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開戦前夜ともう1つの切り札

○○○ とある邪族の視点 (ジェイク視点)


Sクラス2体が一瞬で消滅された事で、その日の朝、残り5体が集まり緊急会議が開かれた。


俺、カーザック、ヤガン、ゾルオン、ドーキは、この状態を引き起こしたのが何者かを知るための調査報告だ。今回、スフィアート陥落作戦に抜擢されたのは、俺達邪竜族だ。邪王様自らが、俺達を指名してくれた。これは、とても誇らしい事だ。邪王様の命令は2つ、アイリスの抹殺とスフィアートの壊滅だ。アイリスを抹殺した所まではいい。俺を除く6人が人間を操り、夜な夜な転移に必要な魔力を魔法陣に充填し、時間はかかったが抹殺には成功した。問題はその後だ。


ドリオンが俺の目の前で消滅した。そして、次に殺られたのがローグ。ローグ消滅を目撃したのがカーザックだ。これは明らかにおかしい。スフィアート内に俺達を楽に消滅させる人間がいる事は間違いない。だが、どうやって殺っている?普通に考えれば、邪力の線を切断後、その線を通して魔法を放てばいい。そう、そこまではいい。問題はその後だ!俺達Sクラスを一瞬で消滅させる魔法なんて存在しないぞ。ち、もう会議の時間か。


カーザックの指揮で緊急会議を開かれた。


「さて、もうわかっていると思うがドリオンとローグの件だ。ドリオンはジェイクの目の前で、ローグは俺の目の前で一瞬で消滅した。現在、わかっているのは、洗脳に使用している邪力線切断後、すぐに白い雷がジェイクや俺の目の前に現れ、ドリオンとローグを焼き尽くし消滅させたことのみ。使用魔法は、おそらく聖魔法『ホーリーボルト』だ。なんだ、ドーキ言いたい事があるなら言ってくれ」


「『ホーリーボルト』が強力なのはわかるがありえん。威力が違い過ぎる!おい、ヤガンどうした?」


なんだ、ヤガンの様子がおかしい。尋常じゃない程の汗が出ているぞ。


「なんだ、この魔力は、邪王様以上だ、信じられん。それに、微かに感じるこの気配は何だ?この女何者」


ヤガンが突然話し出したと思った直後、あの白い雷が現れた。しかも今度は4つだと!おい、まさか!4つの雷が俺以外に直撃した。----光が収まり、周りを見ると、全員消滅していた。



おいおい、どうなってやがる。『ブレインウォッシュ』使った奴ら全員、一瞬で殺られやがった。今度は会議中、4体同時に殺られた。全員Sクラスの猛者どもだ。なんなんだよ?誰がこんな事をしやがった!今回、スフィアートに向けて放ったS級戦力は俺を含め7体、それを一瞬で6体も消し飛ばした野郎は何者だ?勇者、いや違う。勇者なら、こんな攻め方はしない。俺達の知らない何かが人間共の中にいるのは間違いない。くそ、落ち着け、落ち着け。手掛かりが何かあるはずだ。-----そうだ、ヤガンの奴が最後、邪王様以上の魔力とか女とか言っていたな。少なくとも、邪王様以上の魔力を持った人間の女がスフィアートにいるという事か!いや待て、その答えは早急過ぎる。とにかく邪王様と同じくらいの未知の何者かがいるのは間違いない。



どうする、どう行動する。俺の全力のブレスを浴びせれば、スフィアートの聖魔法は壊せるかもしれん。だが、奴らには俺の知らない未知の戦力がいる。このまま撤退するか?いやありえねえ。こんな失態を犯した状態でおめおめ帰れるか!馬鹿にされるだけだ。ち、これなら、未知の戦力の野郎が来る前、いちいち転移という周りくどい方法なんかやらず、正攻法で一気に行くべきだったぜ。まあ、当初のアイリス抹殺という最重要課題はクリアしているからまだいいが、ああ、面倒くせー。考えるのは止めだ。こうなったら王都に向かわせるのは勇者暗殺部隊だけでいい。3名と少ないが少数精鋭で全員Aクラスの力を持っている。奴らなら大丈夫だろう。


残り全てをスフィアートに加えて一気に四方を囲んで攻め落とす。戦力が2倍になる分、陥落も速くなるはずだ。未知の戦力も、邪族が大量に押し寄せれば、迂闊に動けないはず。そもそも自由に動けていたら、俺も死んでいるはずだ。何らかの枷があるはず。仮に表に出てきても、力を出せない状況なら、ブレスで焼き尽くせるかもしれん。


