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フィン・レーデンブルク

私はフィン・レーデンブルクと言います。今、自分の奴隷と呪いの解放記念パーティーを行い、絶賛食事中です。私とレインさんを含めた参加者全員が師匠の手料理を食べまくっています。誰も喋りません、ただただ食べているのです。これではパーティーではないと思うでしょう。原因は料理にあります。師匠の手料理があまりにも美味しすぎるのです。コロッケ、オークカツ、オークの生姜焼き、唐揚げ、ポムスフレ、焼きおにぎりなど、見た事もない料理が次々と出てきて、1つ1つのレベルが非常に高いのです。そのせいで、出来た瞬間取り合いとなっていて、まるで戦争です。


「よっしゃ〜〜、コロッケとったど〜〜!」

「俺は唐揚げとったぞ〜〜」

「私は、オークカツとったわよ〜〜」


料理が美味しい事で、みんなが笑顔です。

こんな日が、こんな夢のような日が来るとは思いませんでした。


○○○


1年前、私はお父様とお母様に呼ばれ王室に行きました。そこで、アルテハイム王国第2王子レオン様との婚約を聞かされました。正直、内心は顔も知らない男の人との婚約は嫌でした。ですが、アルテハイム王国とは同盟関係にあり、まして私には「神獣の加護」が付いていますので、婚約を行う事でこの同盟がより強固なものとなるのは間違いありません。いわゆる政略結婚です。レオン様とは、婚約披露パーティー開催の前日に初めてお会いしました。私より3つ年上みたいです。


「レオン様、はじめまして、フィン・レーデンブルクと申します」


「こちらこそ、はじめまして、レオン・アルテハイムです。婚約の事を聞いた時は驚いたでしょう」


第1印象は、髪は金髪で、物腰が柔らかく、とても温和そうに見えました。聞いたところによると、剣術はかなりの腕前だそうです。


「ふぇ、はい、正直驚きました。今でも、不思議な感じがします」


「今日あなたと出会えて確信しました。俺の婚約者があなたで良かったです。フィンと呼んでも構いませんか?」


「はい、私はレオン様と呼んでも構いませんか?」


「ええ、いいですよ。ゆくゆくはレオと呼んで欲しいですね」


「え、あ、はい」


レオン様は不思議な人でした。話していくうちに、身体の緊張が解れていっているのが、自分でもわかりました。パーティーでは多くの方々とお会いしましたが、その中にソフィア様もいたと思います。パーティー後、レオン様は私達の学園に留学し、その時からソフィア様との交流が深まりました。


初めの3ヶ月は、凄く楽しかったのを覚えています。ですが、悲劇は唐突に始まりました。私のステータスがおかしくなったのです。基本能力値が大幅に減少し、スキルの一部、ユニークスキル、称号が消えてしまいました。これには、私を含め、お父様やお母様、魔法使いの方々、レオン様、ソフィア様など多くの人が混乱しました。この頃、貧民層の方で行方不明事件が多発していたので、何らかの関係があるのかもと位置付けられましたが、いくら調査しても原因はおろか、元に戻す手段も見つかりませんでした。私は、いつか絶対に戻る事を信じ、ずっとレオン様やソフィア様と一緒に修行を重ねました。ですが、2ヶ月程経過しても、能力値は一切上がりませんでした。こんなのあんまりです。女神様、私は何か悪い事をしましたか?


ある日、私はレオン様とソフィア様の取り計らいで1人買い物に出掛けました。もちろん護衛付きです。今でも、私の横で私を護ってくれています。たまには気分転換が必要だと言われました。お二人には心配をかけてばかりいます。早く、この原因不明のステータス異常から解放されたいです。どの鑑定士に鑑定してもらっても、呪いの表示はありませんでした。あ、あの首飾り、可愛い。その店に行こうとした瞬間、護衛が倒れました。揺すっても、全く反応がありませんでした。その時、周りの男5人組が私を心配してくれて声を掛けてくれたのですが、そこから何も覚えていません。気がつくと夜になっており、森の中にいました。


「お、気が付いたか?ガキ、確かフィンといったな。お前を誘拐してからは、好きにしていいと言っていたからな。喜べ、お前は今から俺達ガルム一味の奴隷だ」


え、ガルム一味、あのブラックリスト上位に載っている盗賊団が私を誘拐!奴隷!私は急いで自分の胸を確認しました。あろう事か、奴隷の紋様が付いていました。そんな、何で?


