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だから夏は嫌い

 夏と冬、どっちが嫌い?

 つまんない質問。たぶん誰もが一度はされたことある、ってことは誰もが誰かに一度はしたことある、ほんとにどうでもいい質問。

 あたしはむかしっから、この質問じたい大っ嫌いだった。

「ねー、ナツキ。あえて言うなら、夏と冬どっちが嫌い?」

 クラスメートが聞いてくる。

「ほら、よく言うじゃん、夏は暑いし冬は寒いし、どっちのほうがイヤ? みたいな話」

「それじゃちょっとネガティヴな聞き方じゃない? それだったらさ、『夏と冬のどっちが好き?』ってほうがよくない?」

 とはべつの同級生。

「じゃさ、『夏と冬のどっちがマシ?』ってのはどう?」

「おんなじだって。それじゃ結局ネガティヴじゃん。どっちのほうがまだ我慢できる? みたいな。何が嫌いか考えるよりさー、好きなことだけ考えるほうがよくない?」

 よくない。好きでも嫌いでも結局、テストかクイズの二択問題みたいだし。人間の感情や価値観って、そんなふうに簡単にわりきれるものじゃない。

「まーあえて言うなら、冬のほうがいいな。だって夏は暑いから、やたら日に焼けるでしょ、汗をかくでしょ」

 ほかの子が指折り列挙する。

「日焼けはしちゃうわメイクは崩れるわ、ってたしかにヤなことばっかし」

「そうそう、体臭は気になるし」

「あるあるー」

「自分のも、他人ひとのもねー」

「わかるー」

「まー私はしいて言うと、やっぱ冬のほうがマシかなー。だってさ、寒いのは服を何枚も重ね着すればなんとかなるけどさー、暑いのは服を脱いでもどうにもならないじゃん」

「なーる」

「暑いのは裸になっても限界あるでしょ」

「でもさー、雪山で遭難した人が、感覚おかしくなって『あついあつい』って素っ裸になっちゃうって話、どっかで聞いたことあるよー」

「何それー」

 みんな言いたい放題。「あえて」とか「しいて」とか言って、究極の選択みたいにむりやり決めちゃう。で、それを勝手に他人にも強要してくるんだよね。

「で、ナツキはどうなの。夏と冬どっちが好き? やっぱ夏が好き? でも雪が降るからやっぱ冬、か」

 ほらね。

 あたしの名前は『夏』に『雪』と書いて、『なつき』と読む。フルネームは佐藤夏雪。中学生になってもう三ヶ月、仲のいい友達はあたしのことを「ナツキ」と呼ぶ。当然、ふだん先生やクラスの男子たちには苗字で呼ばれている。いつもは興味もたれることないけど、ときどき下の名前に目をつけられると、これが超めんどくさい。

「へー、夏に雪か。めずらしいね」

 で、そのあと聞かれるのは読みだけでなく、きまって漢字から連想される名前の由来だった。

「まさか、夏に降る雪ってこと? おもしろいね」

 めずらしくて、おもしろい。だいたいこれがあたしの名前の総評。SNSなら『いいね』を押してもらっているとこだろうけど、あたしにはいらない迷惑。

「なんで夏雪って付けられたの?」

 さあ、と曖昧にあたしは言葉をにごす。だって、あたし自身その理由を知らないのだから。

 八月生まれではたしかにあるけども、あたしは雪のように肌が白いわけではないし、ほんとに雪が夏場に降ったなんてことあるわけないし。

「なんで夏雪って名前付けたの?」

 あたしだって疑問に感じて親に聞いたことがある。たしか、幼稚園のとき。なにげなく、だけどこどもの無邪気さ率直さではっきりと、質問をぶつけた覚えがある。でも、父も母もはっきりとは答えてくれなかった。ぎこちない笑顔、そんな微妙な反応をされ、ヘンな空気になった。こどもながらに気を遣ったあたしは、それ以上つっこんで聞けなかった。

「ねー、ナツキ。夏と冬、どっちが好き? 嫌い?」

 で、この質問。あたしはあたしのこのヘンな名前のせいで、けっこうこのつまんない質問をされる。

 正直どっちでもいいし、どうでもいい。

 でも結局、

「けどさー、やっぱ夏は夏で好きかも」

「わかるー」

「だって夏は、夏休みがあるもんねー」

「ねー」

 やっぱ、その結論。それからみんな、もうすぐ始まる夏休みの話題でもちきりだった。

 あーあ。

 夏なんてなくなればいいのに。

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