勇者は犬以下の存在?
○○○ 桜木春人 視点
俺とバーンさんは何かあった時の為にリビングで寝ていたが、結局何も起こらなかった。そして翌朝、真也と義輝、夕実が降りてきた。
?
真也と夕実の様子がおかしい。なんか、妙によそよそしいというか、明らかに互いを意識しているよな?
「真也、義輝、身体は大丈夫か?」
「あ、ああ、俺は大丈夫だ。迷惑掛けて悪いな」
真也が大丈夫なのはわかったが、義輝は目に隈が出来てるぞ。なぜ?
「義輝は、まだ不調そうだな?何か影響が残っているのか?」
「起きてすぐに、夕実から事情は聞いた。リフィアさんと美香のおかげで、体調には問題ない。目の隈は別の事でちょっとな。春人、ちょっとこっちに来てくれ」
なんだ?俺達は外に出て誰もいないところで、義輝が話し出した。
「春人も気付いた思うが、俺の目の隈は真也と夕実が原因だ」
「まさか、あの出来事がキッカケで恋人関係に?」
「いや、そこまでには至っていない。あくまで、互いに意識し合っているだけだ」
「俺から見てもわかるよ」
「昨日の夜、目を覚ましてな。ふと横を見ると、夕実が真也に謝っていた。真也も【夕実が無事ならそれでいい】とか抜かしていたんだよ。それ以降、完全に俺の存在を忘れて、これまでの出来事を話し出して、2人だけで甘い雰囲気を醸し出しやがったんだ。ハッキリ言って起きれる雰囲気ではなかった。本来なら起きて、その雰囲気をぶち壊したかった。直接2人を見ていないからわからんが、夕実も泣いていた気がしてな。結局、俺が我慢する事になったよ。寝たのは朝方近くだ。ふ、俺にとって昨日の夜は、拷問だったよ。ふ〜、春人に話せて、少しスッキリした」
「それは、なんというか、お気の毒に」
おいおい、そんな事件があったのかよ。美香が好きそうな話題だな。真也と夕実か、俺から見れば、お似合いのカップルだな。
「ま、まあ、2人がそのまま恋人になったらいいな」
「今の時点では、なんとも言えんな。互いに意識し出したばかりだからな。それで春人の方は問題ないのか?トイフェルベリーを食べたんだろ?」
「あー、そっちに関しては問題ない。『サーシャの加護』があれば、討伐出来るようだしな。ただ、トイフェルベリーの完全討伐には、『サーシャの加護』を持つ俺達が食べていかないといけないのかと思うと憂鬱になるな。」
そう、今日、村長がどれだけトイフェルベリーを集めてくれるのかが気掛かりだ。
「それ程、気持ち悪いのか?」
「いや、味はいいんだよ。ただ、真也と義輝を治療している時、身体が少し透けて、中の黒いものがウネウネ動いていたから、それを連想してしまうんだ」
「---ある意味、加護がなくてよかった」
「夕実が、義輝と同じ言葉を言っていたよ」
俺達は家のリビングに戻ると皆勢揃いしていて、テーブルの上に置かれている箱を凝視していた。なんだ?リフィアさんと美香が真っ青になっていて、口をヒクヒク動かしている。ま、まさか----
「あの、まさかとは思うんですが、その箱の中身は、全てトイフェルベリーなんて言わないですよね?」
頼むから否定してくれ!
「ハルト、よくわかったな。全てトイフェルベリーだ。3kgはあるんじゃないか?」
げー!最悪だ。俺は急いで箱の中身を確認すると、ドス黒いトイフェルベリーがぎっちりと詰め込まれていた。バーンさんだけ、なんで平然としているんだ?
