ジンとリッカの戦い
まずは、ジンからか。
「ジン、身体を動かすのは良いけど、目立つ行動は駄目よ。」
「はい、後にサーシャ様が控えていますからね。ほどほどにしておきます。」
ジンが、観客席から1階にある中央の舞台の上に移動した。対戦相手は、Bクラスの力量を持った選手か。武器部門だから、当然武器である長剣を持っている。審判から試合開始の合図があり、戦いが始まった。
○○○ ジン視点
冒険者ギルドでは、サーシャ様自身が予想以上に目立ってしまった。この闘技場でも、目立つ行動は極力控えよう。ただ、久しぶりに身体を動かしておきたい。対戦相手の選手もそこそこ強いようだから、準備体操ぐらいにはなるか。少しは、楽しませて欲しいところだ。
「おい、武器を持たないのか?」
「ああ、私は格闘戦が得意でな。ある意味、この身体が武器だ。」
「は!腕を斬られても文句を言うなよ。はあ!」
男が突撃したかと思いきや消えた。
「スキあり!そこだ!」
Bランクだけの事はあるか。いきなりトップスピードで突撃したかと思いきや、風魔法を応用して私の左後方に移動した。同レベルの選手なら、急速な移動に目が追いついていけないだろう。私は迫り来る剣を回避し、体術で相手を懐へ進入し攻撃を開始した。
「な!だが、この程度なら回避出来るぜ。」
突き、蹴りをいくつも組み合わせ挑み、相手もそれを回避するか剣でいなしている。かなり訓練を積んでいて良い選手だな。しばらく、その攻防が続いたが、相手選手のスタミナが尽きたようだ。
「はあ、はあ、はあ、どうなってやがる?こっちは、これだけ息切れしてるのに、お前はどうして息一つ乱していないんだよ!」
「簡単だ。今までは、単に運動不足解消のため、軽く準備運動をしていた。ここ最近、身体を大きく動かしていなかったからな。」
「なんだと!あれで準備運動!」
「さて、今度はこちらから行くぞ。」
「な、消えた!どこだ?」
「どこを見ている?左がガラ空きだ。」
相手の左頬に軽くパンチを入れると、見事に吹っ飛んでいった。おいおい、軽くやっただけだぞ。
「がは、はあ、本当に準備運動だったのか。歯が立ちそうにないな、参った。」
「ジン選手の勝利です。」
審判からの勝利宣言か。まあ、軽い運動になったか。闘技会か、リッカが少し羨ましく感じるな。
サーシャ様のところに戻ると、
「ジン、良くやったわ!良い感じの戦い方だったわよ。」
「ありがとうございます。」
「ふふ、物足りない感じね。安心しなさい、闘技会で邪族が何か仕掛けてくるだろうから、その時にリッカと一緒に大暴れしたらいいわ。マルコ遺跡もあるしね。」
「見抜かれてますね。わかりました、邪族が来るのが楽しみです。」
サーシャ様には敵わないな。全て見透かされている。次はリッカの番か。無茶はしないで欲しいところだ。
○○○ リッカ視点
次は、私の番だ。
人化出来るようになってから、毎日楽しい。私は、サーシャ様の料理を食べるために生きている。ただ、ここ最近、身体をあまり動かしていないんだよね。このままだと太ってしまうよ。この周辺の邪族達は弱すぎて、準備運動にもならなかった。思いっきり暴れたいな。
「リッカ、思いっきり暴れたらお仕置きするからね。程々にね。」
う、フィンとイリスを見ると、顔が青ざめていた。そんなに怖いのものなの?
「は、はい、わかりました。」
フィンとイリスに聞いたけど、サーシャ様のお仕置きは心に響くと言っていた。意味がわからないけど、とにかく相当痛いらしい。気を付けよう。舞台に移動すると、なんだか対戦相手らしき人と審判が揉めていた。
「おい、あいつとは俺にやらせろ!仲間が酷い目にあったんだ。別にいいだろ。」
「しかし、あなたはAランクですから。」
「あのガキは、冒険者ギルドだとSランクらしいじゃねえか。本当かどうか見極めてやる。」
「わ、わかりました。」
あ、なんか落ち着いたみたいだ。相手が舞台に上がってきた。早く始めてよ〜。
「おい、よくも仲間をやってくれたな。」
「仲間?もしかして、あの威勢だけの男のこと?」
「ぐ、そうだ!」
「だって、あの男が腹に1発入れてみろていうから殴っただけだよ。軽くやったのに、1発で気絶するんだもん。それの何がいけないの?」
「と、とにかく、仲間に恥をかかされたんだ。ここでお前を再起不能にしてやるよ。」
この男も、何かうるさいな。私に悪意を向けてるし、気に入らないな〜。
「それでは、試合を始めて下さい。」
「おら〜死ねや〜〜!」
なんか、剣と小さい剣を振り回してきた。あ、確か二刀流ていうんだよね。でも、そんな遅い攻撃当たるわけない。
「この、ちょこまかと逃げやがって、少しは戦えや!お前も武器なしか。」
「武器ならあるよ。私の武器は-----これだー!」
ふふふ、驚かせてやる。私の武器は超かっこいいんだぞ。改造の時、サーシャ様にお願いしたんだ。両手を握り締めることで、手首から両腕に収納されている爪を出した。私の爪は何でも斬れるんだ。
「は!何だ、そのヘンテコな爪は?それが武器かよ。」
《ビキ》 こいつ、私の爪を、サーシャ様が作ってくれた爪を、馬鹿にしたな!
