旅立ち〜4代精霊のもとへ〜
○○○ 桜木春人 視点
俺達は女神像に祈り、急ぎ地上へと戻ると、王都は------到って平和であった。一般市民は、普通に買物をしていたり、冒険者は武器を見ていたり、子供達も普通に遊んでいた。
「あれ?平和だ、戦争なんて影も形もない」
「あれ〜?おっかしいな〜。てっきり大変なことになっていると思ってたのに」
「私達は夢でも見ているんでしょうか?」
俺、島崎、吹山は、この普通の状況に戸惑っていた。あ、竜崎が一般市民になんか聞こうとしているな。
「すいません、この王都に邪族の侵入とかはないですか?」
「は、なに言っているんだ?到って平和だよ。むしろ、今危ないのは、スフィアートだ」
到って平和か。いや、おかしいだろ!CランクダンジョンにAクラス邪族が侵入して来たんだぞ。
「みんな、マーカスさんに報告に行こう。今の王都の状況を聞いてみるんだ」
王都が平和で良かったんだが、妙な違和感がぬぐい切れない。絶対に何かあったはずなんだ。急いで、俺達は王宮へと戻った。
------王宮へと戻ると、訓練中のクラスメイト達からお祝いされた。まあ、当初の予定はCランクダンジョンの制覇だからな。話を早々に切り上げ、マーカスさんの部屋に向かった。
部屋に入ると、マーカスさんがいた。1人か丁度いいな。
「春人達、戻ってきたか。Cランクダンジョン制覇おめでとう。これで、君達も1人前の冒険者だ」
マーカスさんから、労いの言葉を貰えたのはいいが、この様子からすると、本当に王都では何も起こっていないみたいだ。どうなっているんだ?ともかく、報告しておこう。
「マーカスさん、Cランクダンジョンは確かに制覇しました。しかし、ボスのミノタウルスを撃破した後に問題が起こりました」
「問題だと!何かあったのか?」
「シャドウと呼ばれるAランク邪族が3体現れました」
「シャドウだと!しかも3体も!」
どうやら、シャドウの事を知っているみたいだな。
「はい、奴等は7階層から我々を見張っていて、ずっと観察していましたね」
「よく生き残れたな。シャドウは、Aランクの中でも暗殺に特化した邪族だ。これまでにも、勇者達の仲間が何人も殺されていて、要注意邪族として文献に記載されている。まさか、王都にまで簡単に侵入してくるとは!魔導具にも一切反応がなかったぞ」
魔導具?ああ、確か王都には、邪族が転移で襲ってくる危険性もあるから、周辺にBランク以上の邪力を察知する魔導具が敷かれていると言っていたな。
「ええ、今回、奴等は俺と島崎だけにターゲットを絞り、暗殺の機会を窺っていました」
「ちょっと待て。文献によると、シャドウは邪力の気配を全て遮断出来る能力を持っているはず。どうやって討伐したんだ?」
「それは、新たに目覚めた俺のユニークスキルの功績が大きいですね」
俺は、マーカスさんにダンジョン内での探索途中で、気配察知がレベル10(MAX)になったことで相手の魂自体を認識可能になったこと、その過程でユニークスキル『精神一到』を獲得したことを話し、『精神一到』と『雷闘気』を併用する事でシャドウ3体と融合したSランクのシャドウキングと渡り合い、最後は島崎の新型魔法『リフレクターホーリーキャノン』で討伐したことを話した。
「なるほど、『精神一到』か。かなり強力なスキルだ。使いこなれば、確かに邪王を討伐出来るかもしれん。美香の新型魔法も、現状の最大出力でSランクを討伐できるのだから、邪王との戦いの切り札として充分になりうる」
「ええ、シャドウキングと戦ってわかりましたが、『精神一到』の方はまだ全然使いこなせていませんね。もっと訓練をしていくつもりです。『雷闘気』も強力なんですが、2つのスキルを制御するのが精一杯で、必殺技を出せる余裕がありませんでした。島崎がいなかったら、多分殺されていたでしょうね。ただ、今回、不思議に思ったのは、王都が平和なことです。どう考えてもおかしい。Aランク3体だけ送り込んで、それで終わりとは思えない」
そういった時、マーカスさんの表情に若干変化が現れた。
「マーカスさん、何か知っていますね!教えて下さい!」
「わかった。だが、誰にも言うなよ。もちろん、クラスメイト達にもな。今日、スフィアートで、人間と邪族の戦争が始まった。エレノア様の報告によると、戦力差はおよそ10倍だそうだ」
は!俺が何か言う前に、竜崎がマーカスさんに言った。
「ちょっと待てよ。それなら、俺達も行かないと!」
「話を最後まで聞け。戦争が始まったのは、今から5時間程前だそうだ。そして3時間程前に、ボスの邪竜がSクラス冒険者バーン・フェイルとリフィア・ローズによって討伐され、現在残存している邪族達を殲滅している途中という報告があった。なお、援軍はいらないそうだ」
ちょっと待て、おかしいだろ!
