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ゲートの向こうにある世界  作者: nit
第1世界・キルト
6/32

6.そして旅立ち

1話を長くまとめました


回想シーンは、レイナの母親の1人称視点です(^ ^)


翌日の逢魔おうまが時


 カイルとレイナは一緒に、学校から帰っていた。


「レイナ、話があるんだけど」

「何よ、改まって」

「俺が町を出る日が決まった」

「……え? どういうこと?」


 彼女の声のトーンが下がる。カイルはそれに気づかないふりをした。


「どういうことって、この町を出ていくんだよ。それで、アラセムへ向けて旅立つ」


 沈黙が続く。


 彼はレイナの表情をうかがわないように、前を向いたままで、彼女が何か言ってくるまで辛抱しんぼう強く待っていた。


「いつ……なの?」


 レイナの問いはカイルが予想した通りのものだった。


「来週あたりには」

「そんな。……来週だなんて」


 再びの沈黙。


「どうして」


 レイナが小さい声で呟く。


「え?」

「どうしてもっと早く言ってくれなかったの!」


 そして、町中に聞こえるかと思うくらいの大声で怒鳴った。


「どうしてって言われても、昨日決めたことだし」

「バカっ!」


 その声に対して、カイルは反射的にレイナの方を見てしまった。

 彼女は泣きながら、彼をにらんでいた。


「カイルのそういうところ大っ嫌い!」


 レイナはそのまま家の方へ走って行ってしまった。


 やっちゃったかな。

 でも、黙って出ていくわけにもいかないもんな。


 そんなことを考えながら、カイルは彼女の後をった。


 レイナの家に行くと、母さんに事の顛末てんまつを聞かれた。

 母さんの話によると、レイナは部屋に閉じこもってしまったらしい。食事を持っていっても、出てくることはなかった。


 レイナは学校にも顔を出さなくなった。

 カイルは先生に事情を聞かれても、知らないの一点張りで通した。



土曜日の昼


「母さん。俺の本当の両親のことって……その、知ってる?」


 カイルは遠慮がちに聞いた。


「どうしたの? そんなこと今まで1度も聞かなかったじゃない」

「いや、もう何を言われても俺の両親は父さんと母さんだから。それはこれからも変わらない」


 これは彼の本心だった。カイルは、これから何があってもこの気持ちは変わらないだろうと確信している。


「だからこそ、本当の両親について知る踏ん切りがついたんだ」


 母さんは数秒、彼の顔を見つめた。


「そう、分かったわ。と言っても、実際は何も知らないのよ」

「どういうこと?」

「あなたは私が偶然拾ったの。

 ……そうね。あれは16年前の春のことだったわ」


ーーーーーー

ーーーー

ーー


 私達はすでに結婚していてだけれど、子供ができなかった。医者に見てもらっても原因はわからない。


「どうしてなのかしらね」

「わからない。でも、諦める気にはなれないよ」


 私達は諦めなかった。

 どれだけ時間がかかっても原因をつきとめて、絶対に2人の子供を産もうと思っていた。


 そして、あの日がやってきた。



 その日は春の花祭りの飾り付けのために、私は町の外で花を摘んでいた。


「うぎぁー、うぎぁー」

「泣き声?」


 森の中で花を探していると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。

 私はその声のする方へ歩いていった。するとそこには、


「まぁ」


 小さな赤ん坊が素っ裸で泣いていた。

 そのまま放っておくこともできなかったから、私は家に連れて帰ることにした。

 町の人にその子のことを聞いてみても、誰も知らないと言う。


「あなた、私はこの子を育てたいと思う」

「君ならそう言うと思っていたよ。

 そうだね。これは神様が、私たちの願いを聞いてくれたのかもしれないね」


 そうして、私たちはその子供を「カイル」と名付け、2人で育て始めた。


ーー

ーーーー

ーーーーーー


「そして、あなたを拾ったすぐ後、私が妊娠していることがわかったの」

「そうだったんだ……」

「そういえば、カイルを拾ってから良いことがたくさんあったわ」

「何のこと?」

「妊娠のこともそうだけど、他にも父さんの仕事がうまくいったり、町で流行っていた感染病にもかからなかったり。

 全部カイルのおかげかもしれないわね」


 母さんは笑顔で嬉しそうに言う。


「へぇー。そうだったんだ。あっ」


 そういえばあの夢のことは?


