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第四章 ずっと友のターン!やめてっ僕のライフはとっくにゼロよっ!

 「あはは、お兄ちゃんらしいね!」


 一時間くらいだろうか、僕と友はベッドの上でずっと話をしていた。


 今日は少し涼しい四月の春の気温。


 僕の部屋は小さいから、部屋に二人でいると、室温に影響を及ぼして、直に相手の体温を感じる。


 なぜか友からは女の子のいい匂いがする。


 心臓の音はだいぶ落ち着いてくれたけど、もう、全体的に勘弁してほしい。


 「ねぇ、お兄ちゃん」


 「ん?」


 「クラスに可愛い女の子、いた?」


 ・・・・・・それを聞いてどうするんだろう。


 「今日は始業式だけだったし、すぐに家に帰ってきたからちゃんとはわからないけど、そんなに気になる女の子はいなかったんじゃないかな」


 正直なことを言うと、僕は涼香がいつも近くにいるため、彼女以上か同等の女の子というのが可愛いの基準になってしまう。そのため、なかなか可愛い女の子に巡り合うことが今までなかった。


 しかも、恋愛的な感情としては、目の前にいる友のことを可愛いと思っているから、始末が悪い。

 誰の得にもならないけど、僕の可愛いのハードルは結構高いのである。何度か告白をされたことはあるけど、すべて丁重にお断りしている。


 ちなみに、すべての告白で『涼香がいるっていうのは知ってるんだけど』と言われた。

 べつに、気にしなくてもいいのに。


「そっか、お兄ちゃんみたいに思春期真っ只中の男の子にはちょっと残念だったね」


 そのセリフはそのままお返ししたい気分だったけど、若干安心したかのような友の笑顔をみたら、可愛いからまぁいいやと思った。


友が通っている中学校には制服がない。だから、友は学校でも女の子の恰好で通っている。  


「友こそ、気になるクラスメートとか、いないの?」


 「んーいない。仲がいい友達はいるけど、男の子も女の子もお兄ちゃんとお姉ちゃん以上に気になる子はいないかな」


 涼香から話を聞くと、友はクラスでとても優秀らしい。成績は常に上位で、体育もそつなくこなし、彼女みたいになにかの代表をやるわけではないけど、ご意見番的なポジションでクラス全体のバランスを保っているらしい。


 もともと英才教育を施されている篠原兄弟は、そろって能力を発揮しているようだ。

 家が隣だっただけなのに、なんで僕はこの二人とこんなに仲がいいんだろう?


 「早く来年にならないかな。そしたらお兄ちゃんと一緒に学校行けるし、会えるし、帰れるし、いいことしかないのになぁ」


 今日が始業式だというのに、友はもう進路が決まっているようだ。

 ちなみに、同じくらいの距離にもう一つ私立の高校がある。そこは僕が通っている高校よりも偏差値が高く、大学の進学率も高い。僕の学力では難しいと判断してあきらめた学校だ。


 ただし、そこがある場所は僕の高校とは真逆の位置であり、篠原兄弟の中でそこを選ぶという選択肢はないようである。


 「別に、僕の高校に入っても大していいことなんかないと思うけどね。友は頭がいいんだから、もっと上を狙っていけばいいのに」


 割と本気でそう思う。

 涼香の場合も同じように思ったけど、友の場合はまだ間に合う。こういうことはあんまり思いたくはないけど、義務教育から離れた教育機関は、環境がそれぞれ変わってくると思う。

 受験という基準値を超えてきて、学力のみで考えれば、同じかそれ以上の人間が集まるのだ。

 だったら、ラインは高い方がいいだろう。


 「……なんで、お兄ちゃんはそんな意地悪言うの?」


 するりと、友の手が僕の指を絡めとる。


 僕はまた、心臓が爆発をしたような大きな鼓動を感じる。


 「お兄ちゃんは、僕が一緒の学校に行きたいって言ってることが嫌なの?」

 

 そんなわけがない。というかなるべくならずっと近くにいたい。でも、


 「そうじゃなくて、もったいないと思っただけだよ」


 精一杯、余裕ぶって答えた僕だったが、いつの間にか、友との距離がめちゃくちゃに近いことに気づいた。


 「せっかくもっと整った環境がある場所に行けるのに、それをしないで、僕みたいな凡人と同じ学校に行くのは、ちょっともったいないって」


 指を絡め取られて、体が密着していて、上目遣いに僕を見ている友。


 いい匂いだし、あったかいし、


 潤んだ瞳に、柔らかそうな唇。


 あぁ、だめだ。


 僕は、だめだ。


 このままだと、僕は、この子を、どうにかしてしまう。


 そのとき、プルルッと、友の携帯電話が鳴った。


 「ちぇっ、残念。お呼び出しされちゃった」


 電話ではなくメールだったようで、携帯の画面を見た友が残念そうな顔をしている。


 「じゃあね。お兄ちゃん」


 ベッドから降りた友は、ひらりとスカートをなびかせて部屋のドアノブに手をかけた。


 「意地悪なお兄ちゃん。僕も、そしてお姉ちゃんも、実際はどこにでも行けるんだよ?だから、自分で行きたいところを選んでいるだけ」


 妖艶な、それでいて幼さが残る笑顔を見せながら、ドアが静かに閉まっていく。


 「またね。お兄ちゃん」


 ドアが閉まり、階段を降りていく音が鳴りやむと、僕の周りに静寂が訪れた。


 ……今日は危なかった。マジで一線を越えてしまうところだった。


 僕と友の関係は、今となってはもうよくわからない。


 出会ったころからこうだったかもしれないし、最初の方は違ったかもしれない。


 ただ、今、僕が友のことを好きだっていうのは間違いないし、それを、モラルの一言だけで我慢しているのも事実だ。


 友自身が僕のことをどう思っているのかは、まぁ、わからないけど、僕としては、現状維持が正直なところ一番だと考えている。


 あぁ、そういえば僕は勉強をしようとしていたんだっけ。


 ふと、机の上の問題集を見つめる。


 だけど、今日はちょっと無理そうだから、明日から本気を出そう。

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