カプリースボックス
ここは4階層。これまで出現した邪族は、ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンプリースト、ゴブリンウォーリアー、コボルト、スライムだった。基本5階層ごとに邪族の生息範囲は変化するらしい。それにしても、みんな体力あるな。私は、ちょっとしんどくなってきた。体力もここまで差が出てくるとは思わなかった。そんな時、竜崎君が隠し部屋を発見した。助かった、少し休める。部屋の中に入ると、台座の上に宝箱があった。いち早く、芝屋君が反応した。
「お、宝箱だ。早速開けてみようぜ。」
「ちょっと待て、芝屋。その宝箱、前見た物と違うぞ。」
「え、そうか。あ、台座に何か書かれてるぞ。」
なんだろう、私も見てみよう。えーと、
『この宝箱はカプリースボックス。ボックスの主人があなた達を気に入れば、多種多様な宝物が、気に入らなければ最悪全員死にます。なお、ここまで読んだ時点で開けると見なし、扉を閉じます。さあ、早く開けなさい。』
読んだ瞬間、扉が閉じ、私達7人は閉じ込められた。
「え、おいマジかよ。本当に閉じ込められたぞ。芝屋、他に何か書かれてないか。」
「竜崎、ちょっと待ってくれ。駄目だ、開けるしかない。」
「僕がやってみよう。このメンバーの中で、一番運が良いからな。いいよな、竜崎。」
「おい、久保。仕方ないな、用心しろよ。」
久保君が箱を-----開けた。どうなる?
開けた瞬間、大音量の声が響いた。この声、聞いた事がある。まさか---。
『パンパカパーン、おめでとう。今回はこの7人が開けましたか〜〜。竜崎君、芝屋君、久保君、近藤君、永崎さん、古川さんには貴重な武器防具を与えま〜〜す。』
やっぱりそうだ!この声、あの女神だ。私の名前が呼ばれてない。絶対何か企んでる。気を引き締めないと。
『そして、清水さん、私はあなたの事が大嫌いなの。本当は、このまま放っておくつもりだったけど、ちょっと気に入らない出来事があったのよね〜〜。よって、私自らがあなたを処分しま〜す。ただね、殺すだけじゃ、私の気が済まないから、これあげる。名前はね〜、邪心薬と言うの。早い話、これ飲んだら邪族になるんだよね〜。あんたには邪族になってもらって、クラスメート達に殺される刑を与えまーす。』
「な、ふざけないで!なんで、私を嫌うの?私は声を聞いただけで、あなたの顔すら知らないのよ。」
『でもね〜、私はあなたの顔を見たんだな〜〜。だから、死んで。』
こいつ簡単に引っ掛かった。わざとなの?
「冗談じゃない。みんな、この箱の持ち主はあの時の女神よ。」
「おい、清水本当か。」
「ええ、さっきの質問は、私が女神の部屋にいた時の状況を示すものなの。姿は見てないけど、声だけは聞こえたから。こいつ、普通に答えてくれたわ。みんな、今回の-----」
え、何、急に喋れなくなった。
『は〜〜い、それ以上は駄目だよ〜〜。言ったら詰まらなくなるからね〜。』
やっぱり、この女神が絡んでるのか!
「女神様、ちょっと待って下さい。どうして、そこまで清水を嫌うんですか。清水は声を聞いただけで、女神様は清水の顔を見ただけなんですよね?」
『竜崎君、それはね、こいつが禁忌を犯したからだよ〜〜。罰を与えないといけません。さ〜て、そろそろお薬の時間だよ〜。じゃ〜ん、邪心薬〜、さあ、とっととこれ飲んでね〜〜。』
「な!おい、答えになってないぞ。あんたが清水の顔を見ただけで、なんで禁忌に触れるんだよ。」
身体が動かない。小さな小瓶が私の口元に現れた。
「------」
私は、竜崎君たちに必死に訴えた。でも、全員身体が硬直してて、喋れず動けなくなっている。みんな必死に動こうとしてくれてるけど、ビクともしない。
抵抗虚しく、私は邪心薬を飲んでしまった。その瞬間、身体の中におぞましい何かが出現した。叫ぶ衝動が抑えられない。その時、全員の硬直が外れた。
「ああああああああーーーーーー。」
「清水〜〜」
「清水さん」
「おい、不味いぞ。清水さんの中から、どんどん邪気が溢れてる。女神様、なんとかならないんですか。どうしたら清水さんを許してもらえるんですか?」
『あれ〜〜、久保君も清水さんの味方をするのかな〜〜。だったら、全員死んじゃいますか〜〜?』
あああああ、意識を保て。せめて、みんなを逃さないと。あの女神、気が変わって全員殺す気だ。私を殺すなら、いつでも出来たはず、なぜそうしなかった?考えろ考えろ。この部屋、あの箱、まさか!あいつは、この世界に殆ど干渉出来ない?干渉するには、あの箱とこの部屋の空間が必要だとしたら、この部屋から脱出出来れば、もしかしたら私は無理でも、他のみんなは助かるかもしれない。
「みみ、みんな逃げて。早く逃げて。このままだと、みんなを殺してしまう。」
「仲間を見殺しに出来るか!くそ、何か助かる方法があるはずだ。」
竜崎君、仲間だと言ってくれてありがとう。こういう時は久保君が頼りだ。
「く、く、久保君、お、お願い、みんなを連れて逃げて。」
「清水さん、---くそ!みんな逃げるぞ。竜崎、芝屋、永崎、近藤、古川、今は逃げるんだ。どんどん邪気が膨らんでる。今の俺達じゃあ、太刀打ち出来ない。清水さんが自分を保っている間に逃げるんだ。」
「でもよ、久保。」
仕方ない、少し荒っぽいけど、この部屋からでも逃がす。なんとか自我を保ちつつ、全員を部屋の外へ投げ飛ばした。そして、一か八か部屋の天井を殴って入り口を封鎖した。
『清水さん〜〜、最後にやってくれましたね〜。まあ、良いでしょう。あなたの姿をこの世界から抹消出来るんだからね〜〜。』
これで良い、あの女神の思惑通りに動いて堪るか!
