プロローグ「これから始める恋愛事情」
「13番前へ」
黒服を着た大男にそう促され的場敬一は前に出た。
黒服がおもむろに脇の下から足先に掛かるまで隈無く触り始める。俗に言う身体検査だ。生まれてこの方身体検査など受けたことがないのでいやでも緊張する。
「行ってよし」
黒服の短い許しを得、さらに前に進む。
「地下労働は嫌だー! 限定じゃんけんとかないのかよ!!」
ざわ、ざわざわ、、、
某有名マンガの擬音も聞こえてきた気がした、もしかしたら気のせいではないのかもしれない。敬一を連れてきた黒服の連中は大手金融業者の名前を名乗ったからだ。
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敬一は養護施設出身で6才のときに里親に引き取られ、育ててもらったが、ことあるごとに衝突してしまい折り合いがつかず、ちょうどそんな現場に、某大手金融業者を名乗る黒服たちが家に押し掛けてきて、敬一を引き渡せばお前の借金をチャラにすると義理父に迫ったのだ。
それから先の展開はあれよあれよという間に進んでいき――
あっさりとそれを承諾した義理父の歪んだ笑顔と借金の存在すら知らなかった敬一のあっけらかんとした変顔により、気がつけば事ここに至るのだ――
左右にはどうやら同じ境遇の、しかも同じ年と思われる高校の制服を着た男子が十人程、横並びに順番を待たされていた。
黒服についてくるように指示され、歩き出す。
室内は薄暗く一応、事務所?
パーティションなどではなく、ちゃんと壁で各部屋を区切り、しっかりとしたドアもある、それを何枚か通過していく。
よく見ると黒服の後ろポケットには、日曜朝に放送されている某魔女っ子アニメの財布が刺さっている。そういえば、さっき見た別の黒服もこのアニメのグッズを身につけていたような気がする、流行っているのか?
黒服の存在も貢献しているのか、薄暗い空間と妙な埃っぽさは、健康的なオフィスには見えない。所謂やくざ的な人が使う“事務所”にしか見えない。
着いたのか黒服が手で奥の部屋に入るように合図する、促されるままにドアの前に立ちゆっくり息を吐き、ノックする。
「失礼します!」
「はい、どうぞ~」
??
中から予想していた怒号のような、威勢を放つというか泣く子も黙るというか、そんな声は返ってこなかった女の子?
それも澄んで澄み切ったような――
「どうかされたましたか?」
「いえ、何でも」
意を決して扉を開ける。