「ディグダグII」と1400円と今と昔
中一の冬だった。
小学生時代からの幼馴染N君ちの、もう日の沈んだくらい居間で「ディグダグII」を初めて遊んだ。ゲームセンターと変わりないグラフィック! ゲームオーバー画面もゲームセンターと同じだ! ラジアメで聞いたBGMもおもしろい!
カセットのかっこうよさもあいまって、一目で気に入った。しばらくしてからN君から借りて遊び倒した。
薄暗い居間のテレビで、青い海と緑の島を舞台に戦ったディグダグIIには私しかいなかった。クラスでほかに遊んでいる友人はいないし、謎解きもない。続編がまだ珍しかった時代でどこか扱いが低かった。歩きながらプクプクポンで瞬殺したり、1ブロック島から魚をだしたり、詰将棋のように最小、最速をめざしたり。できることは多かった。
「1400円で買わない?」
その後N君から「ディグダグII」の売買を持ち掛けられた。即答で購入した。定価4500円なのだから大歓迎だった。しかしカセットのみだったのが残念ではあった。すでにやっかいなコレクター体質が芽吹いていたのだと思う。
それから少ししてからだろうか。学校で生徒間のファミコンカセット売買が問題となり、全生徒に対しての聞き取りが実施された。教師側としてもファミコンに対する姿勢が明確でなく、ただ「悪」扱いだったのだとは思う。今となっては考えられない事態だし、そういう時代だった。それはまだ学校の責任範囲が広く、それを学校側も自任していた時代の出来事だ。
その聞き取りに「N君からディグダグIIを1400円で買いました」とだけ答えた。友達がいろいろ売り買いしてるのは知っていたけれど、それについては答えなかった。聞かれていないのだけれど。そういう厭な気のまわしかたをする少年だったのだ。
結局、騒動がどのように終結したのかまったく覚えていない。ただ手元にディグダグIIは残ったままだったので、学校側から取引の巻き戻しが指示されたわけではないようだった。
その後、中古屋ができたりもしたけど、友達同士での売り買いは続けられていた。どこかすこし罪悪感を乗せて、カセットが行き交っていたのだろう。この事件以降、面倒が多そうには思っていたので、私はその輪から外れていった。
これはまだどことなくファミコンが「悪」のオーラをまとっていた、不良のアイテムだったころの出来事なのだと、今、懐かしく思い出す。現在でもLINEいじめやら、アカウント不正ログイン、ゲーム内賭博なんやらかんやら。教師の目の届かないところでちゃんと子供のルールが運用されている。
ファミコンのころから変わっていない。