27.初めての仲間たち
第27話「初めての仲間たち」投稿しました!
今回で王都を去ります
もう少しでキルト編が終了です
よろしくお願いします(>人<;)
カイルとアレシアはナクの村に立ち寄り、トットとの再会を果たした。
自分のことのように喜び、泣き崩れるトットの姿は、カイルにとって新鮮であり、子供っぽく見えた。
そして、2人は王都へと帰還する。
王都メニア城
王都へ帰って、早速2人は城へ通された。その理由は言わずとも知れたものである。
「まさかそんなことが起こっていたとは……」
カイルが今回のメニア王失踪について話した後、ジョイルの反応がこれだ。
「何年、何十年、何百年。……いや、もしかしたらそれ以上……」
ここは、ジョイルたちが「王家の血と忘れられたゲート」を読んでいた会議室である。
「確かに、今まで王の遺体が公の元に晒されることはなかった。それどころか、墓がどこかさえ誰も知らん。これは王都の重役たちに確認済みだ。
……つまりは、ハノイだったか? が食っていたと……」
現在この部屋にいるのは、カイル、ジョイルの2人だけ。アレシアは別の雑務に追われている。
「はい。彼はそう言っていました」
「ゲートから呼び出した者を使役してか?」
「はい」
「……そうか」
ジョイルは何か考え込んでいるようだったが、カイルにその意図を図ることはできない。
近衛兵ともなれば、色々あるんだろうな。
「分かった。私の方から伝えるべき相手には伝えておこう」
「伝えるべき相手」とは、王都の重役たちのことだろう。事務を任されていたヤクトーーここでは敢えてヤクトと言っておくーーがいたなら、このことは彼に任せたはずだ。
しかし、彼はもういない。
さらに、「伝えるべき相手」がいるということは、「伝えるべきではない相手」も同様にいるということだ。
見た所ジョイルは、今回のことを国民には発表しないつもりでいるらしい。
「話は変わるが、ついて来てくれ」
「どこにですか?」
「王のところだ。いや、まだ王子だったな。
今、王子はとても混乱されている。それ故俺とお前で励まして差し上げたいと思ってな」
「俺も必要なんですか?」
「重要参考人として、お前の名を挙げた。だから、お前の証言を真実だと思い込む」
カイルは、ジョイルの言葉の中に違和感を感じ取った。それはわざと使った言葉なのだろうか。
「思い込む? ……そういうことですか」
その違和感は、考えればすぐにわかることであった。
「ああ、そういうことだ。うまく口裏を合わせてくれ」
要するに、先代メニア王たちの身に起こったことを王子には伝えない、つまり、王子は「伝えるべき相手」には入っていないということだ。
「分かりました」
カイルは、一言で了承の意を返した。
長い廊下を抜け、階段を登った後、さらに長い廊下を歩いていた途中。
「ここだ」
彼は、ひときわ豪華に装飾されたドアの前で立ち止まった。
「失礼します。ジョイルです。彼を連れて参りました」
軽いノックの後、ジョイルはそう言ってドアを開ける。
「失礼します」
ジョイルの後に続いて、カイルはゆっくりと中へ入る。
「うわぁー」
彼の目に飛び込んで来たのは、華やかな家具の数々。壁には黒い幾何学模様が入っていて、床には類似した模様の絨毯。太陽の光を遮るカーテンは純白という統一感のない部屋だった。
「マナク様。ご気分はいかがですか?」
その部屋の中に、作り物かと思われるほど人間味を帯びないの少年がいる。肌は白く、美しい顔立ちをした少年だった。歳はカイルと同じくらいだろう。
「大丈夫です。それより、覚悟はできていますから教えてください」
ジョイルは、急かす彼の瞳を数秒見つめた後、カイルとアイコンタクトをした。
「承知しました」
ジョイルが話した内容はこうだ。
王とヤクトがもう1つのゲートの存在を知り、ヤクトが調査を行っていたところ、ゲートから何者かが召喚され、王都方面へと駆けていった。
ヤクトは心配になり、王都へ帰ると王がいなくなっていた。
不安になったヤクトは、再びゲートへと戻り、王を探したが、王は既に絶命。
ゲートから異形の者たちが現れ、2人を飲み込み、遺体は残らなかった。
軍侵攻の寸前で、その者たちは消えた。
カイルは義勇軍のリーダーである。
カイルは時たま、ジョイルから話に不審な点がないかと確認されると「ありません」と応えるだけであった。
彼は、自分の話す内容が正しいと認める証人が必要だったのだ。それによって、王子であるマナクを納得させようとしていた。
「そう……ですか……」
無論のこと辻褄は合っていない。しかし、マナクは納得している様子だ。
ただ単に頭が悪いだけかもしれないが、マナクは、ジョイルの言うことが嘘だとわかっていても何か理由があってのことだと理解して、演技しているのだとカイルは思っていた。
そして、ジョイルの方はその演技を見抜いていて、それでも真実を言わないのだと。
カイルは、次期王と近衛兵のリーダーである2人の間に深い繋がりを感じ、これからの王都のことを想った。
「……次期王としての務めを果たさなければならないのは分かっていますが、1日だけ時間をください」
マナクは気持ちの整理をする時間を要求したが、ジョイルにとってこれは予想通りであった。急に父親が死んで、王になる時期が早まったのだ。当然だと言える。
マナクを残し、カイルとジョイルは部屋を後にした。
「ありがとう。助かった」
