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ゲートの向こうにある世界  作者: nit
第1世界・キルト
18/32

18.王家の闇

1話を長くまとめました


ーーーーーーーーーー

 先のページに、「ゲートが起動した」と書いたが、私はその時点で、そのことを理解したわけではない。

 しばらくの間は、目の前で起きた出来事に対して、ただ呆然としていただけだった。私の心は、その場にはなかったのだ。

 しかし、ヤクトが言った一言ひとことによって、私は我に返った。


「これで世界は終わる。まず手始めは、この村にしようかな」


 彼は不敵ふてきな笑みを浮かべながら言った。その笑いは、こらえ切れなくて仕方がないといった様子に見えた。

 この言葉の前半部分は、現実味を感じず、心の中を通り過ぎていくだけであったが、後半部分は、私にとって聞き捨てならなかった。


 な、何が何だかわからない。だけど、村には、村には手を出させてたまるか!


 私の心のうちはこのようであった。

 震える膝に力を入れ、地面から体を無理やり持ち上げる。そして、勢いそのままヤクトの前に飛び出し、叫んだ。


「な、何をしている!」


 私の登場により、ヤクトは少し驚いたような表情をした。いや、作ったと言った方が正しいのかもしれない。


「おや、先程から私たち、今や私だけですが、追ってきていたのはあなたですね」


 彼は気づいていた。私がつけていたことを。


「あ、ああ、そうだ! 全部見させてもらった! ひ、人殺しめっ!」


 動揺しているのが見え見えの私に対して、ヤクトはおかしくてたまらないといった風だった。


「人殺し……ですか。……確かにそうですね。私は人殺しです。そして……、この男も」


 そう言いながら、彼は王の体、いや、王だった物に目を向けた。


「あなたがたのような一般人は知らないでしょう。この男がどんなことをしてきたのか。

 私よりもよっぽどたちが悪いですよ」


 私は何も言わずに、ヤクトの顔を見つめていた。

 それを彼は「肯定」ととらえたようで、言葉を続けた。


「なぜ、王都が、キルトがこんなにも平和だと思いますか?」

「そ、それは王が民たちや他の町、村のことを考えーー」

「違いますよ」


 ヤクトは、私の発言の途中で言葉を挟んできた。


「違いますよ。全く違います。

 ……いいでしょう。お話しましょう。この男が、そして、歴代の王たちが何をしてきたのか」


 彼は、ぽつりぽつりと話し始めた。

 私はその内容を完璧には覚えていないが、だいたい以下のようなものであったはずだ。少し単調な文になってしまうが許してほしい。


 1.現在の王が即位したのは、今から23年前。ヤクトが4歳の頃。


 2.ヤクトは子供の時から近衛兵にあこがれていた。そして、あこがれだけで終わる気もなく、必死になって、剣の腕を磨きながら、勉学の方もおこたることはなかった。


 3.彼は18で兵士になり、ついに22歳の時、近衛兵となった。


 4.勉学にひいでていた彼は、王都の事務などを任されるようになった。仕事内容で分からないことがあれば、必然的に大臣に聞いていた。


 5.大臣と話す機会が増えると、自然と王との拝謁はいえつ回数も増えた。


 6.そして、王の、いや、王家の闇を知った。

ーーーーーーーーーー


「王家の……闇?」

「なんですかそれは?」

「さあ?」

「続きを……」


ーーーーーーーーーー

 ここからのことは、はっきり覚えている。

 ヤクトは確かこのように言った。


「この男は、そして、歴代の王たちは、自らの血を使い、ゲートから異形いぎょうの者を呼び出していたのです」

「このゲートは北西にあるものと違い、通常時は何の反応もしません」

「王家の血をこのくぼみに注ぐことにより、稼働する仕組みになっています」

「これは王家に代々受け継がれる秘密だそうですよ」

「しかし、このことには問題が2つありました」


「ここまでは、大臣になって聞いたことですが、ここからは、現在の王本人に直接聞いたことです」


「問題点のうちの1つは、ゲートを稼働させるには、くぼみを完全に満たすほどの大量の血が必要だったということ」

「もちろん、王たち自身が出す血は少量です。彼らがみずから大量に出すわけがありません」

「だから、先代の王たちは、何とかして少量の血で済むような方法を考えました」

「初めは水などで薄めてみることで、濃度は極端に低くなるものの、量の問題点は解決したそうです」

「ですが、それではゲートの反応が悪く、ダメだった……」

「そして、彼らは他に様々なものをためし、最終的にいたったのは……」



「……人間の血です」



 この時、私は自身の顔がどのようになっていたのか分かりません。

 恐怖に怯えていたのか。それとも、怒りに満ちていたのか。


「人間の血で、王家の血を薄め、使用したのです」

「そうすると、ゲートは起動した……」


「……そして、もう1つの問題は、人間を殺すと、その人に関係している人々が不審がります」

「なぜなら、家族などでは昨日まで一緒にいたのに、今日なって、突然姿が消えることになるのですから」


「それを解決するために、王たちはより非人道的なことをおこないました」


「血を得るために殺した人間たち。彼らに関係する人々の記憶。それらを王たちは、ゲートから召喚しょうかんした異形いぎょうの者たちの力によって、消していったのです」

「つまり、昨日まで一緒にいたはずの夫が殺されても、妻は何の違和感も感じずに今日を過ごすことになります」

「なぜなら、夫の記憶など今日の、今日からの彼女にはないのですから」


「他にも王たちがおこなってきた数々の失敗を人々の頭の中から消したり、変えたり、時にはその異形いぎょうの者たちを使役して直接殺したり……」



「このキルトが平和なのはこういうことですよ」

「全ては、王家によってあやつられているのです」

「王家にとって悪いことが起これば人々の記憶を消し、それに必要な血を得るため、人を殺し、そして、それを誤魔化すためにまた記憶を消す。これの繰り返し……」

「他の世界はどうか知りませんが、実際、キルトは平和なんかじゃないんですよ」


「まあ、初めにこれらをおこなった王が誰であるのかも、何を思ってゲートのくぼみに自分の血をそそいだのかも分かりませんが、とても人間の思いつくようなことではありませんね」

