1章 本当は来たくなかった。まあ俺が棄権、お前の不戦勝でいいだろ
西暦6000年、人類は他の惑星を特殊な装置によって、地球に繋げた。
異星人と交流可能になり、ますます地球は進歩した。
人間はたった一つの細胞から機械が培養して作ること。
人の世話を全てロボットがやってくれること。
人間の暮らしは寛容で、豊かになった。
そして、数年が経ち、更なる技術の進歩が始まった。
これまで人間は赤子から成人になるまで、20年もの月日がかかっていた。
新たな機械が開発され、成長過程は大きく短縮されることになったのだ。
母機培養ののち、たった2日で、外見年齢16才になる。
知識や力を培養の過程であらかじめインプットすることは、禁じられている。
あくまでも生まれた時は、皆が平等に平均の能力を持つ。
そして国民は生誕したさいに、自分で特異能力を選ぶことが出来る。
能力付与手術を受けるのが、義務となっており、無償。
――――――のはずが、俺は能力付与の手術をキャンセルされた。
というわけで、能力がいらないロボットのパイロット学園に入学するつもりであった。
西暦2400年の宇宙生物飛来で活躍した伝説のパイロットに、ひそかに憧れている。
――――――行きたかった。
パイロットになることを両親に反対されている。
俺は一人息子のため“パイロットのようにいつ死ぬかわからない仕事は止めろ”というが――――
一番の理由は家が一般家庭なため、専用ロボットを買う金がなかっただけだろう。
というわけでいま【私立ノウイ学園】の校門前に来ている。
なんと、両親が勝手に申し込んだせいで、超絶名門校に入学させられることになった。
まだ学校側の査定を通過しただけで、これから入学試験を受ける必要がある。
この時代は、能力テストが優先されるんだ。
能力を持たない俺なんかが合格出来るわけがない。
学園内に入り、地図にしたがって試験会場へ向かった。
会場は今まで見たことがないほど広い。
中心のバトルフィールド、高く先の遠い天井。
この部屋を、能力試験を受けるだけのエリアだと物語るにはじゅうぶんだった。
「おいお前!!」
突如、背後から男に声をかけられた。
彼も同じく試験を受けるつもりのようだが、なにやら激昂している様子。
しかし、俺は彼と面識はない。
こんな態度をとられることをした覚えがないのだ。
「なんだよいきなり。俺、あんたに何かしたか?」
「お前……僕を誰だと思っている!」
よくこいつの姿を見てみると、キラキラ輝く高そうな腕時計、新品スーツ。
いかにも金持ちの子供らしい服装をしている。
おそらくこいつは、この部屋に入るとき、挨拶をしなかったのが気にくわないんだろう。
「しらねえよ、お前だれだ」
俺はわかっていて、あえて聞く。
「男爵家の僕になんたる態度!!」
「金持ちだからって威張ってんなよ」
貴族というだけで、上から俺達を見下す様は腹が立つ。
こいつと関わっても絶対ロクなことがないので無視して去った。
「では新規学生候補の皆さん――――」
試験開始のアナウンスが、どこかから聴こえる。
よく目をこらすと、星、ハート、ダイヤなど様々な形のものがプカリと宙に浮いている。
あれは最新型の浮遊式遠距離コードレススピーカーだ。
「試験はタイマ…ごほん!一対一で能力を使い、どちらかが戦闘不能になるまで続けてください」
試験が始まる――――――――。
まず、フィールドは一つしかないので、呼ばれるまでみんな椅子に座って待つ。
床下から円柱の移動装置が上ってきて、それが開くと、二人の大人が現れた。
一人は髭の生えた男、もう一人は眼鏡にスーツの美人秘書。
おそらく学園の偉い人間だろう。
「あ……」
隣の席から小さな声を発したので、俺はそっちに意識が向いた。
長いイエローピンクの髪を一つに結った女子が、あの男女の姿を見て、そわそわと落ち着かない様子だ。
「アイラ・ホシノガワ」
「はい!」
呼ばれたのは隣の女子だ。
「サトコ・タナカ」
「はい」
フィールドにあがり、対戦者は向き合う。
そして、武器を腕から出現させた。
ホシノガワの武器は長槍、タナカはナイフひとつ。
勝敗は目に見えているが、やる気のあるタナカに対し、ホシノガワはうろたえていた。
これは勝敗がわからないかもしれない。
「いくわ」
―――どうやらタナカが真っ先に、攻撃をしかけるようだ。
飛び上がり、ナイフをホシノガワの頭上へふり下ろした。
ああ、これはだめかもな。
「―――――波!!」
たった数秒まばたきをしていた一瞬の間、勝敗がついていた。
勝利したのはアイラ、地には倒れた対戦相手とナイフが転がっていた。
個人のスペックに差がなくとも、能力に差があるだけで、簡単に勝ち負けは決まる。
入る気ないのに怪我はしたくない。
対戦が決まったら、すぐ棄権しよう。
次の対戦を気長に待つ。
戦いを終えた順に帰宅するようだが、もうここにいる人は少ない。
もうすぐ試験が終わりそうになった。
「トーマス・バロン」
「ああ」
さっきの貴族か、気の毒な対戦相手は誰だろうな。
プライドの高いやつだったし、勝っても負けてもあいつに恨まれるだろう。
「ハルアキ・トウナツ」
俺かよ―――――――!
