28.モイの村で
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「そんなことがあったのか。全然知らなかったぜ」
「ええ。本当は口止めされているのだけれど……」
「まあ、これから一緒に旅するんだし、ガゼルにも話しておこうと思って」
カイルとアレシアは、一連の事件をガゼルに話した。アレシア言う通りなのだが、カイルの言うことももっともである。
「分かった。このことは誰にも言わない」
「よろしく頼む」
アレシアが軽く頭を下げた。
「なあ、カイル。敬語禁止にしようぜ」
「え?」
ガゼルが唐突に言い出した。
「何かやりづれぇよ」
「実は、と言うほどでもないが、私も」
それにアレシアも同意する。他の2人には知る由もないだろうが、アレシアは人との会話があまり上手い方ではない。
兵士たちと話すのは、事務連絡や作戦を練るときぐらいであったし、しかも回数も少ない。
今のように、任務であってもーー本人は任務と聞かされたままーー例外により、ただの旅仲間として、人と普通に話すことに慣れていないのだ。
「そうだな」
アレシアの考えを知らないカイルは、単にわざわざ断る理由がなかったので、異論を述べようともしなかった。
現在、3人は王都メニアから北西に進み、セラユヘのゲートを目指している。
通っている道は、サイロの町から王都のものとは違い、セラユからの旅人も多く利用するため、整然と整備されているようだ。
草原の真ん中や林の中を突っ切って掘られたそれは、基本的には1本道であり、道に沿うようにして、途中途中にいくつか町が形成されている。
「ところでさ、2人の歳っていくつなの?」
「今年で18歳になるわ」
とアレシア。
「21だぜ。カイルは?」
とガゼル。
「俺は16歳だよ」
「え?」
「え!?」
2人の反応は、表面上では同様のものではあったが、そこに込められた気持ちは少し違っていた。
2人に共通するのは、カイルが見た目より大人びているということ。
「16歳!?」
「見えねぇな。20前後だと思ったぜ」
アレシアの方は、驚きと共に、自分が敵わない相手が年下だったことで受けた何とも言えない敗北感。
一方ガゼルは、もちろん驚きもあったが、それは瞬時に消え去り、武人として、自らよりも高い功績を挙げたことに対する尊敬と、その若さで身につけている戦闘技術、知識への羨望であった。
「そうかなぁ? それより、ガゼルって思ったより若いんだ。おっさん顔してるからもっといってるかと思ってた」
「ひでぇなぁ。まあ、よく言われるからいいけどよ。あと、お前が言うなよ」
「どちらにも同意するわ」
アレシアの発した言葉に、カイルが大声で笑い、ガゼルがちょっぴり凹んだ表情を浮かべた。
3人は道沿いに町を経由してゲートを目指す。
旅の資金については、カイルは自身で働いて貯めたものと、王子マナクからの褒美として与えられたもの。
アレシアは兵士としての給料と、任務にかかる雑費ということで、ジョイルから貰ったもの。
ガゼルはもともと持っていた分と、モンスター討伐での報酬。
3人のお金を全て足すと、ちょっとした富豪が持っているくらいにはなる。
したがって、金銭面では心配はいらない。
そして、3人はキルト最後の町、モイに到着する。
ーーーーーーーーーー
光り輝く場所で
「記憶の方は何とかなったみたいだ」
「そうだね」
ヘスは一安心したという気持ちを声に匂わせ、それに対するヘルはいつも通り感情のない声である。
「彼は特別だからね〜」
「そうね」
「しかし、どうやらいらないことまで思い出したようだな」
「まあ、しょうがないんじゃないかな」
「そうだね」
「いつもより修復が深いね〜」
「今までと今回は違うということ?」
「そういう意味なら良いんだが」