「マーカスさん、いくらなんでもおかしいでしょう。10倍の戦力差がありながら、どうやってそんな短時間でボスを討伐出来るんですか!」
「俺やガロット、王も春人と同じ意見だ。同じ質問をエレノア様にしたよ。返ってきた答えは、驚くものだった。たった1人の冒険者が聖女アイリスを救い、世界最大難問とされていたポーション類の改良と武器防具類への魔法付加を解決し、新型スキルである『魔力纏い』などの新技術を短期間のうちにスフィアートの冒険者達に広めた。そして、その冒険者は誰よりも早く邪族の企みを察知し、戦争の数日前にエレノア様に報告し、準備を急がせた。戦争が始まった時には、全ての準備が整っていたそうだ」
嘘だろ。あのクソ不味いポーションを改良した!武器防具に魔法を付加させた!しかも、『魔力纏い』は清水さんの案を改良して出来たスキルで、王都で発見されて間もないぞ。現状、冒険者達にも、まだ伝わっていないはずだ。もしかして、その冒険者は----清水さんと接触した事があるのか?
俺が考えている間に、島崎が話し出した。
「そんなのありえないよ。その冒険者、怪し過ぎる!名前はなんて言うの?」
「サーシャだ」
ここで、俺・久保・竜崎が反応した。
「「「サーシャだって!」」」
「3人とも知っているの?」
「いや、俺達も会ったことはない。知っているのは、揚げ物のメニューの開発者だという事だけだ」
久保が落ち着いて、島崎と吹山に話してくれた。
「「ええ〜〜〜〜!」」
「私はクロードとともに1度会っている。歳は、君達と同じくらいで、銀髪の美人だった」
サーシャ、一体何者なんだ?たった1人で解決したようなものじゃないか!あれ、10倍の戦力差は、どう解決したんだ?ポーションや魔力付加だけじゃ無理だぞ。
「マーカスさん、10倍の戦力差をどう解決したんですか?」
「それは、合体魔法だ。Aランクの2人の女性冒険者が考案し、サーシャがアドバイスを行ったことで、実戦において使用可能にしたそうだ」
おいおい、話が上手くいきすぎだろ。それとも、サーシャが上手くいくように、皆を誘導したのか?
「まあ、君達が何を言いたいのかはわかる。ただ、エレノア様の話では、彼女は世間知らずで、自分の開発した技術が世界初とは知らなかったらしい。しかも、目立ちたくないから、開発者としての名誉を知り合いに譲ったそうだ。おそらく、スフィアートの住民達を死なせたくない一身で、善意でここまでしてくれているのだろう。エレノア様自身も全面的に彼女を信頼している事から、まず大丈夫だろう」
世間知らず、開発者としての名誉を赤の他人に譲る----か、マーカスさんの言う事もわかるが、一応悪人でないのならいいか。
「シャドウの件についてだ。これは私の推測だが、当初は王都にも攻めてくる予定だったのだろう。邪族の大軍勢を囮にして、暗殺者であるシャドウを王都に侵入させ、お前達を暗殺する予定だったのではないかと思う。しかし、スフィアートにおいて予想外の事が起こり、暗殺者以外の全ての軍勢をスフィアートに向けたと考えるのが妥当だろう」
確かに、そう考えるのが妥当か。そう考えると、サーシャは王都を救ったことになるのかな。話を聞いていくうちに、島崎もサーシャを信頼し始めたようだ。というか、多分揚げ物の開発者の時点で信頼したんじゃないか?