どんよりとした気分でフィールドに上がると、奴が見下したような、挑発まじりの表情してきた。
「お前は僕にあっさりと、なすすべなく倒されて赤っ恥をかくのさ!」
トーマスは滅茶苦茶、勝利を勝ち取る気満々である。
一方俺はまったくやる気がないので、滑稽に見えた。
「はーーもう、無駄な恥なんかかくくらいなら棄権でいいよ。俺もともとこの学校入る気ねーしさ」
大体ド庶民の俺が名門お金持ち学園なんか通えるか。
学費も高そうだし、ここに入れるなら、ロボット学園にも行けるはずだ。
「俺き…」
「させるか!」
トーマスが手袋を投げてきた。
「なんだこれ」
「騎士は決闘の申し込みにはこれを使う」
「お前貴族じゃねーか」
「いまのは少しいい間違えただけだ!僕はこれからお前をギッタンギッタンのメッタメッタのコテンパンにしてギャフンと言わせる」
「だから、俺が放棄すればお前は勝つだろ。大体決闘申し込まなくてもハナっから対戦相手じゃねえか……」
「不戦勝など美しくない!戦え!!そして無様に負けろ!!何度も言わせるな」
「はあ……」
「ド庶民のお前にいいことを教えてやろう」
「いいこと?」
「この学園はな、生徒の学費がタダなんだ」
「は?」
「一番優秀な生徒は、なんでも願いが叶うという」
なんでも叶うということはつまり
この学園で一番優秀な生徒になれば、ロボット学園に通う金の免除。
それが可能かもしれない。
俺は決めた。こいつを倒し、この学園に入学する―――――
「どうだ庶民、やる気が出たか!」
高笑いをするトーマス。
「……ああ、楽しみだなパイロット」
「は?」
「いや、こっちの話だ」
「だがそんな余裕もかませるのもいまのうち…なぜならお前は僕に倒され吠え面をかくことになるのだからな!!」
どうせこいつは、能力があっても
たいしたことないだろう。
いかにも弱そうなやつだし。
「さあ武器を出せ!」
トーマスが言う。
「お前が先に出せ」
こいつ、素手でじゅうぶんだろ。
そもそも武器を出せないしな。
トーマスがレイピアを具象化、突き刺しにくる。
俺は左に避けた。あいつが武器を右手に持っていること、貴族だから剣術などの心得があるだろうと思ったからだ。
自分から向かって左側から攻撃された場合、右に避けるのが普通だ。
これはボクシングなどの殴りあいでもほぼ同じだが。
左側から攻撃されたら右にいく。
それは自然なことで、相手も簡単に予測しているだろう。
だからあえて、攻撃の当てやすい左側に行った。
「お前……僕を侮辱しているのか!?」
俺がいつまでも武器をとらず、闘おうとしないことから、トーマスは激昂しているようだ。
「べつに馬鹿にはしてねえよ。俺が武器を出せないだけだ」
「―――非具象化タイプか?」
「敵にそう簡単に手の内を明かすかよ」
たんに能力手術を受けていないから使えないだけだ。
あとからでも受けられる場所を見つけるつもりである。
だが、今ここで入学のチャンスを逃せば、一生夢は叶わない。
悔いながら約500年を生きるなどごめんだ。
やはりこいつの本体に攻撃をするのがいいか。
ルールも特に言われなかった。
死なない程度ならいいだろう。
と攻撃を避けながら考える。
たが俺は余裕をかましていられるほど強くはない。
性格は差があれど、遺伝子の操作機械がやったのだ。
身体能力値は皆、完璧に均等である。
つまり能力手術で得た武器によって変わるのだ。
まいった。こいつの性格がいかにも雑魚っぽくて、そのことをド忘れしていた。
