表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲートの向こうにある世界  作者: nit
第2世界・セラユ
32/32

32.新たな世界

よろしくお願いします(>人<;)


 「滅び」というのは、全てのものに共通する概念である。

 例えば、人間や犬、ライオンやゾウ。

 動物だけではない。植物も同様だ。


 全てにおいて、「滅び」とはのがれられないものであり、等しくおとずれるものである。



 そう、かつてそれらの生物をやしなっていた地球・・という名の箱庭も例外ではなかった。



 たが「滅び」とは、それと同時に新たな「始まり」でもある。

 こちらも例を挙げると、代表的なものが食物連鎖だ。

 植物が食べられることにより、子供の草食動物が成長し、草食動物を肉食動物が食べることにより、新しい命が育つ。

 また、それらの動物の糞や死骸しがいが大地に養分を与え、次の世代の植物が成長しやすくなるという「滅び」と「始まり」を体現したものである。



 では、地球という人間にとっての世界が「滅び」れば、それは何かの「始まり」になるのか?



 カイルたちが生きる時代より遥か昔、この設題に挑んだ1人の天才がいた。

 しかしながら、この天才の登場により、世界は消失したのだ。



 触らぬ神にたたりなし。

 この思想さえ持っていれば、後何億年かは平和であったものを。



 中途半端な力や知識は、己の身を滅ぼすことになる。



ーーーーーーーーーー


 寂しいと思うことはありますか?


 この問いに対しての彼の答えは、


 「さあ? 考えたことはない。1人でいることが当たり前だから」


 彼はなぜ自分がそこにいるのか。

 なぜずっと1人なのか。

 そして、いつまで生き続ければいいのか。


 とうに忘れたはずのその答えを、まるで雲でもつかむかのごとく、むなしくも思い出そうとしていた。


ーーーーーーーーーー



 目を開けると、眼前には町があった。

 キルトにあったものと大きな違いは見られないが、より色があざやかになった印象を受ける。

 ゲートから町までは、舗装ほそうされた1本道が繋がっていて、それらを行き交う人々で溢れかえっていた。

 おそらくその道を歩いている者たちは、転移希望者と転移終了者であろう。カイルものちに、そこを通ることになるはずだ。


 そしてその町の奥には、視界の右に、茶や黒、白や灰など様々な色合いが層になって高くそびえる岩壁が見えた。その上からは、大量の水がふもとへと落下し、巨大な滝を形成している。

 ふもとには、針葉樹林から成る雑木林が広がり、その隣の地面を滝から繋がる川がけずり取っていた。


 視界の左には、岩壁の高さにはおとるものの、ゴツゴツした岩山が連なり、これからの旅の過酷さを物語っている。



 ……ん? えっと……。


 カイルは何か違和感を感じた。たとえるならば、暗い中を旅していて、奇妙な、そして、恐ろしくも美しい感情、そんな矛盾だらけの感情を抱いていたような気がしていた。

 しかし、後ろからの聞き覚えのある感嘆の声により、思考が中断される。


「す、すげぇぇぇ……」

「え、ええ……」

「う、うわぁぁぁ……」


 彼が振り向くと、そこには3人の人物が立っていた。


 1人は、山を思わせる大きな体に、筋骨たくましい赤銅色の皮膚。その男の容貌は、生物として強者であることを全面に押し出し、敵対する者の戦意をくじくだろう。


 1人は、白い肌に赤みがかった栗色の髪と同色の瞳。女性としての美しさは、格別なものがあるものの、その実はキルトの王都メニアでは恐れられた女兵士である。


 そしてもう1人は、見た目は幼女。だが、実年齢は20を超え、脳に蓄積された記憶は莫大なものがある。隣に立つ女兵士になつき、行動自体は見た目に相違ない。


「ガゼル、アレシア、ヤスハ」

「おう、カイル」

「どうやら……」

「……うまくいったみたいだねー」


 彼らには、転移が失敗する要素などは1つもなかったが、4人の表情には安堵の色が浮かんでいる。

 ガゼルの背中にはあの大きなハンマーはなく、アレシアの腰にも片手剣はついていなかった。転移の副作用により、消滅してしまったのだろう。


 あれ?


