乗っ取られた者は誰だ?
現在、私とイリスの部屋にはリッカとジンもいる。フィンが家族団欒している間は、こちらとしても暇なので料理の話をしているところだ。
「サーシャ様、レーデンブルクではどんな料理を広める予定ですか?」
リッカは、悪魔より料理に関する話題が好きだね。
「そうねー、テルミア王国では揚げ物をメインに、ガルディア帝国では中華料理をメインにしていたから、レーデンブルクでは以前作ったハンバーグ・カレーライスは教えるとして、やっぱりラーメンを作りたいわね」
「お姉様、ラーメンとはどんな料理なんですか?」
ラーメン説明しづらいわね。この際だから、幻影魔法『イリュージョン』で幻を見せよう。
「さすがに説明してもイメージしにくいだろうから、幻を見せるわ。私の好きなラーメンは魚介系の豚骨ラーメンって言ってもわからないわね。少し待っててね」
そう、私の好きなラーメンは魚介豚骨ラーメン、それを深くイメージして、ついでだから美香と夕実が食べているところをイメージしよう------。
「『イリュージョン』」
よし、完璧!あの店のラーメンだ!これまで私自身も豚骨ラーメンを家で作った事があるけど、やはりプロのラーメン屋には敵わない。だから、自分なりにアレンジして色々と作ったわね。そうしたら、家族全員が私の作るラーメンにハマったのよね。麺もスープも手作りだから、かなり疲れたのを覚えているわ。
「ふおおーーーー、お姉様、これがラーメンですか!」
「サーシャ様〜、なんか凄く美味しそう!」
「これが---ラーメン、この2人の女性はお友達ですか?」
「ええ、現在、勇者と旅をしている島崎美香と吹山夕実よ。3人で食べに行った時のイメージ映像ね」
問題は、ラーメンをこの世界で作れるかなのよね。豚骨はオークがいるからいいとして、調味料も多分大丈夫だろう。問題は麺ね。カンスイがあるかないかで、麺の風味・感触、色合いが全く異なってくる。どうせなら、レーデンブルクで多くのラーメンを作って味わってもらいたいわね。そうはいっても、私が作れるのは基本の醤油・塩・豚骨・味噌くらいか。味だって、プロには敵わないだろう。気に入ってもらえるだろうか?
「ああ、悪魔なんかどうでもいいからラーメン食べたいです!」
こらこらリッカ、それはダメでしょうが!
「お姉様、私もラーメンを食べたいです!あの口にスルスル〜っと入っていく感覚を味わいたいです!」
「ふぇーーーーー、なんですか〜〜この光景は!」
「あらフィン、家族とのお話はもういいの?」
「あ、はい、これでもかというぐらいお話をしました。レオン様も後で来る事になっています。お父様達は会議室に移動して、師匠が来るのを待っていますよ。ところで、あの美味しそうな料理は何ですか?2人の女性が物凄い勢いで食べていますね?」
「ここレーデンブルクで広める予定の料理よ。料理名はラーメン」
「ラーメン?なんか凄く美味しそう。あのシュルシュルっと口に入っていく感覚を味わいたい。ああ、スープも凄く美味しそうだ。師匠、早速作ってくれるんですか?」
「いいえ、ラーメンを作るのは、レーデンブルクにいる悪魔とアルテハイムにいる悪魔達を壊滅させてからね」
「「「「えーーーーーーーー」」」」
今回は状況も切迫しているようだし、先に悪魔の件を解決させましょう。それ以外にも理由があるけどね。
「そのためには、今のままの強さでは不十分よ。フィンとイリスの現在の強さは、おそらく上級悪魔クラスで、リッチとジンとリッカは帝級か帝級と上級の間ってところかしら?実際に会ったことがないから何とも言えないけど、もっと強くなってもらわないとね。虚無魔法の訓練が終わったら、私自らが鍛えてあげるわ」
「し、師匠自ら----」
「お、お姉様自ら----」
「「サーシャ様自ら-----」」
なんで3人とも、顔が真っ青になっているのよ!