「今、何て言った!ああ〜、私の爪を馬鹿にしたな!予定変更、お前をなぶり殺してやる!この爪は、御主人様が私のために作ってくれた大切な武器なんだ。馬鹿にする奴は、誰であろうと許さない。その2つの剣、邪魔。は!」
長剣と短剣を細切れにしてやった。
「ひ!そ、そんなミスリルの剣が、こんな簡単に斬られるなんて、わかったよ。許してくれ。こう------ガ。」
降参なんて言わせるか。爪を収納して、腹にパンチを入れてやった。
「気絶も降参もさせないよ。私の武器を馬鹿にしたんだ。徹底的に後悔させてやる。ほら、ほら、ほらほらほらほら、避けなよ。避けてみなよ。」
もっともっと身体中を痛めつけてやる。
「が、がは、やめ、悪か、やめ、お願い。」
止めないよ。サーシャ様の作った武器を馬鹿にしたんだから、もっと痛めつけてやるんだ。しばらく殴り続けると、
「あ、ストーップ、試合中止。リッカ選手の勝利です。戦いを止めて下さ〜〜い。」
止めるか。
「リッカ!止めろって言ってるでしょうがーーーーー!」
誰が止めるか!その時、私の頭に突如の痛みが走った。
「痛〜〜〜〜〜い!」
誰かにチョップされた。な、誰だよ!後ろを振り向くと、般若のような顔をした-----サーシャ様がいた。
「ひ!さ、サーシャ様。だ、だって、こいつ、私の武器を、サーシャ様が作った武器を馬鹿にしたんだ。許せないよ!」
「うん、それはわかるよ。私もムカついたからね。」
あ、やっぱりわかってくれてる。あれ?でも、なんで私の背後に移動して、両手の拳を私のコメカミに当てているの?
「でもね、明らかにやり過ぎでしょうが〜〜!完全に戦意喪失した相手をボコボコにしてどうするのよ〜〜〜〜!」
「ぎゃあ〜〜〜〜、痛い〜痛い〜〜〜、ごめんなざい〜〜〜。」
何これ!滅茶苦茶痛いよー。頭に身体に全身に響くー。ああ、これがフィンとイリスが言っていた心に響くお仕置きなんだー。1分間なのに、時間が長く感じるよー。
「ぎょわ〜〜〜〜〜!ザーーシャ様〜〜〜〜、許ジデ〜〜〜〜!」
「許さん、反省しろ〜〜〜!」
---1分後、私は屍となりました。だって、動けないよ〜〜〜。
○○○ サーシャ視点
全く、リッカはやり過ぎなの。確かに、武器を馬鹿にされてムカついたけど、あそこまでボコボコにしてはいけない。心が折れて、2度と戦えなくなってしまう。あ、回復魔法かけてあげないとね。あ〜あ、骨が何本も折れてる。
「『マックス・ヒール』」
「----あ、回復魔法か。嬢ちゃん、ありがとうよ、助かったぜ。」
「あなたも、人の作った武器を馬鹿にするから、そんな目にあうのよ。」
「ああ、すまない。仲間がやられて、少し頭にきてたようだ。ところで、この子、リッカは大丈夫なのか?」
私の横で、うつ伏せになってピクピク動いている。なんか観客席の方も騒がしいわね。
「大丈夫です。すぐ自然回復しますから。」
「そんな風に見えないんだが。あんたが、リッカの御主人のサーシャか?」
「ええ、そうです。あ、次は私の番ですね。」
「リッカが気が付いたら、《すまなかった》と伝えておいてくれ。仲間がやられたというのもあるが、煽ることで相手の力量を知りたかったんだ。」
「その戦法、もう止めた方がいいです。逆鱗に触れて、ボコボコにされますよ。」
「はは、---もう味わったよ。2度とやらん。じゃあ、試合、頑張ってくれ。」
リッカをジンに引き渡し、観客席に戻ってもらった。
舞台に戻ると、あれ、私の対戦相手の20代男性がなぜか顔色が悪い。
「それでは、始めて下さい。」
「1つ聞くが、君はさっきの女の子より強いのかい?」
「私が主人ですから当然です。」
余計に顔色が悪くなった。さて、どう戦おうかな?確か、武器部門でも身体強化と言った補助魔法やスキルは普通にやっていいのよね。
「まあ、普通に戦いますか。こちらから行かせてもらいます。」
ミスリルの剣を取り出し、こちらから攻撃を開始した。剣撃を幾つか重ね合わせたが、やはりBクラス、甘いヶ所がいくつもある。
「わ、ぐ、くそ、速い」
うーん、これで速いのか。早々に終わらせよう。剣を絡め取り跳ね飛ばし、相手の首に剣を当てた。
「ひ!こ、こんな簡単に、降参だ。」
「サーシャ選手の勝利です。」
1分と経たずに終わってしまった。観客席に戻る途中、相手選手が倒れた。鑑定すると、過度の緊張で倒れただけのようだ。ここのベテランの癖に、なんで緊張して倒れるのよ!だらしないわね!私が相手選手を素通りすると、冒険者達が一斉に私から離れて言った。
あれ?私、何かやった?
「ねえ、フィン、みんなから明らかに避けられてるんだけど。」
「リッカがAクラスの冒険者をボコボコにした後、師匠はそのリッカをボコボコにしたんですよ。避けられて当然です。」
「ええ!、あれは唯の仕置きなんだけど。」
「お姉様、周りからはそう見えてません。鬼のような攻撃でした。」
リッカは、まだ復帰していない。その横で、ジンが私に話しかけてきた。
「あのサーシャ様、もし私がリッカのような戦い方をしていたら、どうなっていたのでしょうか?」
「そんなの決まってるわ。リッカと同じ目にあってもらう。誰であろうと関係ないわ。」
ジンの顔色が悪くなり、ボソッと 《我慢していてよかった。》 と小声で呟いた。
リッカもリッカで、 《ジンも味わえ〜〜》 と呪いの声をあげていた。
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