「誰の命令でこんな事をしたんですか?私はレーデンブルク王国第3王女ですよ」


「ああ、知ってるよ。その第3王女を誘拐してくれと頼まれたからな。俺達にかかれば、簡単な事だ。誰が依頼したかは、いつか自分で調べてみればいいんじゃないか。まあ、生きていればの話だがな」


私はこの日をもって、ガルム一味の奴隷となりました。仕事内容は料理を作る事です。始めは滅茶苦茶なものだったので、酷く叩かれましたが、日を追うごとに技術が身に付いたのか、そこそこ美味い料理を作る事ができました。この時は、まだ良かったんです。料理の技術があったお陰で、そこそこ大事にしてくれました。でも、あいつらは最悪な人間です。どこで手に入れたのかわかりませんが、変装の魔導具で全くの別人となって、あらゆる種族を襲うのです。やっている事は、邪族と変わりません。早くここから離れたいです。




あれから4ヶ月の月日が経過しました。悲劇は突然にやって来ました。この日、B級ダンジョンに挑戦したのです。地下16階を探索中、隠し部屋を見つけました。そこに、豪華な箱が置いてあり、カプリースボックスと書かれていました。内容が最悪でした。


『あなた達は運が良い。これはカプリースボックス。今から言う内容を実行すれば、5人の人間に魔剣を与えましょう』


指令1 奴隷の左腕をよこせ。

指令2 奴隷の顔に火傷を負わせろ。



何ですか、この内容は!

誰かここを見ているんですか?人数が当てはまりすぎです。

しかも、奴隷は私だけです。


内容を見た瞬間、5人の目の色が変わりました。まさか----!


----指令は実行されました。ここ以降、師匠と出会うまでの記憶は非常に曖昧です。生きる気力がなかったからでしょう。



師匠との出会いは衝撃の一言でした。あのガルム一味が、ガルム以外瞬殺されたんです。ガルム自体も簡単に気を失わせました。私は、思いきって言いました。


「私を殺して下さい」


今の私は、顔に酷い火傷を負い、左腕がありません。生きる価値はありませんから。すると、師匠は無言で右手を私に向け、一言言いました。


「マックス・ヒール」


え、今のは回復魔法。しかも最高位のものだ。私は、慌てて左腕を確認しました。なんと、ありました。顔の火傷も完治しました。正直、信じられません。私は生きていていいんだと思ったら、生きる気力が戻ってくるのがわかりました。師匠に弟子を懇願したところ、しばらく逡巡してましたが了解の返事をもらえました。----そして、私のステータスを見てもらいました。師匠の鑑定は凄いです。今まで、どの鑑定士にも原因不明と言われたステータス異常を一発で解明してくれました。原因は、闇魔法による強力な呪いだそうです。


宿屋に戻ってからは、さらに衝撃でした。師匠が呪いから解放すると言ってくれたのです。そんな簡単に出来るものなのでしょうか?強力な呪いの解放には、聖魔法が使える魔法使いがかなり必要と聞いた事があります。森に移動する最中、詳細な内容を聞きました。闇魔法の禁術『サクリファイス』による生贄を使ったSクラスの死霊王リッチの召喚を使えば、このステータス異常を起こす事が可能だそうです。一体、誰が私に呪いを発動させたのでしょうか?師匠に聞いたところ、リッチ自体に聞いた方が早いと言われました。え、まさか、この森の中に来たのは、その為ですか?そして、本当にリッチを召喚しました。しかも、威圧だけでリッチを掌握しました。魔力も邪力も使えるし、師匠、あなたは一体何者なんですか?


