S級クラス死霊王リッチ
ギルドへの報告も終了し、一旦ひょっとこ屋に戻ってきた。フードをとると、丁度いいタイミングでカイルがやって来た。
「サーシャさん、お帰りなさい。初仕事、どうでしたか?」
「カイル、ただいま。もちろん成功したわよ。ちょっと予想外の出来事もあったけど、問題なく対処したわ」
「予想外の出来事?まあ、無事でなによりです。あの後ろの女の子は?」
「この子はフィンと言うの。私の弟子よ」
「あ、初めまして、フィンと言います」
「---、あ、カイルと、言います」
なんか、どもったわね。もしかして---!まあ、言わない方がいいわね。カイル頑張れ。
「カイル、部屋を2人部屋に変更可能かしら?」
「あ、すいません。唐揚げの件が予想以上に広まって満室になったんです。当分、満室が続くと思います」
あー、冒険者ギルドで広まってたものね。
「それじゃあ、仕方ないか。今の私の部屋に、フィンを止めても問題ないかな?」
「はい、大丈夫です。追加料金を支払ってくれれば問題ないですよ」
ちょっと狭くなるけど、追加料金を支払い、部屋に入った。
「さて、フィン、今のあなたのステータスだと、正直心許ないわ」
「う、すいません。足手まといですよね」
そう、このままだと本当に危ない。喧嘩に巻き込まれただけで死ぬ可能性もある。だから、奴隷を解放する前に呪いから解放して上げよう。
「だから、奴隷を解放する前に、先に呪いから解放しましょう」
「え、え、え、ふぇ〜〜、サーシャさん。いきなり何を言うんですか!そんな簡単に出来ないですよ!」
まあ、普通はそうね。でも、私の場合出来るのよ。
「出来るから言ってるのよ。まず、この呪いは、発動者と実行者が異なるわ。鑑定の結果、発動者が誰かはわからないけど、呪いの実行者と内容がわかった。実行者がわかれば、簡単よ。そいつを召喚して、お願いすればいい」
「召喚て、まさか!あの、本当に可能なんですか?」
「ええ、可能よ。ちょっと騒がしくなるから、昼食を食べたあと、王都の郊外にある森に行きましょう」
「-----はい、わかりました」
-------ここは森の中。フィンは、さっきから一言も喋らない。呪いの解放が本気である事がわかったのだろう。
呪いの解放をする前に、半径20mに聖魔法『クリーチャーリーブ』
、空間魔法『サイレント』、邪法『ディストーションフィールド』をかけておこう。
『クリーチャーリーブ』、簡単に言うと、指定範囲に邪族を近づけさせない魔法。
『サイレント』、人に使えば魔法封じ、限られた空間に使えば魔力、邪力、音が外に漏れなくなる。
『ディストーションフィールド』、私が指定した敵の全ての攻撃を歪めて別空間(この場合、私の精神世界)に持っていく私オリジナルの邪法だ。別空間に行った攻撃は全て邪力に還元される。余談だが、修行を重ねてわかったけど、上位属性には時空と虚無があることがわかった。
「ここで、呪いの解放儀式を行います。騒ぎを知られたくないから、周辺にはいくつか魔法を使っているので、邪力や騒音が外に漏れる事はないわ。まず、あなたの呪いだけど、邪族が関与しているわ」
「やはり、邪族ですか。あの時、召喚と言ってましたので、なんとなく気付いてました」
「全く、邪族に手を出してまで、フィンが邪魔だったのかしら。多分、フィンのユニークスキルか称号に関係しているんでしょう。あなたの呪いの内容は、ステータスの弱体化、スキル・ユニークスキル・称号の一部を封印したものよ。そして、その邪族の名は-----リッチ」
「ふぇ〜〜〜、そんな邪族が、あのS級のリッチがなんで関わっているんですか?」
そこね、問題は。多分----
「おそらく、闇魔法の禁術『サクリファイス』を使って、リッチを召喚したわね」
召喚魔法、邪族を召喚して、自分の従魔にしたり、指定した相手に呪いを掛ける事も出来る。だが、当然危険もある。自分の魔力が召喚された邪族の邪力を上回っていれば問題ないけど、下回っていた場合、その場で殺される危険性がある。この危険を避けるのが、闇魔法禁術『サクリファイス』だ。邪族に生贄を捧げる事で、一時的ではあるが、命令出来ると王宮の文献に記載されていた。
「禁術!さ、サクリファイス!、そんな危険な魔法を使ってまで、私に呪いを掛けたんですか!なんのために?」
「それは、これから召喚するリッチに聞けばいいわ。ついでに、従魔にしちゃいましょう。」
「え〜〜、従魔!出来るわけないですよ。相手はS級ですよ」
