俺と猫
やってしまったぜ。
逃げろ、逃げろ、逃げろ!!
あちらこちらから、怒号が飛び交い、それを悲鳴が切り裂く。
俺は脇目も振らず、ひたすら走り続ける。
このときばかりは、陸上をやっていてよかったと思う。
やつらに追いつかれたときが人生の終わりだからだ。
「こっちだ!この先に向かえ!!」
車をバリケードにし、拳銃を構える男たちがいた。
車を飛び越え、男たちに視線で礼を伝える。
しかし、男たちにはそれを受け止める余裕はなかった。
この後の迫り来る脅威に、恐怖し、その手に握る拳銃はガタガタと震えていた。
男たちを背に、俺は走る。
しばらくすると、パーンパーンと発砲が辺りに響いた。
それが引きがけだったのか、様々な方向から拳銃の音、爆発音といった戦いが激化した様子が伝わってきた。
まずい、まずい、まずい。
どこか、安全な場所へ逃げ込まなければ。
気持ちはすでに追い詰められていた。
頑丈そうな建物のほとんどは、入り口が塞がれ、入れそうにない。
やつらが迫っている以上、中の人が入れてくれるなんてことも期待できない。
坂を駆け上がり、その先には短いトンネルがあった。
このトンネルの向こうは、捨てられた町だ。
発展している場所に近いにもかかわらず、開発がしづらいという理由だけで切り捨てられ、廃れた町。
先の街で何が起こっているのか、わかっているのかいないのか。
街に受け入れられなかった者たちが集落を形成し、スラムのようになっていた。
最悪、あのトンネルを塞いでしまえば、少しは持つかもしれないが、それを教えている余裕はない。
がむしゃらに走っていると、ある建物が目に入ってきた。
ボロい、所々欠けたコンクリートのマンション。ひび割れも多く、窓には木の板が張りつけてあり、人の気配もない。
窓の上には突出した、軒と言うには短い部分があった。
走るスピードはそのままで、一階の部分の出っ張りに跳び、掴む。
反動をつけて、体を持ち上げると、続いて二階の部分へ移動する。
はぁはぁと、自分の息が煩い。
腕の力が怪しくなりだし、五階の窓の板を外しにかかる。
板が外れ、窓に手をかける。
鍵はかかっていないようだ。
大きく深呼吸して、一気に開けた。
ーーヴアアアアッ!!!
暗闇に突如浮かび上がる顔。
白く濁った眼に焦点はなく、眼球の半分ほど飛び出ている。土色に変色した肌には無数の傷があり、頬は肉がえぐれて歯が見えていた。
全身の毛穴が開き、ブワッと嫌な汗が吹き出る。体が硬直しているのに、手をかけている窓がカタカタと鳴る。
ーーみぃ〜。
場にそぐわない、小さな鳴き声にハッと我に返った。
今のは、恐怖が見せた幻か…。
そうだ、やつがいるわけがない。
頬がえぐれたあいつは、自分の手で頭を叩き割ったのだから。
ーーみぃ〜。
再び、小さな鳴き声がした。
窓の中に視線をやると、もう一枚板が張ってあった。
10センチくらいのスペースしかなく、どう考えてもやつが入る隙間もない。
窓の中に頭を入れると、その小さな隙間に子猫がいた。
どうやって、この密閉された空間に入ったのか甚だ謎だが、子猫自体は健康そうだ。
毛艶のよい白猫。暗いのでよくわからないが、目の色が左右で違うようだ。
「お前も独りなのか?」
ーーみぃ。
こちらの言葉がわかっているかのように返事をする子猫。
自分が呟いた言葉が、自分に突き刺さる。
そう、独りなのだ。
もう、家族も友達も、誰もいない。
「お前は、俺と一緒にいてくれるか?」
ーーみゃ〜。
もう、限界だった。
心も体もボロボロで、俺独りで生きていく理由すらもなくしてしまった。
「おいで、雪」
これが、雪と名付けた猫との出会いだった。
俺は雪に導かれ、いまだ生きている。
ごく稀に生きている者に出会うこともあるが、彼らもまた、猫に導かれていた。
だが、導かれる先は、それぞれ別のようだ。
俺たちは数時間、長いときは数ヶ月、導かれる同士が協力し合い、やつらと戦い、食料を探し、今日も生きている。
「雪、どこに行くんだ?」
ーーみゃ〜!
答えが返ってきたところで、雪の言葉を理解できない俺は、雪について行くしかない。
世界が変わって、もう一年。
猫に導かれし者たちが目覚めるまで、あと………。
夢で見たパート2です。
睡眠時間を削ってまで何やってんだって感じですが(笑)
ただ、この夢を見たときはマジで怖かったです。
ゾンビと思われる何かに捕まらないよう、ひたすら逃げまくる夢でした。
建物によじ登り、窓を開けたとき、いたのは子猫でホッとしたら目が覚めた。
覚めたあとで、自分が男性だったことと、なぜあそこに子猫がいたのかが謎すぎて忘れられませんでした。
かなりの確率で変な夢を見ていますが、だいたい逃げる夢が多いという。
そう言えば、大きな研究所っぽい建物に侵入して、バレて、追われて、隠れて、逃げるっていうスリリングな夢も見たな。そのときも男性で、なぜか仲間の女性が二人いた。ダブルヒロインだったのかな?