クソったれが!今すぐ攻めたいところだが、全て俺だけで準備をやるから、あと2日程かかるか。まあいい、見てるよ、人間共に吠え面をかかしてやるぜ。



○○○ サーシャ視点



翌日、スフィアート周辺から、微量な邪力が検出された。少しずつ上がってきている。冒険者の人達は気付いているかな?Sクラスのバーンさん、リフィアさん、Aクラスのウィルさん、ロイ、ミアさん、ヒミカさん、そして昨日出会ったギルド長のスティーグさん、この人達は気付いているわね。いよいよ、攻めて来るか。邪力はスフィアート四方を囲んでいるという事は、一気に転移して逃げ場を無くす気ね。この量だと、明日の朝8時くらいに転移でくるわね。準備は、ギリギリ間に合ったわね。相手は、こちらが事前に察知していることを知らないでしょうから、準備万端で待ち構えていたら驚くでしょうね。さて、エレノア様に報告後、ギルド長に会いに行きましょう。



ここは大聖堂の大広間、現在ここには、私、フィン、アイリス、貴族達、エレノア様がいる。


「明日の朝8時前後に、邪族達が攻めて来るのですね。そこまで正確にわかるものなのですか?」


「『魔力纏い』のスキルがレベル5以上あれば、多分わかると思いますね。恐らく、Sクラス、Aクラスの冒険者、ギルド長のスティーグさんなら、もう大体の目安をつけて準備に取り掛かっているはずです」


貴族の人達は一様に狼狽えているわね。


「こちらも、戦う準備万端です。Cクラス以上のリーダーには、新たに開発された人工魔剣がありますし、『魔力纏い』で個々の戦力を引き上げています。そして、最後の切り札の準備も間に合いました。今回、恐らくSクラスの邪族が最低1体は必ず出現します。そいつらの対応は、バーンさん、ウィルさんが行います。もちろん、私とフィンも戦いに参戦します。アイリスは後方の大聖堂で援護射撃の予定ですね。ただし、切り札を使う時が来たら、前線に出します。その時は私が護衛します」


アイリスを前線に出すと言った瞬間、抗議が上がったが、私が護衛をすると言った瞬間、「サーシャ様が側にいれば、絶対安心だ。」と全員が納得した。


「そして、戦いというものは常に想定外の事が発生します。もし、邪族が私達の想定した以上の数で現れた場合、もう1つの切り札を使います」


「サーシャ、それは聞いていませんよ。もう1つの切り札とは何ですか?」


これには、貴族達も騒ぎ出した。

エレノア様も、聞いていない事だから疑問に思うのは当然ね。


「すいません、今の時点では言えないんです。皆さん、私を信じてくれませんか?」


しばらくの沈黙の後、


「----わかりました、あなたを信じましょう。ここまできたら、全員が一蓮托生。皆協力し合い、邪族との戦いに臨みましょう」


ここに来て間もない私だけど、エレノア様も貴族達も、私を信じてくれた様だ。ごめんね、切り札の魔法は、あまりに危険だから、ここで言ったら全員反対するに決まってるから言えないんだ。


皆、一致団結したところで、一旦アイリスと別れ、フィンと冒険者ギルドへ向かった。


「師匠、私はお役に立てるでしょうか?」


「これまで騎士団とみっちり訓練してきたでしょ。大丈夫、自信を持ちなさい。フィンが一番気を付けないといけないのは、戦闘開始直後よ。騎士団の人達と一緒に行動するとはいえ、まだ、実戦経験が圧倒的に足りないから、必ず動きが固いはず。焦らず、弱い敵で肩慣らしを行い、少しずつ進めていけば良い。気配に踊らされないようにね。間違っても、最前線に来ては駄目よ。安心しなさい、フィンとアイリスに関しては、私が常時観察しておくから」


「気配に踊らされる、わかりました。気を付けておきます。騎士団の方々もいますから大丈夫だと思います。」


ギルド到着後、ギルド長のスティーグさん、Sクラスのバーンさん、リフィアさんを筆頭に冒険者のパーティーリーダーとさらに詳細に話し合い、戦術が決まった。四方を囲まれる状態とはいえ、相手の邪族が戦力を均等に配分するとは限らない。だから、


1)初期配置として、騎士団はエレノア様がいつも姿を現わすベランダ方向の北門、Cランク以下のパーティーは、残り3つの門に均等に振り分け、今日の夜から待機させる


2)Bランク以上のパーティーは、今日大聖堂に泊まってもらい、翌朝邪族を確認後、相手の戦力で偏りが発生している所に急行する


3)Aランクパーティーの「疾風」は、相手戦力の2番手を叩く

4)Sランクパーティーの「暁の焔」は、ボスを叩く


5)Sクラスが3体いる場合、3体目は私が叩く。というか、冒険者ランクが知らない間にSになっていた。どうも、バーンさんとリフィアさんが裏で動いてくれたらしい。ただ、私とアイリスは、切り札の魔法発動のため、温存しないといけないから、極力ボスとは戦わない事になった