「サーシャて人凄いな。あの劇不味いポーションを改良か---飲んでみたいな」
「美香、私はどちらかというと、武器防具への魔法付加について興味あるな」
「私も詳しいことはわからないが、なんでも宝石が関係しているらしい。戦争が終わって落ち着いたら、王都にも技術が伝わるはずだ」
「なんにしても、サーシャという人に興味が湧きましたよ。1度、会ってみたいですね」
「へー、桜木が興味を持つのは珍しいね」
そりゃ、あれだけのことを聞いたら、俄然どんな人か興味が出てくるよ。
「まあ、今回はシャドウとシャドウキングの討伐、ご苦労だった。今日は、しっかりと休んでおけよ」
スフィアートでの戦争は、人間側の大勝利となったことを夜に聞いた。戦争は、およそ6時間程で終結したらしい。これは信じられないことだと、皆、口を揃えて言っていた。戦争を勝利に導いた冒険者サーシャ、彼女は間違いなく転生者だろう。いずれ会えそうな気がするな。今回の人間側の勝利となった事で、邪族の動きも大きく変わってくる可能性がある。俺達も邪族の動向に注意して、旅をしていこう。
○○○
翌日の朝、王都において、スフィアートでの出来事が正式に発表された。人間側の大勝利という事で、お祭り騒ぎとなった。俺達召喚者組もお祭りに参加していい事になったので、久しぶりにハメを外した。俺は久保・竜崎・島崎・吹山と行動を共にしている。明日の朝旅立つから、今日1日は遊びまくろう。それにしても、
「「コロッケ、コロッケ、コロッケ」」
島崎と吹山は、さっきからこの調子だ。今回の祭りで、初めて揚げ物が屋台に登場するらしい。
「島崎、吹山、食べるのはいいけど、太るぞ。-----ひ!悪かった。もう何も言わん」
竜崎、その言葉は女性に禁句だ。案の定、2人に睨みつけられたよ。
「おい、久保、竜崎、焼きおにぎりがあるぞ。凄い香ばし匂いがする」
すると、真後ろから誰かに襟を掴まれた。
「駄目ですよ、桜木君。いきなりご飯物は絶対アウトです。さあ、私達はコロッケに行きましょう」
え、ちょっと待てよ。いいじゃん1個ぐらい。久保と竜崎を見ると、2人して襟を掴まれ、俺と同じようにズルズルとコロッケへと引っ張られた。そこまで、コロッケが好きか!
結局、島崎と吹山のペースで屋台の揚げ物類を食べ回った。途中お腹が苦しくなってきたので、俺・竜崎の2人はベンチで休憩している。久保は、甘いものを探しに行っている。
「なあ、竜崎、女性は甘いものに弱いんじゃなかったか?あいつら、揚げ物ばかり、胸やけしないのかな?」
「知るかよ。どう考えても、島崎と吹山がおかしいんだよ。この前、揚げ物を食べ損なったから、その分、反動が大きいんだ」
ありえる。なんか甘いもの、スッキリしたものが欲しい。お、久保が戻ってきた。なにか持っているな。
「桜木、竜崎、甘いものを見つけたぞ。果物ジュースとプリンだ!」
「プリンだって!まさか、それも?」
「ああ、サーシャが開発したそうだ。今、女性に大人気で行列が出来ていたよ。なぜ、島崎と吹山がそこにいないのか不思議だ」
あの2人、プリンがあるのに揚げ物かよ。数ヶ月後のあいつらの体重が気になる。竜崎が、早速食べているな。
「美味い!久しぶりの味だ。ジュースもいける。桜木も食べてみろよ。」
「ああ。」
うお、確かに美味い!甘さと滑らかさが絶妙なバランスに仕上がっているぞ。ジュースもいいな。揚げ物の油っこさが洗い流される。最高だな!サーシャ、開発してくれてありがとう。は!、なんか後ろから殺気を感じる。恐る恐る後ろを振り向くと、鬼の形相をした島崎と吹山がいた。
「美香、この3人いい度胸してるよね」
「本当だよね。私達を除け者にして、甘いものを食べているとか信じられない」
あ、竜崎、何も言わないほうがいいぞ。久保を見ると、あれは絶対同じ事を思っているな。
「島崎も吹山も、揚げ物が良いんだろう?甘い物はパスとか言っていたじゃないか。このプリンは最高だな。絶妙な甘さと滑らかさだ。欲しかったら、ほら、あそこの屋台にあるから、何十人と行列が-----アババババ〜〜〜」
アホだ。お仕置きで電気ショックを喰らっている。状況を見ろ、竜崎。島崎も吹山も、目が完全に怒りモードに入っている。だが、竜崎が言っていた事も事実だ。15分程前に、俺達は2人に言ったんだ。そしたら、「甘い物はパス。今は揚げ物!」と返事が返ってきた。やはり、女の子はわからん。清水もこんな感じなのだろうか?