ーーーーーーーーーー


「そ、そんなことが……」

「し、信じられない……」


 近衛兵の2人が声を発するが、それに構わず、ジョイルとアレシアは続きの文字を追った。


ーーーーーーーーーー

 私は、自分が恐ろしい。

 ヤクトが言った内容をなぜこんなにもはっきりと覚えているのか。

 もしかしたら、あの時から既に、私は彼に操られているのかもしれない。


 それでも、私は続きを書き続けよう。

 未来の世代のために。

ーーーーーーーーーー


「筆者の言う通り、なぜ会話の内容をはっきり覚えているのでしょうか?」

「分からぬ」

「さ、さあ」

「私には全く」


 アレシアの懐疑かいぎの念に対しての答えを知る者は、この場には1人もいなかった。


ーーーーーーーーーー

「う、嘘だっ! そんな話信じられるか!」


 もちろん、私はヤクトの話した内容をすぐに信じたわけではなかった。彼の言い分には何1つ証拠がなかったからだ。


「嘘ではありませんよ。周りを見れば、あなたは信じるしかなくなります」


 ヤクトは、私に固定していた目を首ごと左右に動かし、それに私の目線も続いた。


「なっ!」


 「言葉を失う」という表現があるが、その時の私は、まさにそれを体で体感していた。

 視界が赤くまっていた。



 ゲートが、輝いていた。



 くぼみにまった血は、まだ湿しめっている深紅の部分と、既にかわききっている朱殷しゅあんの部分が見られた。それぞれがおの々の色に輝いていた。

 その光景が私の目には、ゲートが生き血をすすっているように見え、気色悪かった。

 この時初めて、私はゲートが起動していることに気がついたのだった。


「どうですか? これが現実です。……そして、これが真実です」


 ヤクトの声は落ち着き払った声色こわいろであった。その声は私の認識をかいすることなく、過ぎていった。

 私の心には絶望感がおそってくるとともに、1つの疑問がやってきた。

 本当はどうしようもないほど混乱していたのだが、それよりも私は、彼が言って間もない、ついさっきの言葉の真意を聞きたかったのだ。

 しかし、直接尋ねるのははばかられ、言葉を選ぶことにした。


「それで? あんたの目的は?」

「おや? 思っていたよりも早く立ち直りましたね」


 緊張から解放され、いや、緊張がゆるんだことにより、私の口調はくだけていた。彼に対する不信感ふしんかんもそれを手伝ってはいたが。

 ヤクトは、私の言った言葉の真意に気づかないふりをしているように見せて、軽い笑みを作った。


「立ち直ったんじゃない。まだ現実味がないだけだ。それに、あんたの話を全て信じたわけでもない。

 ……それより、目的は何だ? 王が死んで、終わりなのか?」

「先程、私の独り言を聞いていたあなたなら、まだなのはわかりますよね?」


 思った通り、ヤクトは私の意図を認知していた。

 その時、彼の笑みがすごみを増した。顔の表情はたいして変わっていないのだが、雰囲気に恐ろしさが上乗うわのせされた感じだった。

 それを聞いて、私は顔をしかめた。


「この世界を……、村をどうする気だ!」

「いいでしょう。その質問に答えましょう」


