ファミレスで
透きとおるような、青が溶ける。
いかにも着色料たっぷりといった感じの、水色に染められた氷の山を崩し、先っぽがスプーンになったピンク縞のストローで口に運ぶ。ふわふわっとしたあとに、これまた思いっきり人工甘味料って感じの、甘ったるいシロップが舌の上から喉ごしを流れ落ちていく。
外は相変わらず酷暑の模様。炎天下、日光がアスファルトを照りつけ、むっとした空気のなか、ミンミン蝉が鳴き、自動車の走行音とクラクションが雑踏に混じる。
暑苦しそう。
クーラーがガンガン効いたファミレス。窓際のテーブル席から外を眺めていると、
「母さんは元気か」
お父さんが声を掛けてきた。正確にいうと、“もと”お父さんが。
「うん。べつに、元気だよ」
「そうか。なら、よかった」
にがそうだし、まずそう。あんな真っ黒い液体に、ミルクも砂糖も入れないなんて。
さっきからアイス珈琲をブラックでちびちび飲みつつ、最近の天気やニュースなど、どうでもいい世間話をひとりで喋っていた父がようやくそれなりに本心を言葉にした。
ひどく他人行儀な雰囲気。
しょうがない、か。四年前に親が離婚した当初は、それこそ毎月あたしと会って熱心に遊びにも連れていってくれたりしたものだけれど、それがひと月に一度から二三ヶ月になり、いまや半年に一回会うか会わないかくらい。それも特別どこかへ遊びに行くことはほぼゼロ、ここ数回は簡単な食事をして終了、というパターンになりつつある。
「お父さんは? 変わりない?」
「ああ」
「そう」
「ああそういえば……父さんじつはな、近々再婚しようかと思ってる」
「そう」
あたしは“もと”父の顔を見ることなく、外に目線を向けたまま即レスした。
「そういえば」
あたしはふと思いついたことを口に出す。
「お父さんは、叔母さんを知ってる? 事故で亡くなったお母さんの妹」
「ん、ああ……あの人、なあ。おそらく、結婚式のときに挨拶した程度かな」
「そう。じゃ、ほとんど知らないんだ」
「そうだなあ。むかし、母さんからちょくちょく話を聞きはしたがなあ、こどもの頃からアクティヴだったって」
「へー」
「ところで夏雪、今年もどこにも行かないのか」
グラスに半分残っていた珈琲を飲みほすと、父が聞いてきた。
「うん、たぶん」
「そうか。しかし、なんだな、夏雪は最近とみに母さんに似てきたな」
「そう?」
「ああ。父さんには全然似てないからなあ。やっぱり母さんには似て、和美人って感じがするよ」
どこが、と思う。顔はちょっと角張っていて大きいし、瞳はかろうじて二重だけどあまり大きくないし、肌は日に焼けやすく年がら年中浅黒いし、スタイルは良くも悪くもないっていうか正直ずんぐりむっくりぎみだし。
でも、母親にはよく似ているかも。近頃たしかに他人にも「お母さんとそっくりね」なんて言われることが増えた。
「夏雪」
「何?」
立ち上がって伝票を手にしたとき、急に父は真剣な表情になった。
「たとえ夏雪との関係が変わることあっても、父さんはいつまでも父さんだからな」