うーん、やっぱり、リアクションが面白いわ。
「フィンは下がっていなさい。今からやるわよ」
「問答無用ですか!わわ、わかりました」
フィンは、良いツッコミ役になるわね。
私は邪力を使って、リッチを召喚した。
はっきり言って、魔法と邪法の使い方は一緒だ。その根源の力も、邪族は邪力といい、それ以外の種族は魔力というが、同じ力を使っている。ただ、魔力は身体の中にある純粋な力だけど、邪力にはそこに怨念の力が入っているだけの差だ。他の種族も、怨念を込めれば邪法を使用する事は理論上可能となる。これが、多くの文献を読み、精神世界で修行を重ねた私の見解だ。
魔法陣が起動した瞬間、私達がいる空間に威圧が迸ろうとしたが、すぐに霧散し私の邪力に変換された。ふーん、そっちは臨戦態勢なんだ。なら、今度はこちらから威圧を掛けてあげる。ほらほら観念しなさい、どんどん上げていくわよー。フィンの方を見ると、口をアングリとしていた。女の子がはしたないわよ。
「ふぇ〜〜〜!なんなんですか、その力は!途中から、全く何も感じなくなったんですすが。魔法陣の中から途轍もない邪力を感じたらと思ったら、師匠が放つ力がそれを覆ったせいで、うわーー、私には何がなんだかわかりませーん」
うーん、いいリアクションをありがとう。
「フィン、これから起こる事の方がもっと大変だから、何も考えない事をお勧めするわ。今から起こる一部始終を目に焼き付けておきなさい」
「はい、わかりました、師匠!」
「リッチ、いい加減姿を現しなさい。さもないと、威圧をどんどん上げていって、あなたを最終的に圧し潰して、プチリッチにするわよ」
「ま、 待て!わかった、そちらに行くから、威圧を解いてくれ。もう限界なんだ!」
なんで、もう限界なのよ。あなたS級でしょう!
やっと、姿を現したか。
おー、S級だけあって、中々の威圧感ね。全身骸骨、全身を覆う青白い高級感を漂う、コート、両手にはいくつもの指輪をはめており、右手には杖、頭には豪華な王冠を被っている。だが、このリッチ、-----明らかに私を見て怯えている。失礼な奴ね。
「-----この気配は!だが、-------、いや失礼、あなたか、我を呼び出したのは」
「そうよ、私はサーシャ。安心なさい、あなたを討伐する気はないから。ただ、ちょっと聞きたい事があって、あなたを呼んだの。あと、ついでに従魔契約をしたいから」
「話を聞くのがメインで、従魔はついでですか。こちらから質問しても宜しいでしょうか?」
随分、下手なリッチね。さっきの威圧で、完全に自分が下だという事を悟ったようね。物分りのいい奴だわ。
「いいわよ、何?」
「あなたは何者なのですか?その邪力、ただ者ではないでしょう」
「そうね、その話をすると長くなるのよね。端的に言うと、私はこの世界の真理を探る探求者てところかしらね。邪王、邪神、女神の事をもっと深く知りたいのよね」
「邪王様だけでなく、邪神様のことも知っておられるのですか!」
私が喰った事は、言わないでおこう。
「ええ、邪神には会った事があるしね。これで納得してもらえたかしら?」
「はい、その邪力、邪神様の事もご存知なら、我はあなたに従います」
あ、従魔契約が成立したわ。なんか、呆気ないわね。これが私以外なら、ステータスにも表示されたんでしょうね。
「じゃあ、次ね。リッチ、隣にいるフィンに呪いを掛けたわね」
「はい、神獣の加護があって少々厄介でしたが、我自らがこの者に強力な呪いを掛けました。解放しましょうか?」
神獣の加護?称号のことかな?まあ、今はいいわ。
「待ちなさい。解放する前に、誰が何のために、あなたに命令したのかを教えて」
「は、我に命令したのは、レーデンブルク王国の貴族ソフィア・アレンシャルです。理由は、隣国アルテハイム王国の第2王子レオン・アルテハイムとの婚約を破棄させるためです。ただ、奴は邪族に操られていました。おそらく、レオンへの恋慕を利用されたのでしょう」
フィンの方を見ると、酷く狼狽していた。
「そ、そ、そんなソフィア様が犯人。私の事を-----」
なるほど、邪族に操られた状態で、『サクリファイス』を使い、フィンに呪いを与えたのね。おそらく、本人は気付いていない。それでも、ソフィアの所為で、かなりの数の獣人達が犠牲になったのは事実だ。
さて、ソフィア・アレンシャル、どういった罰を与えよう。
あと、レオン・アルテハイムか。
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