 ここでもカイルは違和感を覚えたが、次の転移者がいるため、4人はそそくさとゲートから立ち退き、道にいても邪魔なので、横道にれた。

 同時に、カイルの思考も停止する。


 当然というべきか、こちらのゲートにもゲート管理局の手が回っており、左胸に「2」というバッチをつけた2人組が立っていた。



「それにしても、すごいわね……」

「うん……」

「本当にな……」

「ああ……」


 彼らの瞳にうつる感情は、感動。


「こんな世界があるんだな……」


 何処と無くつぶやいたカイルの声は、新しい世界の空気に触れ、拡散していき、まるで初めからそこに無かったかのように消えていった。



「あっ、そうだ! ミドルネームとラストネームを考えておかないと!」

「あっ、そうだな。第2世界からは」


 突如思い出して言ったヤスハの提案に、カイルが賛同する。


「ミドルネームとラストネームって、何だ?」


 聞き慣れない言葉に対して、ガゼルが疑問の念を持った。


「言うと思った。まあ、第1世界から出たことない人にとっては無理もないよ」


 この言い方は、ガゼルにとっては馬鹿にされたようにも聞こえるが、言われた当の本人はそのようなことに考えがいたらず、また、言ったヤスハにもその意はなかった。


「1つずつ説明するとね。

 まず、私たちの今の名前。私なら『ヤスハ』。これがファーストネームっていうの。

 次に、ラストネーム。これはファーストネームの後に来る名前で、第2世界からはファーストネーム、ラストネームのセットで名乗ることになると思うよ。

 そして、ミドルネーム。ミドルネームは、ファーストネームとラストネームの間に入る名前で、これはファースト、ラストネームだけでは同じ名前の人がでてくるから、それを区別するためのものなの。

 ガゼル、分かった?」


 心配そうにヤスハはカイルの返事を待った。2つの感情を胸に抱きながら。

 1つは、理解してくれるかもしれないという期待。

 1つは、どうせ無理だろうという諦めの感情。


「……な、なんとか」


 額に汗をかいて考え込んでいるガゼルがなんとか絞り出すように答える。

 どうやら、2つの感情の間くらいのようだ。

 カイルはそんな2人のやり取りを見たことによって、ヤスハに対して年相応としそうおうとはいかないまでも、やはり年上であるということを改めて感じた。



「もちろん、カイルは知ってると思うけど」

「ああ。アレシアはどう?」

「私も大丈夫よ」


 カイルは、3人にライラスについても話していた。

 そのことを既知のものとして考えた場合、カイルがこれらのことを知っているだろうと予想したヤスハの質問は的を射ており、今の説明でアレシアなら理解できているだろうと思慮したカイルの確認も同様のものであった。


「それでよ。結局どんなのにすればいいんだ?」

「何でもいいけど、早めに固定したほうがいいよ」

「そうだな。でも取りえず今は、仮の名前を考えよう」

「ええ、そうね」

「旅をしながら、最終的に名前を固定していこう。無論のことだけど、ヤスハの言った通り、できるだけ早いほうがいいと思うけど」


 しばしの沈黙の後。


「よし! 俺は、『ガゼル・バイン・シュート』にするぜ」

「私は前から決めてたの。『ヤスハ・ファルフト・ユクリ』」

「俺は何にしようかなー」

「私は、『アレシア・セルべ・ソーン』にしようかしら」

「皆結構簡単に決めるのな」

「うじうじ考えたって仕方ねえよ」


 カイルがあきれた声を漏らすと、ガゼルが投げやりな意見を述べる。

 しかし、カイルはそれに納得したようだった。


「そうだな。……うーん。……それじゃあ俺は、……『カイル・ヌタイト・マーク』とかかな?」

「全然覚えられない」

「お、俺も」

「ガゼル。あなたは言わなくても分かっているわ」

「アレシア酷いな」


 ワアワア言い合いながら、4人はみずからを除く他の名前を覚えようとつとめた。

 もちろん、自身のものは覚えた上でだが。



「これからどうする?」

「町を目指しましょう」

「あれはサノネの町だ。俺もひとまずはそれでいいと思う。

 ともかく今は、情報が欲しい。俺とヤスハの知識があるにしても、実際に見るのとではまた違うだろうから」

「よっしゃっ! そうと決まれば、早速出発しようぜ!」


 仮の名前が決まったところで、4人は道へと戻り、目前にあるサノネへと歩みを進めていった。



 この時点で、カイルは先程の違和感に対する思考を止めるどころか、その違和感すら忘れてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