「気にしていても仕方あるまい。私たちにできることはサポートぐらいじゃ」
ハメスは長い髭を掻きながら、皆をまとめる。
「そうですね」
「そうだね」
「だね〜」
「待つのには慣れたわ」
「我も同様だ」
「待ち続けよう。
いずれ出すであろう真の答えを。
いずれ選ぶことになる7つの世界の運命を。
どちらに転んでも、対応できるように準備してな」
ーーーーーーーーーー
モイの町の中には、合計4本の川が流れており、それぞれに架かっている橋は2本づつ。
建物の屋根がほとんど赤茶色で統一され、壁は少し黄ばんだ白が多い。
「うわぁ! すごい賑わってるな」
「こんなものじゃない? 王都もこれぐらいだったし」
「王都と比べるなよ。こりゃ1つの町にしちゃすげぇほうだぜ」
田舎でのカイルとガゼルに比べて、王都出身のアレシアの反応は薄い。
「行ってみようぜ!」
「おうっ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
3人は村の中心街へと向かっていく。
その後ろを追っている人影があった。
大通りでは、王都と同じように露店が並び、活気にあふれていた。
王都との違いは、兵士が見られないことからか、町の雰囲気がより明るい。
「おいっ! この料理めっちゃ美味いぞっ!」
「どれどれ。1つくれよ」
「私にもちょうだい」
既に3人は意気投合していた。カイルは、初めからガゼルとは上手くいきそうだと感じていたが、アレシアとはどうだろうか思っていた。
しかし、それはいらぬ心配だったらしい。いくら兵士といっても、彼女は18歳の女の子なのである。
それに彼は、今のアレシアの姿が素の彼女なのだろうと勝手に思い込んでいた。
カイルは、これが大きな間違いであることを後に知ることになる。
「つけられてない?」
アレシアのこの一言で、カイルの思考は現状へと引き戻される。
「本当だ」
「俺には全然分からん」
ガゼルは、こういう勘が鈍いようだ。だが、彼を除く2人は明らかな視線を感じて、周りを見渡している。
「3人の内の誰だ?」
カイルのこの問いは「3人の内の誰をつけているのか?」という意味である。
「私じゃないかしら?」
アレシアには、彼の意図が上手く伝わっていたらしい。
「そうっぽいな。じゃあ、はさみ打ちにするか。
アレシアは1人で路地に入り、行き止まりまで行ってくれ。追跡者の後ろを俺とガゼルでつける」
「いわゆる二重尾行だな」
「分かったわ」
彼女は命令されることに少しだけ苛立ったが、それを表には出さず、カイルの指示に従う。
そうして、アレシアと2人は一旦別れた。
路地の行き止まり
「出て来なさい。いるのは分かってるのよ」
アレシアの声に反応し、追跡者が通りからその路地へと姿を現す。彼女はいつでも戦闘体制に入れるように、気持ちを引き締め、身構える。
「え?」
「うわぁ! アレシアさんだぁ!」
間の抜け声と共に、アレシアの体から力が抜ける。
追跡者は何と幼い少女であった。髪は腰より下まであり、アレシアと同等ぐらいに白く透き通った肌は、陽の光を全面で反射していた。
その外見から年齢は10歳前後だと推定できる。
「ねぇねえ、王都女兵士のアレシアさんですよね!?」
「え、ええ。そうだけど」
少女の勢いに気圧されながらも、アレシアは辛うじて答える。
「やっぱりアレシアさんだぁ! かっこいいなぁー」
「え、えっと。私をつけてたのはあなたなの?」
「そうだよ」
「どうして?」
「えっとー。それはねー」
「大丈夫かー? ってどうなってんだこりゃ?」
「悪い。遅くなった」
少女が答えようとしたところで、その言葉を遮り、声がかけられる。
アレシアがそちらを見ると、ガゼルとカイルの2人が両手に食べ物を抱えていた。その様子に呆れながらも、彼女は2人に状況を説明する。