「ま、まさかと思うんですが、これ全部食べるんですか?」
「当然だな。4等分すれば、まあ、問題ないだろう」
嘘だろ。
「「「加護がなくてよかった」」」
「真也も義輝も夕実も揃って言うなよ」
「私自身、真也君の中を見て、黒いウネウネしたものを知っていますからね。絶対食べたくありません」
「悪い、春人。夕実から状況は全て聞いた。とてもじゃないが、想像しただけでもウッてくる。加護がないから、トイフェルベリーは全て任せた」
夕実も真也も完全に人任せになっている。まあ、加護がないからそうなるけどさ。
「そうだ!バーン、アイテムボックスに入れましょう。研究しないといけないでしょ。王都にいる研究者に渡して---」
「リフィア無駄だ。さっき物質鑑定をしたが、名称はわかっても、効能は不明となっていた。研究に使えるわけないだろ。食べないと効能がわからないんだぞ。食べたその時点で、アウトだ。諦めろ」
「そんな〜〜」
一応、10個程アイテムボックスに入れて、残りは4等分にして嫌々食べました。食べ終わるまで20分程かかったが、俺にとっては1時間以上感じた。リフィアさんと美香は泣きながら食べてたし、途中から無表情になって黙々と食ってて怖かったよ。俺もヤケクソになって、手掴みで一気に食っていった。唯一、バーンさんだけが平気な顔でバリバリ食って真也達と世間話をしていた。
バーンさん、あれを見て、平気で食えるあなたを尊敬します。
○○○
はあ〜、トイフェルベリーをなんとか食べれたからいいが、この後、村人達をチェックして回らないといけない。場合によっては、そのまま戦いだ。気を引き締めないといけないのだが、俺は問題ないけど、美香とリフィアさんが吐きそうなら顔になっている。バーンさんだけは、平常運転だ。
「さて、そろそろ村長の家に行って事情を説明するぞ。ハルト、家に入る前に、精神一到に入っておけよ」
「はい!」
「バーン、私は後方で、体調を回復しておくわ」
「私も---後方にいます」
リフィアさんと美香はダウン寸前だな。トイフェルベリーを生理的に受け付けないのだろう。
村長さんの家に到着し、村長さん1人だけに昨日の出来事を説明することにした。事前に精神一到で、村長さんはシロであることが判明したからだ。村長さんは話を聞いていく内につれて、顔色が悪くなっていった。
「と、トイフェルベリー、そ、そんな恐ろしい実が存在していたなんて」
「村長さん、とりあえず、村人を一人一人チェックしていこうと思います。もし、一体化していれば、その人は死んでいて、トイフェルベリーが成り代わっていますので討伐することになりますが構いませんか?」
「やもえませんな。乗っ取っていた場合はどうなるんでしょうか?」
そう、そうそこなんだよ。昨日見た時は、乗っ取っている場合、『グラッジピュリファイン』でも治療可能となっていたが、簡単にはいかないだろう。多分、暴れるだろう。その場合、戦いになる可能性もある。
「あ、それなら私の魔法でなんとかなるかもしれません」
え、夕実の魔法で?
「夕実、何か考えがあるのか?」
「はい、私が新しく開発した2つの魔法『分割』と『グループ化』を使用すれば、多分大丈夫です。元々はネット小説とかを参考にして、こんな邪族がいるかもしれないと思い、ずっと開発を続けてきました。それが、先日完成したんです。『分割』は人の中に入り込んできた邪族を分離するための魔法、『魔力循環』と『魔力操作』で人の身体の部分のみを覆い、覆っていない部分、つまり邪族を外に追い出す効果があります。次に、私達の目の前にいる邪族が分身で、本体はどこか遠い土地にいる場合、いくら戦っても勝てません。しかし、分身といえど、必ず本体と邪力で繋がっているはずです。そこで、役立てるのが『グループ化』です。分身を基点として、本体をこちらに呼び寄せ分身と一体化させる効果があります」
おいおい、まさに今の状態に役立つ魔法じゃないか!
「ユミ、凄いじゃない!その2つの魔法があれば、乗っ取っられている者達も救えるわね」
リフィアさんの言う通りだ。こういう状況を予測して、事前に開発していたとはな。
あ、そうだ!
乗っ取った奴を追い出してグループ化すれば、そいつがどういう形態をとるかわからないぞ。しかも、この家を壊して、そのまま戦いに突入する可能性が高い。村人の人数を100人を超えてる。いちいち戦っていたら、こっちの体力が持たないぞ。そうなると、----あらかじめ聖剣を突き出しておき、聖剣のある場所でグループ化すれば、実体化する瞬間に討伐出来るんじゃないか?精神一到では見えなかったけど、多分可能だと思うんだよな?
俺は、この考えをバーンさんに話してみた。
「あははは、そいつはいい!それなら一瞬で討伐されるぞ!」
「春人君、よくそんな考えを思い付きますね」
「春人、【戦うの面倒だがら、これで討伐出来るんじゃね?】と思ったんでしょ?」
「あ、あはは、その通りです」
美香の言う通りだよ。ていうか、実際面倒だろ!よし、討伐方法はこれで良いとして、1つ引っかかる事がある。精神一到で教えてくれなかったのはなぜだ?その魔法が失敗するかもしれないからか?もしくは別の理由があるのだろうか?