「私の訓練を乗り越え、悪魔討伐が終わったら、ラーメンを好きなだけ作ってあげるわ」
「師匠、本当ですか!」
「お姉様、それっていつ頃?」
「全くわからないわ!強いて言えば、あなた達のやる気次第ね。それまでは、これまでの料理かレーデンブルクの料理になるでしょう」
「サーシャ様、乗り越えたら好きなだけ作ってくれるんですね?」
「サーシャ様、私もそれを確認したいです!」
「ええ、求めるだけ作ってあげるわ!女に二言はないわ!」
ていうか、ぶっちゃっけ、現時点でラーメンを作れないのよ!材料探しから始まるから、完成は当分先ね。全員のレベルが50を超えているから、今後は数値も上がりにくくなってくるはず。ある程度の強さを手に入れるまで、多分、1ヶ月くらいかかるでしょう。その間に、材料を探しておこう。
○○○
この時、私は3つのことを見落としていた。1つはフィンやイリス達のラーメンに対する異常な執着心、食欲と言ってもいいわね。そして、残り2つは○○○○○と○○○○○○○○だ。この3つの見落としで、後に悲惨な目にあうのだが、この時の私は全く考えていなかった。
○○○
国王陛下や王妃様達の準備が整ったらしいため、私達は国王達が普段討論している会議室へ向かっている。本来なら謁見の間へ向かい、表彰されて勲章授与などが行われたりするのだが、広場で話していたときに断っておいた。とりあえず、今後の生活の為の報奨金だけお願いしますと言っておいた。お金は重要だからね。
会議室入口に到着し、扉が開くと-------国王陛下や王妃様を含めた全員が土下座していました。また、この光景!
「「「「「女神サーシャ様、フィンを助けて頂きありがとうございます」」」」」
広場での対応はなんだったの!
「あの皆さん、頭を上げて下さい。ガルディア帝国の皇帝にも同じ事をされましたよ」
「当然です。女神スフィア様に代わり、新たな女神が降臨されたのです。今は事情もあり、国民には公表しておりませんが、我々獣人は新たな女神サーシャ様を今後も崇拝していく事になるでしょう」
獣人は女神を崇拝していると聞いていたけど、ここまでとは。私と会話中の国王陛下陛下を含めた全員の目が、ガルディア帝国の皇帝となんか違う。明らかに、とある宗教の教祖を見る目だ。ここは、女神っぽく振る舞おう。
畏敬スキルをONにしてと。あの人は乗っ取りの状態だから灰にはならないでしょう。
「あなた方の崇拝、確かに承りました。ただ、今は下界で旅を続けている身、私の怨敵を討伐するまでは、普通に接してもらえませんか?」
「は、畏まりました。みんな顔を上げなさい。サーシャ様の怨敵女神サリアが討伐されるまでは、先程の広場での対応と同じようにさせて頂きます」
うーん、幾分私を見る目が和らいだ気がするけど、それでも崇拝している目だ。皇帝の場合は、ここから普通に接してくれたけど、ここではどうだろうか?
