夕日を反射していて、とても美しい。

 カイルの視界の右には巨大な城がある。その外観は「豪華絢爛ごうかけんらん」というより「純白じゅんぱく」という言葉が似つかわしく思われる。


「あれがメニア城か」


 彼が子供の頃から想像していたものより、遥かに大きく、そして美しく感じていた。


「中とか入れるのかな?」


 城への1本道には兵士が立っていて、近づくものを見張っている。つまり、言うまでもなくダメだ。

 カイルはそのことを少し不機嫌に思いながら、城を見上げて歩いていると、体の前方に強い衝撃を受けた。


「うわっ!」

「痛っ!」


 辺りに2つの声が響いた。彼は誰かとぶつかってしまったのだと理解した。

 カイルは立ったままだったが、相手は倒れていた。


「すいません」


 彼はすぐさま謝った。


「本当だわ。ふらふらしながら歩かないでくれる」


 相手はそう言いながら立ち上がった。その際に、サラリとした髪が風に揺られて美しくえる。


 えっ。


 そこには長身の女が立っていた。と言っても、女性にしては、だ。カイルよりは当然低い。

 その赤みがかった茶色い髪は肩甲骨けんこうこつより少し下まであり、肌の色は薄ピンク。その瞳は髪と同じ艶やかなアクバール色だった。

 「可愛い」という言葉より「綺麗」という言葉が似合うような人だとカイルは思った。

 しかしそんなことより、彼が気になっていたのはその服装だ。

 なんと、その女はメニアの紋章もんしょう付きの鎧を着ていた。


 この人兵士なのか。


「あの、本当にすいません。以後、気をつけまーー」


 素直に謝っているのに、その女はカイルを無視し、鎧の金属音を響かせつつ、そのまま行ってしまった。


 何だよ、あいつ。こっちはちゃんと謝ってるのに。


「大丈夫かい? 兄ちゃん」


 カイルが振り向くと、通りすがりと思われる男の人が声をかけてきた。


「不運だったね。あの女はいつもああらしい」

「いつも? あの人のこと知ってるんですか?」

「ああ。あの女はアレシア。この王都メニアの兵士だよ」


 その男がうなずきながら言う。


「見ての通り見た目はいいんだけど性格が悪くてね。その両方で王都では有名さ。『美人女兵士アレシア』ってね」

「へぇー」


 まさか女の兵士までいるなんて思わなかったな。王都ってやっぱりすげーな。


 カイルはそのことに対して謎に感心した。それが王都への羨望せんぼうからきたものだということは自明である。


「アレシアのことを知らないってことは、兄ちゃんもしかして旅の人かい?」

「ええ、まあ」

「そうかい。だったら俺に何でも聞いてくれ。ここで会ったのも何かの縁だと思うしな」

「そうですね。ありがとうございます。それならーー」


 カイルはそうは思わなかったが、その親切に甘えて、王都へ来てからずっと疑問だったことを聞いてみた。


「門兵が北のタルッタの町には行ってはいけないって言っていたんですけど、なぜなんですか?」

「なんだい? 兄ちゃん。あの事件のこと知らないのかい?」


 男は少し驚いたような、そして不思議そうな顔をした。

 しかし、カイルにとってはそんな顔をされても、知らないものは知らない。


「あの事件? 何のことですか?」


 彼は改めて尋ねた。

 その問いに関して、男は思い出すように話し始める。

次回「10.王直属近衛兵からの提案」

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