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第八章 先輩×涼香×友=破壊力

 涼香とデートの約束をしてから、二日がたった。


 昨日と一昨日、僕は一人で登下校し、先に登校していた涼香と普通に過ごす日々を送った。


 僕の方の意見を言わせてもらうと、登校するということに学校に行く以上の価値を見出せないから、各々が好きなタイミングで行けばいいと思うんだけど、涼香の方からすると大分意味が違って来るようで、


 僕が朝一人で登校して教室に入ると、涼香がいて僕の方にテクテクと近づいてきた。


 「おはよう、亮太」


 そこには、『ふふん、どう?いつも一緒に登校してたのにいきなり先に登校された気分は?』


 と、わかりやすく顔に出ていたので、


 「おはよう。今日は早いんだね」


 と、だけ返して自席に座った。


 その時の涼子の顔の変化の幅と言ったら、なかなかにレアものだった。


 「そういえば」


 「な、何かしら?」


 ちょっと気になったことがあって、口の端が不自然な感じに引きつっている涼香に話しかける。


 「前の話、いつになりそうなの?」


 「っな!!」


 ガタガタっと、涼香が椅子から大きな音を立てて立ち上がった。


 それを周囲のクラスメイトが不思議そうな様子で眺めている。


 「あーいや、みんなごめん。ちょっと僕が涼香のことを驚かせようとしてそれが成功しただけだから、気にしないで」


 まだあまりお互いのことを知らない仲だけど、そうなのかと思ってくれたのか特にそのあと僕たちのことを気にするようなことはなく、再びまだ、色々と探り合っている朝の教室に戻った。


 「い、いきなりなんでそういうこと聞くの!び、びっくりするじゃない!」


 顔が真っ赤になった涼香が慌てて耳打ちして来る姿は、うん、素直に可愛いと思った。


 「僕の方にもちょっと心の準備が必要だからね。もしもう決まってるなら知りたいと思って」


 別に日時がわかったところで何も意味はないような気がするけど、とりあえずこう言っておこうという言葉が頭に浮かんだので、それをそのまま口に出してみた。


 「へ、へぇ。つまり良太も緊張しているという訳ね。でも、まだ教えてあげないわ。

  私も色々考えがあるからそれがちゃんと決まって、そしてなるべくギリギリのタイミングで告知する予定なんだからね」


 いくらか平常心を取り戻した涼香が、ふふんと言わんばかりに自らの計画を告げる。


 やっぱり、完璧主義なだけに色々と自分に納得の出来るものにしないと気が済まないんだろうね。


 「そっか。わかったよ。ところで、今日はどうするの?」

 

 「どうするって?」

 

 「一緒に帰るの?」


 「うっ!」


 「僕はちょっと先輩に勉強を聞きに行ってみようかなって思ってるから涼香が今日一人で帰るのなら、僕は放課後先輩のところに、」「一緒に帰るわ」


  その時の涼香の目はまるで深海のような暗さと、肉食獣のような獰猛さを合わせて割ったような鋭さを持っていた。


 「良太。あなたが勉強をするために学校生活のことであまり積極的になれないということは私なりに理解したわ。だけど、あの女のところに行くのと、私と一緒に帰ることを天秤にかけたりしないで。

  別に、私たちはつ、付き合ってる訳じゃないから良太の行動を制限したり、わがままを言ったりするつもりはないけど、それでも付き合いの長さに関して言えば私との方が長いんだから、そういうことを言われると私はいい気分はしないわ」


 ちょっとした冗談のつもりだったのだが、思いの外気分を害してしまったようだ。


 「ごめん。ちょっとふざけ過ぎたよ。そうだね涼香が嫌がるっていうのはわかってたけど、つい意地悪したくなっちゃってさ」

 

 「わかっていてやるっていうのはどういうこと?」


 まだ、怒りが収まらないような目をしている。


 「いや、顔を真っ赤にする涼香がすごく愛しくなってさ、もっと見たくなっちゃって、ホントごめん」


 「なっ!」


 ガタガタっ


 もう一度、涼香が勢いよく立ち上がる。


 視線がまた、涼香に集まった。


 「あー、みんなごめん。また成功したんだ。だから気にしないで」


 僕の声がけに、みんなの視線が元に戻ったけど、あの二人の関係って?という会話がちらほら聞こえてくるようになった。


 まぁ、同じ中学から来た同級生もいるから僕としては全く気にしてないんだけどね。


 「もう!あまり私のことをからかわないでよ。確かに前の話があってからちょっとだけ私良太に対して意地悪なことしたかもしれないけど、ちょっとだけじゃない。たまには良いじゃない」


 僕は何一つ気にしていないつもりなんだけど、僕自身の行動と言動から自己分析すると多少は気になっていたのかもしれない。


 「別に、僕はからかってるつもりはないけどさ、涼香がいきなりいつもと違うことをするからペースが狂っちゃったかもしれないね」


 仮に、僕と涼香が恋人同士になったとしても変にこの関係性を変えたりはしたくない。

 だから多少は釘を刺すという意味もあるのかもしれない。

 

 僕はこの関係が好きなのだ。


 「わかったわよ!もう降参!変なこと考えたりしないから、良太も私に意地悪しないで」


 半泣きの涼香もかわいいなぁ、と普段見られない完璧超人のギャップ萌えを確認しながら


 「特に意地悪したつもりはないんだけど、他人は自分の鏡っていう言葉もあるくらいだしね。涼香が見ているのは自分の写し身なんだよ、きっと」


 「うぅ」

 

 何となく深そうな言葉を言っておく。


 多分、もうこういうことは無くなるだろう。


 

 

 今日も1日がつつがなく終わった。


 クラスや委員会の取り決めもそろそろ終わり、本格的に授業がスタートし始めている今日この頃。


 僕はもはや予習を終わらせている範囲をもう一度やるつもりもなく、授業中はもくもくと自分の勉強をしている。


 先生にも事情を話しており、テストで悪い点数を取らないという条件で勉強を進めている。


 この辺りはきちんとやっておかないと後で後悔することになる。


 「帰りましょ?」


 下駄箱の前の廊下で涼香が待っていた。


 「今日は何にもないんだ?委員会とかクラスのこととか」


 「そうね、やることは全部終わったし、大丈夫!」


 にこやかにそう告げる涼香は、相変わらず優秀なようだ。


 「あら、奇遇ね。木本君」


 涼香との下校中、藤崎先輩と出会った。


 なぜか、僕の家の前で。


 「・・・何やってるんですか。というかなんで僕の家知ってるんですか?」

 

 近づくにつれて仁王立ちの誰かが家の前に立っているのがわかって、正直結構怖かったのだが、まさか藤崎先輩だったとは、いや、むしろそんなことをするのは彼女しかいないか。


 「ふふふふ、生徒会長に知らないことはないわ!今日はちょっと木本君に用事があったからここで待たせてもらったの」

 

 藤崎先輩は、一回自分の家に帰ったのだろう。

 制服ではなく私服に着替えている。


 真っ白なワンピースに小さなポーチを身につけているその姿は、まさにどこぞのお嬢様そのままだった。


 ・・・正直、似合っている。

 

 



 


 

 


 

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