6)私個人は、バーンさんとウィルさんがいない2つの門において、支援攻撃を行う。リーダー達には、時空魔法の短距離転移『瞬間移動』を使えることを教えているから納得してもらっている。また、各方面で緊急事態が発生する可能性が充分にあるので、危機察知スキルを発動させるため、今日から冒険者のリーダーには『ポイント』をつけさせてもらった。この『危機察知スキル』と『ポイント』は連動させる事が可能で、『ポイント』を付けた冒険者が危機に陥った場合、私の『危機察知』スキルが発動していち早く救う事が可能になるのだ。これを皆に知らせると、全員が驚愕していた。なぜ?理由を聞くと、『ポイント』スキルは、比較的簡単に手に入るが、ステータスに詳細な説明はなく、今まで誰も機能がわからなかったらしい。ちょっとスフィア、ステータスに表示しておきなさいよ。スキルのレベルが上がると、ポイントを付けれる人数も上がる仕組みになっている


7)切り札『オールアビリティ・セカンド』は、最前線から20分使用していき、入れ替わりで第2陣、また入れ替わりで第3陣と交互に使用していく事になった。こうすれば、魔法が切れて動きが鈍くなった人達をフォロー出来るからね



とりあえず、こんな戦術となった。でも、想定外のことが起こる可能性が充分にありうる。そういえば、この考え方、合気道の先生には感謝しないとね。


【いいか、茜、合気道は必ず君の役に立つだろう。だが、日常生活において何が起こるかわからない。常に最悪を想定しろ。そこの曲がり角からトラックが来るかもしれない。車の影から子供が出てくるかもしれない。通り魔が襲って来るかもしれない。テスト勉強でもそうだ。この問題はテストにでないだろうと思ったところで、そこはでると思った方がいい。そういう思考は、大抵裏目にでるパターンだ。まあ、今言った事を思い込まず、想定するだけでいい。始めは疲れるかもしれないが、常時そう行動していれば、身体が次第に慣れていき、いち早く行動を起こす事ができる】


先生、今になって教えてくれた事が役に立っています。


最悪、そうね、例えば、Sランクが10体いるとか、邪族総数が1万体以上いるとか、あるいはその両方もあるわね。常に最悪を想定しろ。その場合は、エレノア様に言ったもう一つの切り札を使おう。



この切り札を使う場合は、使い方も考えておこう。特に、リフィアさんが何か言ってきそうな気がする。ギルドでの会議終了後、そのリフィアさんから質問がきた。なんでも、バーンさんだけに炎の完成形を教えるのはずるいそうだ。私は氷魔法、嵐魔法のレベルが10だから、それぞれの完成形を教えて欲しいとのこと。とりあえず、広場に出て氷魔法の完成形を教えたら、30分程でマスターした。バーンさんといい天才ね。嵐魔法の完成形については、ここでは被害が出るので、理論だけを説明しておいた。だって、嵐魔法の完成形は、大気の気圧を大小問わず自在に操る事だから。



○○○



その日の夜9時、私は寝付けなかった。いつもより早い時間というのもあるけど、やはり緊張しているからかな。フィンとアイリスは訓練の疲れもあってか、隣で熟睡している。隠蔽でもかけて、軽く散歩しよう。


