2章 炎天下フェスティバル。 灰歌姫<ライフ・ド・デスター>
「明日は学園主催でフェスティバルが開催されます」
先生いわくこの学園のフェスティバルは、学園内を一般人に開放し、経営を学ぶというのが目的らしい。
千年前ならあった文化だろう。
過去の時代から有益を学び、近代へ取り入れ、それらをうまく生かす。
要するに古風であり、アナログなことを取り入れることもある。というわけだ。
催しの形式は各クラスに学園側が用意するらしい
「ようオレ、マイケルって言うんだよろしくな、ダチ!」
「ああ」
なんかダチができた。
「あー学園の外から出たくないぜ~
暑いしよ…お前もそう思わね?」
「そうか……グラウンドには囲いやカバードームがあって、比較的涼しいと思うがな……」
「炎天下をなめんなよ。めっちゃ温暖化してんだぞ」
「……」
「明日から7月だぜ?」
「……つまり暑いということか」
次の日―――――なんだか生温い気温ではあるがまあマシなんじゃないかというくらいの炎天の下、クーラァのかかる中ではたしてこのクソアツい日に家の外に出て学生のやるママゴトを見物しに人が来るのかどうかも怪しい状態だ。
「晴明くーん!」
こちらに声をかけ走ってくる女生徒。
「星野川さん……おはよう」
「おはよう、私達のやるモヨウシはお化け屋敷なんだって」
なん……だと……?定番の喫茶店じゃないのか―――――?
まあ普通はこんなもんだよな……ああ、テンション下がる。
「猫娘と雪女どっちがいいかな?」
「折衷案で白装束に猫耳でいいんじゃないか」
「なるほど……」
そういや、なぜ何をやるか当日に言われぶっつけ本番なんだぜ。
普通は学園祭といったら事前になにをやるかクラスで決めるものではないだろうか。
「なあ、なんで……」
まさか学園の偉い人は何も考えてないんじゃないだろうか―――――
「―――やあこんにちは。君が代表のミナニシ=トウセイ君だね?」
スーツ姿のいかにも偉い感じの中年の男が声をかけてきた。
「いや、俺はハルアキ・トウナツです」
「お父様!」
どうやらアイラ・ホシノガワの父親だったようだ。
せっかくだし、テーマ決めを当日まで隠されていた理由をたずねてみることにしよう。
「理事長、質問してもいいでしょうか?」
「……?」
「ああ、構わないよ」
「どうして文化祭をすることを突然開催の前日に発表し、クラス内での出し物を話し合う機会がなかったんですか?」
「そんな質問をしたのは君くらいだ。さすが、学園総代といったところかな」
理事長は機嫌よく、手を軽く叩いた。
「君達はこれから上に立つ側となりうる。
同時に君達は観客達を楽しませるエンターテイナーとなる」
「……この学園主催の展示会は、社会勉強のために開いたものというのは、建前に過ぎない」
「……はあ」
「マニュアルの通りにこなしていれば、間違いはおきないだろう。
だが、それと同時に実戦ではアドリブで困難に対処することを実際に学ぶことも必要になる。」
なるほど―――
「君達はこれから世界を動かす側、動かされる側のどちらかになっていく」
「上に立つ者は革新する側にあり、支配する権力や富を得る。それはごく少ない限られた側であり故に孤独。
――下の人間は上の定めたマニュアルに支配されるが、ただ従って動くだけであり何も考えなくていいから楽な立場なんだ」
「……」
「はじめから決められた展示をやれ。そう言われて、君はつまらなかっただろう?」
「……」
ちらりと猫耳雪女をみる。
「いえ、結果オーライだと思います」
妖怪喫茶だかなんだかをやっている。とくに困った客がいるとか、材料が足りない等の問題は起きていない。ドジッ娘もいない。
「【雪女の涙氷<レディ・スノー・ティア>】注文入りました」
この糞熱いときにかき氷……いや普通だ。
これなら料理ができなくてもただ削ってシロップをぶっかけるだけなので、すぐにできるだろう。
ハンドルを―――――
「あ、やっべ……」
壊れたと思ったが、はめたら直ったしまあいいか。
器に乗ったソレにシロップをかけ練乳をぶっかける。
できたやつを星野川が回収した。
「おまたせしましたー」
お嬢様だが、接客はできるようだ。
「はあ!?」
なにやら客が大きな声を出した。
「お前知らねーのかよ灰乃歌姫<あくのうたひめ>ちゃんだぞ」
「しらねーよアイドル興味ねーもん」
俺もそんな痛々しいアイドル知らない。
「おつかれーもうまわってきていいよー」
クラスメイトΣ子が俺達に言う。
「よかったら、一緒にまわらない?」
「いいけど」
周りの男たちの視線がギラついてるんだが。
「ねーねー今からライブやるんだってー」
「へーどんなんだろ?」
一般の若い二人組がいく。ライブか……
「ライブとはなんですか?」
「コンサートのことだ」
「ああ、なるほど……」
「試しに観にいくか?」
「はい」
なぜか大量に人がいて、俺達は舞台から距離がある。
簡素なお立ち台を立ててあるようだが、学生のやるバンドにはこれで十分だろう。
肝心のバンド奴はいつくるんだ。
「キャー!」
突然黄色い声があがる。ようやく歌い手が舞台にあがってきたようだが、そんなに騒がれる奴なのだろうか?