「サーシャも知っていると思うが、ここレーデンブルクとアルテハイムは女神スフィア様を崇拝していた。だが、ガルディア帝国皇帝からの緊急通信で、スフィア様が異世界召喚者共から嫌がらせを受け病気となり、スフィアタリアを追い出されたと聞いた時は、自分の耳を疑ったよ」
皇帝のような気さくな態度ではないけど、広場での対応と同じにしてくれたようだ。皇帝はレーデンブルクの国王に【追い出された】と表現したのか、その方がいいかもしれない。【崇拝対象が、悪に負けて逃げ出した】とは言いづらいからね。
「私と同じ異世界【日本】からの召喚者達がご迷惑をかけてすいません。異世界召喚者の1人、涼見凌一は討伐が完了しています。ある区画に閉じ込めているだけですけど、スキルや魔法全てが使用禁止となっており、水も食料もない状態で老衰となるまで放っておいてます。ちなみに、湧き上がる感情全ては私のエネルギーとなっていますね。生かさず殺さずの状態です。これまでのゾンビ達と同じ目にあわせています」
「ゾンビハウスの件は聞いてはいるが、罰が凄まじいな」
「現在の問題は悪魔召喚ですね。既にシルフィーユ王国において、悪魔が召喚されており、勇者達一行が一部の討伐に成功しています」
さて、今ここにいる者達は私達メンバーと王族のみだ。今、この場に乗っ取り者がいる。私の畏敬スキルは発動しているけど、獣人の魂が悪魔の魂を守っている節があるわね。ここで追求しておこう。
「ああ、その件もつい先程聞いてある。トイフェルベリーを食すことで、悪魔に乗っ取られ、最後には一体化されるみたいだな」
「それなら話は早いですね。今、この場に悪魔に乗っ取られた者がいます!」
私がそう言った瞬間、全員が騒ついた。
「ふぇーーー師匠、本当ですか!」
「お姉様、今この場で言うんですか!」
「今、この部屋には王族しかいない。だからこそ、言うべきなのよ。しかも、そいつは、悪魔を私の畏敬から守っているわ。返答次第では-----」
私は返答次第で悪魔のみを殺すと言うところで、王妃様が前に出てきた。
「サーシャ様、お待ち下さい。今、この場にいる全員が顔色も良く、悪魔に乗っ取られているようには思えません!」
王妃様、なんか勘違いしているでしょ。刺し違えてでも、家族を守る目になってますよ。あ、乗っ取り者が止めに入ってきた。
「待て待て待て!全て話すから、私を殺さないで欲しい」
「国王様、誰があなたを殺すと言いましたか?私は返答次第では、乗っ取っている悪魔のみを殺すと言うつもりだったのですが?私が開発した虚無魔法で対象を指定すれば、乗っ取られた場合に限り、悪魔だけ討伐可能なんです」
「「な!」」
国王と王妃が呆気に取られているわ。
「あははは、こりゃ参った!自分から言う羽目になっちまった!」
「あなた!」
「「父上!」」
「「お父様!」」
「ふぇーーー、お父様が乗っ取られているんですか!」
う〜ん、この反応、フィン以外は全員知っていたようね。
そう、国王様は乗っ取られているにも関わらず、顔色も良く元気だ。
「ああ、そうだ。俺は悪魔に乗っ取らている。ただし、ただの悪魔じゃない。その前に、サーシャ、畏敬というスキルをOFFにしてくれないか。俺が庇っていても、かなり厳しそうなんだ」
「わかりました」
何か訳がありそうね。畏敬スキルをOFFにしておこう。
「これで大丈夫ですよ」
「助かる。これで、あいつが表に出てこれる。少し待っていてくれ」
すると、国王の雰囲気が変わった。王という厳格さがなくなり、自由奔放な雰囲気が漂った。
「ふー、ヤバイヤバイ!畏敬だけで、体力半分削られたぜ。サーシャ、俺は国王ハーキスに乗っ取っている悪魔、悪魔王ラギウスだ。そして、----前世の名前は諸木彰利、お前と同じ日本出身だ」
「なんですって〜〜!」
「あははは、そりゃあ驚くよな。俺は2000年に交通事故で死んだんだが、次に目覚めた時は次元の狭間にある悪魔の根城だった。まさか、自分が悪魔に転生しているとは思わなかったね」
嘘は言ってない。交通事故で死んで、悪魔に転生って気の毒過ぎる。
まあ、同じ日本出身で、悪い気配も感じないから討伐の必要はない---か。
とりあえず彰利さん---じゃなくて、ラギウスと色々とお話する必要があるわね。
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