昨日エレノア様がいたベランダに来ると、誰かいた。あれは、ロイさん?隠蔽を解除しておこう。


「ロイさん、こんな時間にどうしたんですか?」

「なんだ、サーシャか?少し寝付けなかったんでな」

「奇遇ですね、私もです。何か悩んでいるんですか?」


「やはり、そんな顔をしているか?出てきて正解だったな」


そんな深刻な顔を見れば、誰だってわかりますよ。


「ヒミカさん達に、その顔を見られたくなかったんですね」

「ぐ!まあ、そうだな。ヒミカには言うなよ。不安にさせたくないんでな」


おー、そんな顔もするんだ。是非、ヒミカさんに教えて上げたい。


「わかりました。内緒にしておきましょう。それで、何を悩んでいるんですか?」


「まあ、お前なら話してもいいか。簡単な話しだ。俺は強くなりたいんだよ。明日、このままの強さで、敵に勝てるか不安なだけだ」


「また、思いっきり、ぶっちゃっけましたね。それなら、『鑑定』しましょうか?私のレベルは高いので、稀に目醒めかけているスキルがわかる時もありますよ」


聞いた瞬間、ロイさんが私の両肩を掴んできた。あの勘弁して下さい。後ろの壁に潜んでいる人が、恐ろしい殺意を私に向けているんです。


「そいつは本当か!」

「ええ、ただそういった事は稀です。賭けてみますか?」

「もちろんだ、やってくれ!」


鑑定の結果、1つ見つかった。これをモノにできるかは本人次第かな。

ロイさんの特訓に協力した後、私は静かに部屋に戻り、眠りに就いた。



○○○



翌朝7時45分、スフィアートから約1km程離れた場所に一斉に邪族達が現れ、スフィアートは一瞬で全方位を囲まれた。邪族の総数は不明だが、大聖堂の2階から見ても邪族達で埋め作られているのがわかる。本当に1万体いるんじゃないかな。そして、私の真正面の方向にいる邪族達のさらに後方に馬鹿でかい邪竜がいた。あれが間違いなくボスだ!


やってくれるわね、数が多すぎる。こちらも相応の準備はしているけど、短期間だから限られたものになった。


1)ポーション類の開発や武器防具類への魔法付加←必要最低限作製は出来た

2)スキル『魔力纏い』の配布

3)Sクラス、Aクラス冒険者達の強化と新型魔法の開発

4)切り札1 スキル『オールアビリティ・セカンド』

5)切り札2 魔法『?』


この準備だけで、どこまで出来るかね。各パーティーには、回復魔法『ハイ・ヒール』付きの武器防具を最低1つは行き渡っているから大丈夫と思うけど、問題はこの数ね。


バーンさんがすぐに駆けつけて周辺を観察した。


「おいおい、予想以上の数だな。どんだけいるんだよ。邪族達で溢れてやがる。ボスは、あの邪竜か。は、腕が鳴るぜ!だが、冒険者の数が圧倒的に足りない。いきなり絶望的状況か」


その通りだ。こちらと数が違いすぎる。戦力差が多分10倍近くあるかもしれない。

アイリスとフィンも不安そうな表情をしている。門で待機している冒険者達も、明らかに心を乱している。


「大丈夫です。こんな事もあろうかと、もう一つ準備していた切り札を使います」

「おい、なんで事前にそれを言わない」


言うと思いました。言い訳は考えてあるわ。


「この切り札の準備が、間に合うかどうか正直わからなかったからです。事前に言って、やっぱり駄目でしたの方が最悪です」


「む、確かに一理ある。だが、お前の魔力は大丈夫なのか?」


この魔法は、これまでのものと違って、かなり特殊だ。何より魔力を莫大に消費する。私1人でも可能だが、これはスフィアートの戦争だ。住民全員に協力してもらおう。


「この魔法は、魔力を莫大に消費します。ですから、スフィアートの住民全員から本人が持つ最大魔力量の1/10ずつもらいます。それで、なんとか発動するでしょう」


「お姉様、そんな事が可能なんですか?」


「可能よ。敵を大量殺戮する魔法は時空魔法『メテオレイン』、住民から魔力をもらう魔法は『アブソーブ』、住民達が手を上に挙げるだけで発動するようにしてあるわ。そう機能する魔法を創っておいたからね。ただ、問題は人数よ。『メテオレイン』発動には大量の魔力がいる。何人の人間が信頼してくれるかね」


思った通り、ここでリフィアさんから待ったがかかった。


「『アブソーブ』はともかく、時空魔法『メテオレイン』ですって!サーシャ、止めなさい!危険過ぎるわ。制御を誤れば、スフィアートが壊滅するわよ。エレノア様からも言ってあげて下さい」


「リフィア、ここはサーシャを信じるしかありません。それに成功しない限り、スフィアートに未来はありません」


「リフィアさん、大丈夫です。私を信じて下さい」


「くくく、時空魔法ときたか。リフィアいいじゃねーか。ここはサーシャを信頼するしかない。それに、この数だ。いくら合体魔法を使えても、対応出来ないだろう」


「う、確かに、これだけ数がいたら、私やミア、ヒミカだけじゃ魔力が足りない」


ここは、なんとか説得しないとらいけない。


「リフィアさん、危険なのは充分承知しています。一気に数を減らすには、これしかありません」


「----わかったわ。サーシャを信じるしかない。でも、魔力をどうやって集めるの?」


「はは、それなら打って付けの人間がサーシャの目の前にいるじゃねえか」


「はい、アイリスお願い出来る?」

「わかりました。これは、私にしか出来ない仕事ですよね。任せて下さい」



さあ、いよいよ邪族との戦争が始まるわね。

開戦よ!


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