リッチが話した内容は、私にとって驚愕の一言でした。まさかソフィアさまが呪いの発動者!ソフィア様もレオン様の事が好きだったとしても、なんで!貧民街の人達を巻き込んでまで!私は頭が混乱しましたが、師匠が一喝してくれたおかげで、冷静さを取り戻す事が出来ました。ソフィア様は邪族に操られただけで、本人も貧民街の行方不明や私の誘拐に関わっているとは気付いてないみたいです。でも、実際に多くの獣人達が生贄になったことは変わりません。私はどうしたら良いのでしょう?


この後の師匠の言った事も驚愕でした。全能力値を50に固定し、スキルも全て剥奪する呪いをソフィア様に発動すると言いました。いくらなんでも、酷すぎます。注意しようとしたら逆に怒られました。どうやら、ソフィア様を生かすための呪いだそうです。確かに、もし気付いてしまったら、精神的におかしくなっても不思議はありません。師匠は凄いです。私はどう対処したらいいのか、全くわかりませんでした。


リッチに呼ばれ、呪いが解放されてから気を失ったみたいです。気が付いたら呪いも奴隷も全部解放されていました。正直、夢を見ているみたいです。そして、ステータスを見ると、基本能力値が呪われる前よりも大幅に上がっていました。修行を重ねた成果が、今になって現れました。なんというか複雑です。



その日の夜、レインさんという冒険者と知り合い、唐揚げなる物を食べました。はっきり言って、美味すぎです。レインさんも夢中になってました。


「ちょっとサーシャ、この唐揚げ美味すぎよ。それにエールと滅茶苦茶合うわ!」


「レインさん、なるべく野菜も食べて下さい。女性の場合、食べ過ぎると、顔にニキビが出来たり太りますよ」


その瞬間、女性陣が一斉に師匠を見た。当然、私も。


「し、師匠、太るのは本当なんですか?」


「安心して。私達冒険者は、毎日運動しているから、大量に食べない限り、そうそう太ったりしないと思う。ただ、唐揚げと一緒に野菜も食べた方が体に良いわ」


「そ、そうだよ。サーシャ、あまり驚かさないでくれよ。まあ、毎日冒険に出ていれば、大丈夫って事だね」


レインさんは、明らかにほっとしていました。私も、これから毎日運動しないと、太りたくありません。私はこの唐揚げの虜になりました。


翌朝、思い切って、私は師匠が何者であるかを尋ねました。


「お、やっとその質問ね!そうね、今言えるのは、この世界の真理を探る探求者てところかしら。いずれ話して上げるわ。ただ、これだけは覚えておいて。私はフィンを絶対に裏切ったりしない」


その言葉に、妙な説得力がありました。私と師匠はまだ出会ったばかり、信頼を勝ち取るためにも、これから頑張ります。もちろん、私も師匠を裏切ったりしません。




そして、現在に至るのですが、今は至福の一時でした。全員が満足しています。

師匠が新しい料理を持って来ました。正直、きついです。


「みんな、これが最後の料理、デザートのプリンよ。唐揚げとかだと、お腹が重いでしょ。これをゆっくり噛みしめるように食べて見て」


プリン?なんなのでしょう?初めて見る形でプルプルしています。スプーンで一口食べてみると、ほのかに甘く、口にいれた瞬間、今までのものが洗い流された感覚がありました。こんな食べ物があったなんて!皆一様に、私と同じ感じでした。特に女性陣から、王都に是非広めて欲しいとの意見が凄いです。ゲイルさんと相談した結果、宿屋仲間や定食屋仲間と連絡して、今後どうしていくかを考える事になりました。



お父様、お母様、レオン様、フィンは、今凄く幸せです。今以上に強くなって、必ずレーデンブルク王国に戻りますので、それまで待っていて下さい。



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