 カイルはこの時、あの日見た夢のことを思い出していた。


 あの子供って……。


「母さん。その時の俺って白い毛布で包まれてたりとかしなかった?」


 彼は確認せずにはいられなかった。もしかしたらと思ってしまったのだ。

 だが、それは杞憂きゆうに終わった。


「え? いいえ、そんなことはなかったわよ。あなたはの周りには何もなかった。

 でも、どうしてそんなこと聞くの?」


 母さんが不思議そうに首を傾ける。


「あっ、なんでもないんだ。ただなんとなくなんだ。

 それより話してくれて本当にありがとう」


 その答えを聞いて、カイルは、自分はバカだと思った。


 夢で見たことが自分のことなんてあり得ないよな。


「ならいいんだけど。……カイル」


 母さんの表情が一転して真剣なものになった。


「ん?」

「大丈夫?」

「うん。平気だよ」


 その答えに、母さんは安心した様子を見せた。



 そして、一週間がたった。

 町を出ることは他の皆には伝えない。


 まだ、太陽も登り切っていない早朝だったが、昨日は準備も早めに済ませて寝たので、彼はすっきり目覚めた。


 カイルは2年間世話になった家に別れをげ、玄関の扉をあっさりと閉じた。

 感慨深いものがなかったとは言えない。しかし、彼にとってはこれからのことの方が大切だったのだ。


 カイルが荷物を持って外に出ると、父さんと母さんが家の前で待っていた。

 2人ともまだパジャマのままだ。


 見送りはいらないって言ったのに。家族っていいもんだな。


 彼の顔には自然と笑みがこぼれ、心の中はとても暖かくなった。


「頑張ってこいよ。 お前なら大丈夫だ」

「辛くなったら、いつでも帰ってきていいからね」

「ありがとう。頑張るよ」


 1週間前のあの日から、3人は互いに、昔のような関係に戻れたと感じていた。しかし、そこには1人足りない。


「レイナ、呼んでこようか?」

「ううん、いいんだ」


 母さんの提案にカイルは首を横に振る。


「そう」


 母さんは悲しそうな顔をしていた。


「それじゃあ、行ってきます」


 そう言って、カイルは村の門へ向かった。自前じまえの剣を腰に下げ、大きなリュックを背中に背負せおって。その姿は、年齢による幼さを除くと、まさに一人前の旅人そのものであった。



 門の側には人影が見える。近づくにつれ、それはだんだんはっきりしてくる。

 その人影はレイナだった。


「本当に行っちゃうんだね」

「ああ」

「そっか。じゃあ1つだけ約束して」

「ん?」


 カイルは無言で続きをうながした。


「必ず帰ってきてね」


 彼女は最高の笑顔を浮かべ、明るい声で言った。


「ああ」


 カイルも笑顔でそう返すと、門を通り、まだ見ぬ世界へ歩を進めた。

 彼が振り返ることは1度もなかった。



村を出てから2日目の夕方


 町の周辺を囲んでいる森を抜けて、カイル今、平原にいる。

 夏の夕方はまだ日差しが厳しく、たっぷりと降り注ぐ太陽の光が体に熱をこもらせる。

 しかし、野花のばなが咲く広い大地を駆け抜ける風がその熱を奪い、彼は心地ち良さを感じていた。


 カイルは目的地の王都メニアへ向かって、北へ真っ直ぐ進んでいるが、今まさに戦闘中である。

 戦っているモンスターはミニリザード。名前からも分かるように、見た目はトカゲのそれだ。

 体色たいしょくは個々によって様々だが、今彼の目の前にいるのは赤だ。皮膚はとげ々しいうろこで覆われていて、目つきが鋭い。

 名前にミニとついているが、体長が約1メートル50センチあり、彼は戦うたびになぜミニなのだろうかと不思議に思っていた。


 誰が命名したんだよ。


 カイルにはそんなことを考えるほどの余裕があった。

 ミニリザードは、見た目からは想像できないほど素早すばやいが、動きが直線的で、攻撃がほぼみ付くしかないため、注意していれば決して倒せないことはない。


 ミニリザードがその太いあしを曲げた。突進のモーションである。

 そして次の瞬間、それを伸ばしてあしのバネを利用し、カイルとの距離をめてきた。

 彼はステップを踏んでそれを右にかわし、その背中を自らの剣で縦に斬りつける。

 カイルの剣がミニリザードの皮膚を突き破って、不快な音を発しながら、体中に切り込み、そして出ていく。


「ギャァァァァ!」


 辺りに独特の鳴き声が波紋状に広がり、驚いた鳥たちが羽ばたいてその場を離れていく。

 ミニリザードは、右肩口から左腰までをバッサリと切られて、そこから血飛沫しぶきをあげている。

 そして、そのまま力無く倒れた。



 カイルはミニリザードの体をナイフを使い、切りきざんで解体し、それをリュックにしまう。

 もちろん血抜きも忘れない。頭部を切り取った首を下にすると、赤黒い鮮血が流れ出た。

 なぜこんなことをするのかと言うと、食料にするためだ。

 普通の食料は動物などの肉や、植物、木の実であり、モンスターはあまりこのまれない。だが、そんなことを気にしていたら旅人は生きていけないので、基本的にはモンスターも食べる。

 カイルにとっては、味はあまり美味しいとは言えないものだったが、肉厚があって、腹にはたまるので重宝していた。


 キルトの南地域のモンスターはだいたいこいつしかいない。彼は昨日も2体程と戦った。


 よし、ストックは十分だな。


 カイルは約3体分の肉を見て、満足げにうなずいた。周りに人がいたら、気味の悪いモンスターの肉を目視して何やらうなずいている変な奴に見えたことだろう。


 彼が顔を上げると、目線の先に薄っすらと家が見えた。さらに注意して見ると、30戸程の家が集まっているのがわかる。

 どうやら、ナクの村に着いたようだ。

 サイロの町と同様に周囲を木の柵で囲まれていて、村の出入り口は木で作られたアーチ状に形成されていた。

次回「7.ナクの村」

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