マジのアイドル並みに美人とかか、隙間から姿を見てやろう。
アプリコットオレンジの髪の――――
こいつ人気アイドルの灰乃歌姫だ!どうりで観客が多いわけだ。
「――――いらないよ、そんな安らぎ。君のことなんて誰も必要としない。
まやかしの夢物語り、信じたくない。誰も僕を必要とはしない。
全部嘘なんだ。何もかもが虚像。それならもう、すべてを、消し去ってしまおう」
歌は上手いが、心に響かないというか……傷つけられたような感じがした。
「う……」
いきなり周りがくらりくらりと倒れていく。
「!?」
この場にはステージにいる灰乃と俺、星野川だけが残っている。
―――――――いったい何がおきたというんだ。
茫然とその場に立ちつくすしかできない。
ガッ!――という音がして俺と星野川アイラの間に、なにかが投げられたのだと気がついた。
それを確認するとマイクで、それは地面に刺さって直立していた。
「―――貴方がハルアキ=トウナツね……」
マイクが紐を伝って声の主の手へかえる。
―――タン!
女はステージから飛び降り、俺達の前に堂々と顔を見せた。
「これ、お前がやったのか!?」
歌を聴いた人間が一斉に倒れるなどありえない。―――まちがいなくこいつがやったんだ。
「そう……あたしがやったの」
灰乃は無機質な笑みを浮かべる。
「なぜ罪のない人たちを……それに皆は貴女のファンなんですよ!」
星ノ川は激情する。
「べつに死んでない……眠ってるだけ……」
灰乃は“なぜ怒こる”といいたげに首を傾けた。
「灰汁歌姫、お前は何者なんだ。なんでこんな真似をした」
「……あなたと話すのに外野は邪魔だったから眠ってもらった」
おそらくこいつは声の能力者だよな。
しかしマイクが生きているかのように俺たちを狙ってきたのがひっかかる。
「あたしは……愛盗る<アイドル>。ハルアキ=トウナツという男を連れてこいとボスに言われた」
「怪しい組織に狙われるような心当たりがないんだが」
「あなた……手術なしで能力を使える唯一の存在……有名……」
「……悪いな。ボスだかボストンバックだかしらないが怪しさマックスのお前とは行けない」
「寒い……今日のところは帰る」
「あ待て!!」
「彼らを元に戻しなさい!」
「ちょっと寝てるだけ、すぐ起きる」
「アイツなにしに来たんだ……」
「とにかくこのことを連絡しよう」
「そうだね」
―――青髪の少女は舞台袖から二人と歌手の様子を眺めていた。
――――――――
星ノ川は不振な女のことを説明した。それがあのアイドルだということもしっかり話す。
「そんなことが……」
担任のシラツメ先生は神妙な様子で話をきいた。
「まったく……どうしてそんな危険なアイドルを学園に招いたんだ」
中年のハゲ散らかした男性教師は苛立ちながらオバハン教師にいう。
「勝手に来たんでしょうが!そんな変な歌手なんてよんでないわよ!」
と頭に血を喧嘩腰で答えた。
「お前がゲストを招くよう校長から頼まれたんだろうが!!」
「その後アンタに連絡するようたのんだでしょーが!!」
まるで夫婦喧嘩のような言い争いが始まってしまった。
「ここだけの話あの二人は幼馴染みで200年前は付き合ってたけど別れてお互い別の人と結婚した関係なのよ」
とシラツメ先生がこっそり複雑な大人の過去を俺と星ノ川に語る。
「お嬢様」
職員室から出ると、黄緑髪でメイドエプロンをした女性が待っていた。
とりあえず軽く頭を下げる。すると向こうも会釈した。
「朝霧<あさぎ>さん迎えにしては早いのね」
「いいえ、お迎えにあがりました」
「え?……でもまだ学園祭が」
「中止になったそうです」
まああんなことがあったわけだし、普通なら中止だよな。
「そうなの……」
星ノ川は残念そうに肩を落とした。その様子を見ていると俺はメイドと目が会う。
「じゃあ私はこれで……今日はまわれなくて残念だったけど、お店楽しかったね」
「ああ」
特に朝霧さんからはなにも問われなかった。二人は廊下を歩いてここから去る。
「あ、星ノ川さんかえっちゃったのね。じゃあ唐夏くんは軽く話を聞かせてもらえる?」
「はい」
「なぜ彼女が来たのかを考えると学園祭で都合がよかったから、でしょうね。そして貴方に用がある人物というのは特に気がかりね……」
先生は頬杖をつきながらデスクにあるノートPCを開く。
「はー買い換えなきゃだめかしら」
PCの調子が悪いのか、カドを乱雑に叩いている。
「お金ないんですか?」
「いやお金はあるんだけどこれ一ヶ月前に買ったばかりなのよ」
先生はため息をつきながら話す。
「あー一年ならまだ仕方ないですけど一ヶ月は不良品すぎですね」
「そうなのよ……どうせなら初日に壊れてくれてたら」
先生に限って忘れているとは思えないが一ヶ月ならまだ保証書が有効なんじゃないだろうか?
「あの、保証書とかないんですか?」
「これ激安だったからねえ……」
――つまりそれはいつ壊れてもおかしくない品だった。
「高くても長く使えるものがいいと思います」
「そうね何度も買い換えてたら逆に無駄だわ」
ダイエット食品を食べたら太らないみたいな考えは捨てるべきだ。
――少女は両親に声をかけたが、両親は煩わしそうに無視した。
少女は学校の友人に話しかけられる。けれども言葉の意味がわからない。
“門限について口うるさい両親が嫌い”友人はそういった。
無視されるよりもうるさいほうが、ずっといいだろう。
少女はついさっきまで友人だと思っていた相手から興味をなくした。
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「はあ……」
文化祭での歌姫のこと、俺を狙う組織のこと、何もわからずじまいだ。
「……誰も灰汁歌姫を知らないのはおかしいと思う」
「星野川もそう思うか」
名門校の文化祭であれだけの騒ぎを起こしながら目撃者が俺と星野川だけなどあり得ない。
「一般人が考えても仕方ない。といえばそうだが灰汁の歌姫の狙いは俺らしい」