 ヤクトは、私の言葉の強い語気ごき気圧けおされる様子もなく、冷静に返した。

 私は無言で続きをうながした。


「壊すんですよ。……ゲートから召喚しょうかんした者たちの力を使って。

 これも王から聞いたことですが、彼らは王でなくても使役しえきできるらしいのです」


 彼は自らが言っていることの異常さに対して、何も感じる所がないように、あまりにもたん々と言った。


「何だと?」

「だから、壊すんですよ」

「何のためにだ!」

「何のために、ですか? んーー、そうですね……」


 私は沈黙して、その言葉の続きを待った。


「……言うなれば、……そう、ただの気まぐれですよ」

「気まぐれ、だと?」

「そう、気まぐれです」

「ふざけるな!」


 自身の頭に血が上っているのを感じながら、私は大声を響かせた。

 夜の森に私の声がこだまして、少しずつ小さくなっていった。


「ふざけてなどいませんよ。私は本気です」

「そんなことをしたら、どれだけの人が死ぬことになるのか分かってるのか!」

「分かっていますよ。……それでも私は人間です」


 私は会話を止めた。そして、ヤクトが言った言葉の意味を考えたが、理解できなかった。


「……どういう意味だ?」

「力を得たら使ってみたいというのは、人間として至極しごく当然の考えだと思います。私は人間ですから、欲望には勝てません」


 つまり、彼は世界の平和より、自己の欲求を優先しようとしていたのだ。


「そ、そんな理由で……。こ、このーー」

「ほら、異世界からの使者が来ますよ。見てください」


 ヤクトは、怒りがこみ上げてきた私の言葉をさえぎり、ゲートを見るよう催促さいそくした。

 私の目線がそちらを向いた瞬間、腹のあたりを激しい衝撃がおそった。

 目の向きを戻すと、視界の大部分をヤクトの顔がおおっていた。そして、腹には彼のこぶしが力強く押し付けられていた。


「すまないね。邪魔してきそうだったから」


 美しく冷酷な声が耳に届き、私のひとみは光を失って、ゆっくりと閉じた。

ーーーーーーーーーー


 4人の空間に静寂が訪れていた。それぞれは自身の頭の中で、この本に書かれていることが事実であるのかどうかを考えている。


「これは、本当に起きたこと……なのか?」


 やはりと言うべきか。最初に声を発したのはジョイルだった。彼は自身の中で答えが出なかったようだ。


「分かりません」

「私もです」

「私も」


 また、それは他の3人も同様であった。

 先程から近衛兵2人は役に立っていない。そのことをとがめるほど、今のジョイルは、頭が回っていなかった。


「私たちにはこの本の内容が真実かどうかを調べる手立てがありません。

 もう、続きを読み進めるしか方法がないと思われます」

「……ああ、そうだな。ここまで来たのなら、最後まで読もう」


 アレシアの見解けんかいにジョイルも納得し、4人は顔を見合わせて、本の終わりまで読み続ける覚悟を決めた。

次回「19.恐怖 そして衝撃」

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