どう勝つか、攻撃をただ
避けるだけでは勝てない。
「どうした庶民!!早く僕の攻撃を受けて無様に負けろ!!」
「……!」
―――――レイピアの先が、左肩をかすめた。
うっすら、紫色のが滲む。
――――自分の血を初めて見たな。
進化の過程で、赤い血を持つ人間は全滅した。
普通の血は黄色か緑なのだが、どうやら俺のは紫のようだ。
なぜだ。傷がついたのはほんの少しだけなのに、頭が―――――――
「どうしたその程度か庶民!!」
俺の右腕から、紫のオーラを纏う剣、左腕には銃が現れた。
「なに……!?」
「悪いが―――――」
剣を左から右へ横にふる。
相手のもつ武器を一刀両断にした。
「あれは……」
「どうなってるの!?」
「理事長」
「わかっている――――」
「お前、なぜ……」
トーマスが唖然としている。
「武器を出さなかったか?」
俺も少し驚いている。
能力を持っていないはずなのに、武器が出てきたのだから。
「そうだ。それほどの武器を持ちながら……」
「出さなかったわけじゃねえよ……偶然出てきただけだ」
なぜ武器が出現したか、は今はどうでもいい。
勝ったということは、この学園へ入学、ゆくゆくは俺がパイロット。
「よっしやあああああ」
その事実を噛み締めて、高揚した。
「一年生代表、前へ」
はれて向かえた入学式、新規生徒は30人程度で少ない。
代表となる生徒が、ゆっくりリフト盤に乗ると、階段を使わず舞台にあがる。
降りたときに、カツリと靴音がした。
「星野川アイラです」
この前俺の隣の席にいた子だ。
彼女は試験のときにみた姿とは違う
冷静な雰囲気で、演説をした。
―――――
入学式が終わり、家に帰る途中、誰かにぶつかる。
「ごっごめんなさい」
星野川アイラだ。
「いや、俺のほうこそボヤボヤしてて悪かった」
「あ、入学試験のとき、隣にいたよね!たしか…」
「唐夏晴明だ」
「試験ですごかったんだってね?私帰ってたから見てないんだけど……」
「いや、全然見せるほどのもんじゃないって」
「なにはともあれ、これからよろしくね」
「ああ、よろしく」
――――――――――
「よろしく」
翌日、自己紹介タイムでクラスの奴に軽い挨拶をした。
「私は今日から学級委員長をつとめることになりました。心都リカです」
いかにも気が強そうな黒髪ストレートだな。
―――――――――――
「唐夏君」
心都が髪を揺らしながらこちらに走ってきた。
「……なんだ学級委員長」
「明日、貴方が学園代表として、偉い方に会うことになったそうよ」
「は?」
俺が学園代表?マジでか?
―――――――――――
「さて、どうしたもんか」
学園代表――――
よく考えれば俺の目標に近づいたじゃないか。
学園で一番優秀な生徒になり、ロボ学園に転校する夢を叶える。
この調子でいけば、実現はそう遠くないな。
――――
「君は優秀な生徒だそうね」
いま目の前に敏腕女社長風の宇宙軍のお偉いさんがいる。
「はい」
そうなれないと困る。よくわからないがやる気はバリバリだ。
「自信たっぷりね」
お偉いさんは機嫌良さそうに笑う。
「そうですね」
なんだかチラチラこちらに学園教師の視線が飛ぶ。
対応が気に入らないんだろうが、どう足掻いても一般人の俺に偉い人を喜ばせる話術なんてねーよ。
偉い人は案外気に入ってくれたらしく、学園ののぞむ取引もうまくいったようだ。
「いやー君はすごい」
教師どもがさっきまでの態度から、てのひらをかえす。――――このやろう。