「どうした、ハルト?」
「いえ、精神一到で教えてくれなかったのが、少し引っかかるんです」
「確かにな。おそらく、ユミの魔法は開発されてまもない。しかも、考え方がスフィタリアではなく、異世界のものだ。管理世界のシステム自体の更新が終わっていても、精神一到自体が拾えていないのかもしれん」
そうか、それはありえるな。俺自身、まだ完全に扱えていないからな。
「村長、村人達に健康診断という名目で全員連れてきてくれ。その言い方なら怪しまれないだろう」
「はい、わかりました」
バーンさんが村長さんに言ったことで、今日の仕事が始まった。それにしても、エルフだから全員が魔法のエキスパートと思っていたけど、実はそうではないらしい。人間と同様、魔法を使えるものもいれば使えないものもいるそうだ。
「春人、すまんな。今回、俺と真也は役立てそうにない」
「ああ、義輝と相談したんだが、役立てるとするなら一体化した奴を討伐する時だけだな」
「気にするなよ。今回のケースが特別なだけさ。俺は、『精神一到』モードに入るとするよ」
さて、精神一到の『無想モード』に入るとするか。
○○○
村人を10人診察したところで、乗っ取っられた者が現れた。顔色も、かなり悪い。
「む、あなたの中に強力な毒が眠っていますね。おそらく、あと数日で目覚め全身に行き渡るでしょう。今から治療を行います」
その村人は、見た目30代の男性だった。
よし、討伐方法で集中すると、俺のやり方で討伐可能だ!
「え、毒ですか!」
「ええ、じっとして下さい」
「春人君、大丈夫です、いけます!」
俺は聖剣を突き立てた。
「夕実、トイフェルベリーの核となる部分が身体の中にあるはずだから、それを聖剣に突き刺さるようにグループ化してくれ?」
「わかりました」
「え、勇者様!剣をどうするんですか?」
「安心して下さい。かなり強力な毒なので分離した後、聖剣で浄化するだけです」
そういうと、村人はホッとしたようだ。
「『分割』------『グループ化』」
魔法を唱えた瞬間、その村人から黒いウネウネしたものが現れ聖剣のところに集まり出し、怪しい大きな影のようなものとなり、そして実体化した。昔のRPGドラ○ンクエ○トIIIのあやしい影にソックリだ。
「ふ、ふふ、あははは、勇者〜感謝するぞ!この世界に実体化出来たのだからな!-----ギャーーーーー、なんで聖剣が我の身体の核に突き刺さっているのだ〜〜〜」
「お前が自分から突き刺さりに来たんだよ」
「そ、そ、そんな馬鹿な、この世界で暴れると思ったのに〜〜おのれ勇者〜〜〜」
聖剣で【何か】の急所となる核を貫いたのだろう。呆気なく消滅した。実際戦っていたら、どの程度の強さだったのだろうか?
その後、全ての村人を診察した結果、乗っ取っられた者は15名、一体化は3名だった。エルフの抵抗力が予想以上に強いんだろう。3名だけで良かったというべきなのだろうか?乗っ取っられた者達も、かなり顔色も悪くギリギリのところだった。
分割した【何か】も自分が実体化した喜びで、聖剣が突き刺さって徐々に消滅していっているのに気付かない馬鹿もいた。消滅寸前に、
「やったぞ〜〜、ついに実体化したぞーー!やっと、こ、れ、で、-----」
「勇者〜〜卑怯者〜〜我と戦え〜〜〜〜」
「ふ、戦わずして勝つか、------さすがは勇者だ」
「は、貴様は最低の勇者だな!そんな勝ち方で嬉しいか!え〜この恥知らずが!悔しかったら、実力で俺達に勝ってみろや!糞勇者が!」
「勇〜者〜、お前の心意気は犬以下だな。このような卑怯な手段ばかりで、我々を退治しおって〜〜」
など、俺に対してあらゆる暴言を吐いていった。
悪かったな!
俺だって、こんな勝ち方で良いのか疑問に思っていたよ!
「ねえ、春人は犬以下だってさ」
「春人君、ボロクソに言われてますね。まあ、正々堂々とはいえませんね」
「師匠、こんな勝ち方が許されるんですか?」
「は、勝てばいんだよ、勝てば!犬以下で良いじゃないか!気にするな、ハルト」
犬以下?
「あら〜、ハルトは勇者の中でも最低のレッテルを貼られたわね〜〜」
あの皆さん、全然フォローになっていませんよ。なんで、卑怯者扱いされなきゃいけないんだ?だって、15体も連戦で戦っていられるかよ!
まあ、ここまで敵味方関係なく罵られるとは思わなかったけど、これで乗っ取った者達の対処は終了だ。
いよいよ一体化した【何か】との本格的な対決だな!
ブックマーク、評価をお待ちしています。