「いえ、俺は特に何も」
「まあ、そう言うな。
モンスター討伐から今までの全てに対して礼を言う」
暗い顔をしたジョイルは頭を下げる。疲れがたまっているのだろう。
カイルは少しくすぐったかった。
ジョイルは頭を上げると、いつもの将軍らしく、凛々しい顔に戻っていた。
「明日も来てもらうことになるだろう」
「ええ」
翌日の昼 城内の広間
「褒美ですか?」
「そうです。何かありませんか?」
「特には……」
「そうですか……」
空元気を見せる王子に、カイルは褒美に何が欲しいかと迫られていた。できるだけ他のことを考えていたいのだという気持ちがひしひしと伝わってくる。
「では、いつ王都を出るのですか?」
「明日にでも。昨日のうちに準備は済ませてありますので」
「どこに向かうのですか?」
「西門から北西のゲートへ」
「そうですか。あなたはセラユへ。
……困りました。時間がないのですね」
「マナク様。それではーー」
マナクの側に立つジョイルが会話に割って入り、マナクに耳打ちをしている。
「ふむふむ。なるほど! それはいい!」
「な、何がですか?」
カイルは恐る恐る問うてみた。何となく聞かない方がいいような気はしたのだが。
「アレシアという兵士をあなたの護衛につけます」
「……え? どういうことですか?」
その問いに対して、マナクは年相応に、悪戯な笑みを浮かべる。
「好いているのですよね?」
彼が連れているメイドたちから「キャー」と黄色い声が上がった。カイルはそれを無視して、マナクに確認する。
「……はい? 何のことですか?」
「またまた、君も私と同じ年頃ですからね」
……思いっきり勘違いされている。それに、どうしてそんなことに……。
カイルにはそんな気持ちなど全くない。
「では、私はこれで。ジョイル将軍、後は頼みます」
「はい」
「ちょっと待ってーー」
カイルが制止しようとしたが、マナクは構わず、召使いやメイドたちを連れて行ってしまった。
「マジかよ……」
え? アレシアと一緒に? できれば遠慮したいんですけど。
心の中で悲嘆の声を漏らす。そこにジョイルが近づいて来た。
「良かったな」
「はい?」
「お前の気持ちには前々から気づいていた」
あんたのせいか!
「あの、俺そんなことないですよ」
「まあ、良いではないか。アレシアには俺の方から言っておく。明日の朝8時に西門で良いな」
「いえ、本当に違うんですけどーー」
ジョイルは満面の笑みで、まるで子供の恋話を聞いた親のように、ニコニコしながら行ってしまった。
マジで違うのに……。
翌日の朝8時 西門前
本当にいるよ……。
本当にアレシアは来ていた。
「来たか」
彼女はカイルに気付くと、近寄ってくる。
「あの、将軍から何か言われました?」
これは誤解がそのまま本人に伝わっていないか確認するためである。もし伝わっていたのなら、気まずいったらありゃしない。もちろん、そうなっていた場合、カイルはそれを解くつもりではあった。
「ん? いや、任務だからお前を護衛しろと言われただけだ。まあ、私よりお前の方が強いだろうが、足手まといにはならないつもりだ。よろしく頼む」
良かったー。でも、アレシアのことだから任務だとどこまでもついて来そうだな。
カイルは、少しの安堵を感じたが、すぐに大きな不安を心に抱え込んだ。
「無理に来なくても良いんですよ? ゲートもまたぎますし」
「他の世界に行けるのだ。役得というものだろう」
ダメだ……。
カイルは無謀にも説得を試みたが、結局は諦めた。
「分かりました。行きましょう」
「ちょっと待った!」
2人が門を潜ろうとした時、背後から野太い声がかかる。カイルはこの声に聞き覚えがあった。
「俺も連れてけよ」
「ガゼルっ!」
「よう。久しぶりだな、カイル。と言っても数日ぶりだけどな」
驚きの再会に、ガゼルは右手を軽く挙げて、手を振る。それにカイルも同じようにして応えた。
「連れてけって?」
「ああ、俺も連れてけ」
「何で?」
「お前といると面白そうだから」
「それだけ?」
「おう」
「……分かったよ」
またしても、カイルは説得を諦めた。理由が単純すぎて反論できなかったのである。それに、仲間が増えるのはいいことだと思ったのだ。
「こちらは?」
1人置いてきぼりにされていたアレシアが会話に入る。その顔は少しだけだが不貞腐れているようだった。
「ガゼルっていうんですよ。ほら、初めて試合をした応募者の」
「ああ、彼があの人なの?」
「ええ。大丈夫です。強いですから」
「その試合は見てたわ。分かった。彼も連れて行きましょう」
アレシアがこんなにも簡単に了解したのは、カイルと2人切りだと居心地が悪いためである。要因は様々なものがあるが、1番はやはり、兵士として負け続けているからだ。
「はい。それじゃあ軽く自己紹介しましょう。
俺はカイル。出身はサイロだ」
カイルの言葉に、
「私はアレシア。王都兵士の1人」
アレシアが続き、
「俺はガゼル。強い奴が好きだ」
ガゼルが続く。
3人はお互いのことをあまり知らないが、それは旅の途中で知ることになるだろう。
「よしっ! 行こうっ!」
「ええ」
「よっしゃあっ!」
3人は門を潜り、王都を去っていく。
彼は確実に死への道を進んでいく。
心の奥底ではそれを分かっていながら。
記憶の壺に蓋をして、知らないふりをしようとも。
近づくにつれ、漏れ始めるだろう。
次回「28.モイの村で」