「なるほど」
「何だこんなガキだったのか」
「ガキじゃないもん! 私26歳だもん!」
一瞬、時間が止まった。
「またまた。冗談でしょ?」
アレシアはその言葉を真に受けずに、少女が嘘をついていると判断したのだろう。笑いながら、少女の頭を撫でる。
「嘘じゃないもん!」
本来ならその手を振り払うところだろうが、アレシアに触れられたことが嬉しいのか、ニヤニヤしつつ少女は叫んだ。
「そう言われてもな」
「町の皆に聞いてみてよ!」
若干不機嫌な少女が怒鳴る。その必死な訴えに3人は取り敢えず、大通りに戻り、その辺の人に聞いてみた。
「ああ、ヤスハさん? この町じゃ有名だよ。見た目が若いのに実は20を超えていて、あと、相当な読書家だってね」
少女を一瞥しただけで、その人はこう答えた。
「本当だったんだ。それとヤスハって名前なのか」
「えっへん」
ヤスハは自分の正しかったので、そのことを胸を前に出して誇る。
「口に出して『えっへん』とか。やっぱりガキだな」
「ガキじゃないもん!」
「ヤスハちゃん。読書家って?」
2人が喧嘩を始めないように、アレシアが話題を変える。
「そうだよ。私読書家なの。町の図書館にある本は全部読んだし、覚えてるよ」
「マジでっ!」
「えっへん」
今度はガゼルも何も言わなかったが、少し悔しそうな顔をしていた。
「じゃあ、他の世界のことも?」
この話題に口ついたのはカイルだった。
「もちろん。本に書いてあることは全て知ってるよ」
「だったら何でもいい。教えてくれ」
「えー。どうしようかなー」
「教えてくれないかしら」
「いいよ。でもその代わりに1つ条件がある」
ほんとアレシアの言うことなら何でも聞くな。
カイルはそんなことを呑気に考えていたが、次の一言で胸中は塗り替えられる。
「私も連れてって」
3人とも聞き間違いかと思った。
「私も連れてって」
ヤスハは同じ言葉を繰り返す。
「えーっと。……え?」
「何言ってんだ?」
「よし、分かった」
アレシア、ガゼル、カイルの順に、声を発する。
「ヤスハも連れて行こう」
「え!?」
「本気かよ!?」
カイルに対して、2人は驚愕の表情を見せる。
ここで言っておくが、カイルに特殊な性癖などない。
「本気も本気さ。これから行くことになる世界の情報は、何としても欲しい。それに目的はアレシアと一緒にいることだろう?」
「うん。そうだよ」
「なら裏切られる心配も限りなくないに等しい」
アレシアは反対だった。カイルはヤスハを信じすぎていると彼女は思った。
カイルの内心には、疑いの念は微塵すらない。これには理由はあるのだが、今の彼はそれを自身でも知り得ない。
「でも、ほら。まだ子供よ」
「それは外見だけだろ? 26年も生きてるんだから常識ぐらいあるだろ」
「戦闘ではこいつを守りながら戦わないといけないのか!?」
ガゼルがめんどうだという気持ちと皮肉を込めた言い方をした次の瞬間。ヤスハが彼の背後に回り、首の後ろに飛び乗って、どこからか取り出したナイフを首筋に突きつけた。
ナイフとガゼルの首との接触線から赤い糸のような細い血の筋が現れる。
「戦闘方面も問題ないようだぞ。まあ、他の世界ではどうか分からないけど」
「大丈夫だよ。知識はあるから他の世界の武器にもすぐ慣れる」
「だとよ」
「分かった。分かった。分かったからこいつをどけてくれ」
堪らず、ガゼルは降参した。彼は相手の外見だけを見て、油断していたと反省せざるを得ないだろう。
「それじゃあ、これからよろしくね」
彼の背後から出てきたヤスハは、最高の笑顔を3人に向けた。特にアレシアには、さらにいい笑顔で。
それに押し切られ、アレシアは渋々了承した。
次回「29.ゲートの向こうへ」