ああ、もう限界だ、桜木君、美香ごめんね。そこで、私の意識が途切れた。
桜木春人 視点
竜崎達の帰りが遅い。何かあったのか?予定では5層に辿り着いたら、5層おきに設置されている転移部屋に移動して、ダンジョン入り口に集合になっている。だが、いつまで経っても帰ってこない。うん、あれは久保か、帰って来たんだな。焦らすなよ。どうしたんだ、様子がおかしい!
「久保、お前なんで見捨てた!」
「あの状況でどうしろというんだ?あの時点で、清水さんを助ける手段はなかった。一歩間違えば、全員清水さんに殺されたんだぞ。僕だって、悔しいに決まってるだろ!」
おい待て、どういう事だ。清水に何かあったのか。急いで、竜崎達のいるところへ向かった。そこには満身創痍の6人がいたが、清水の姿はなかった。冗談だろ。俺が何か言う前に島崎が飛び出してきた。
「ちょっと竜崎、茜がいないわよ!何があったの?」
「----島崎、桜木、すまん。俺達は、清水を守れなかった。理由を話す。」
竜崎達に何があったのか事細かに聞いて、俺は愕然とした。女神が清水の顔を見ただけで禁忌に触れただと、しかも清水に邪心薬を飲ませて邪族にしただと!あろう事か、少し口答えしただけで、女神の気が変わって全員殺す事に変更し、それを防ぐために、清水は命懸けで6人を脱出させ部屋を崩壊させたのか。嘘---だろ。
みんなと騎士団が騒いでいる中、マーカスさんが1人冷静に何かを考えていた。
「ばかな、隠し部屋!それにカプリースボックスだと!あれは、B級以上のダンジョンにしかない代物だ。それが、なぜD級に?く、だが、この邪気は本物だ。
全員、注目!
茜が危機的状況にある事はわかった。だが、今、このダンジョンに入ってはいけない。この邪気は、我々でも太刀打ち出来るかわからん。幸い、ダンジョンだから、王都に侵入してくることはないだろう。これから、王と緊急会議を行い、今後の対応を検討したいと思う。君達は、一旦、自分達の部屋に戻り待機だ。以上だ!」
さすが、マーカスさんだ。常に冷静だな。俺も見習わないといけないな。
「久保、竜崎が言った事は全て真実なんだよな。」
「ああ、そうだ。僕達も気が動転してて、そこから彼女がどうなったのかわからない。桜木君、僕を殴っても構わないんだぞ。」
くそ!ああ、そうか、これが憎しみか。あの女神、次会った時、絶対殺す
「殴る?どうして?竜崎達が悪いんじゃない。全てはあの女神が悪いんだ。なあ、久保、初めてだよ。ここまで人いや神に殺意を覚えたのはさ。」
「君----、そうか。」
島崎を見ると座り込んでいた。2人は親友だったはずだ。
「桜木、茜を助けに行くよ。4階層ならすぐだ。」
お前なら、そう言うと思ったよ。
「駄目だ、許可しない。」
「なんで!茜が心配じゃないの。女神の気紛れで、能力値は最低、スキルもなし、これで邪族になんかなったら、絶対にすぐに討伐されるよ。」
「島崎、俺だってすぐに助けたいさ。だがな、見ろ、ダンジョン入り口から膨大な邪力が発生してる。おそらく、あれは清水のものだろう。今の俺達では絶対に太刀打ち出来ない。俺達は弱い。現状、俺達に今出来るのは、王に進言しダンジョンを立ち入り禁止にしてもらう事だ。そうすれば、清水が討伐される事もない。その間に、邪族から人間に戻すアイテムを探すんだ。」
「理屈はわかるけど、桜木あんた、なんでそんな冷静にいられるの!なにするの、久保君」
俺に飛びかかろうとした島崎を久保が止めてくれた。
「島崎さん、落ち着いて。桜木君をよく見ろ。」
「え、あ!桜木、両手が血だらけになってる。」
「彼だって、今すぐ助けに行きたいんだ。だが、彼は勇者だ。勇者の自分が先走った行動を取れば、周りが余計に混乱する。苦しんでいるんだよ彼も。」
その言葉を聞いて、島崎は冷静さを取り戻したようだ。
「ごめん、桜木」
「いいよ。なあ、久保、島崎、頼みがある。」
「頼み、なんだい?」 「なに、頼みって?」
「俺の後ろにいる女4人、金子・青木・小倉・江東、こいつらを今後俺に近付けないで欲しい。」
「それくらい構わんが、どうして?」
「あいつら、今でもそうだが、清水があんな状態になっている事を喜んでやがる。俺の近くに来たら、つい殺してしまいそうなんだよ。殺意を隠しきれないんだ。」
「おい!」 「ちょっと、それは!」
「今は、辛うじて抑えている。」
「わかった、極力、近付けさせないようにしよう。」
「わかったよ。さっきはごめんね。」
清水、俺が必ず助けてやるからな!
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