○○○
翌日の朝、いよいよ俺達5人は旅立つ時が来た。全ての準備は整った。俺自身の強さは、まだまだだが、これから強くなっていけばいい。最初の目的地は、風の精霊がいるエルフの国「シルフィーユ」の王都だ。ここからは、大森林を抜けるルートと迂回するルートの2通りがある。当初は迂回ルートの予定だったが、昨日の夜になって状況が一変した。
スフィアートにいるエレノア様から世界各国にいる王限定への連絡があった。その内容が世界を大きく揺るがすものだった。何者かにより邪王の第1封印が壊されたというのだ。今後、あらゆる種族が邪族に殺されると、その怨念は邪王に吸収される事になる。しかも、テルミア王国の各国偵察団によると、幾つかの国が不穏な状況に陥っており、最悪の場合は条約を無視して、戦争が起こる危険性もあるという。事は一刻を争う事態となった。
この事から、俺達は最短距離の大森林を抜けるルートで行くことになった。当然、強力な邪族もいるので、大きな危険を伴うが今の俺達なら大丈夫だ。他のクラスメイト達も4〜5人のパーティーを組んで、テルミア王国の各地方に散らばるダンジョンに潜って、強くなる事で戦争に備えるそうだ。
王宮入口に到着すると、クラスメイト達全員とマーカスさん、ガロットさん、マリア姫、ファンス王がいた。王都の中は、祭りで盛り上がっているから、見送りは王宮入口までだ。
「早いな、もう旅立ちの時か。エルフの王には、もう連絡を入れてある。大森林を通り抜けるのは、かなりの危険を伴うだろう。だが、事は急を要する。第1封印が壊れてしまった以上、早急に精霊に協力を求めなければならない。充分に用心して進みなさい」
ファンス王、ありがとうございます。俺達は軍資金を貰っただけでなく、装備品を新調してもらい、数ヶ月分の食糧品も買ってもらっている。もちろん、揚げ物レシピやプリンのレシピといった料理レシピもあり、島崎や吹山の『アイテムボックス』に入れてもらった。
「ファンス王、必ず邪王を再封印してみせます」
「春人様、皆さん、これから邪族の動きが、ますます活発になってくると思います。スフィアートでは、司祭や大司教さえも洗脳されたそうです。近づいてくる人間や他の種族の人達を安易に信頼しないようにして下さい」
「マリア様、忠告ありがとうございます」
次はマーカスさんか。
「このテルミア王国は、大きな差別もなく非常に安定した国だ。だが、種族が違うだけで差別をする人や国も未だに残っているし、平民と貴族という違いだけで差別をする者もいる。新たな国に行く時は要注意だ。前もって調べておくようにな」
「はい!」
この後も、クラスメイト達からも激励され、いよいよ出発の時となった。
「それじゃあ、みんな行ってきます!」
俺達は、多くの人々から激励され、王宮を出た。
最初の目的地は、風の大精霊がいるエルフの国「シルフィーユ」の王都だ!
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