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旧こちらアイドル異世界支部  作者: okd
第0曲「プロローグ」
3/33

少年は逃げる





ライル・リヴ・アルスター。



唐突な転生が違和感なく理解できたのは、もっと正しく言えば、俺が前世・・を受け入れることができたのは、この人生と加護があったからだろう。


ライル。

昔の勇者のその名前はこの国では平凡な名前だ。


そしてライル・リヴ・アルスター。

その名前はこの国では少しばかり有名だ。

一時期この国騒がせた雷の勇者の家系、アルスター公爵家嫡男・・・・・失踪事件。

その人の名前。

そして、俺の本当・・の名前だ。


アルスター公爵家に生まれた俺は幸せと言えるそれだった。

食事も、衣服にも、もちろん住む家にだって困ったことはない。

それになにより、俺はーーまた両親に恵まれていた。


父も母も、俺が初めての息子だったこともあるのだろう。

とにかく俺の事を可愛がってくれた。

雷剣の英雄である父は剣を教えてくれ、癒しの担い手たる母は座学や礼儀を教えてくれた。

貴族、それも名家でありながら、人を雇い入れる事なく直接。


母曰く、「誰かに会わせたら連れて行かれちゃう」と俺はそのくらい溺愛されていた。


そんな両親だったからか、俺も両親を好きだった。

そして当然のように俺は両親の為に、アルスター公爵家の名に恥じぬように努力をしていた。


……けれど、いや、だからこそだろう。


俺にとって忘れる事の出来ないその日。


ーー俺はアルスター公爵家から逃げ出した。








その日は七歳の誕生日だった。



「流石ライルちゃん!かわいいーー!早くお祝いしましょうね!」

「奥様、気が早いです」

「母様痛いです」


いつものように俺をきつく抱きしめる母と、元は母の専属のメイドで、当時、俺を見てくれていたリムレットに囲まれ、不安と高揚感で俺は緊張していた。


「でも、流石ライル様ですね、よくお似合いです」

「そりゃあもう、ライルちゃんは特別ですから」

「はい!」


儀式用の服に短剣、幼い俺にはきっと浮いている物だっただろう。

けれど、この時の俺は年相応に喜ぶ母を見て浮かれていた。


「さ、奥様そろそろ時間では?」


そして、母による母のための俺談義《親バカタイム》はリムレットのその一言で締めくくられる。


「あら、もう?じゃあ、行かなきゃね、ライルちゃん」

「はい、母様!」


そして、俺たちは忙しなく準備を始めた。


この日は教会に向かう日だった。

この日は俺にとって7回目の誕生祭。

誕生祭、それは、一年に一度同じように歳をとっていくこの世界の人にとって、祝福の日だ。

そして、七歳の誕生日。

それは加護を貰い、神様に自分の存在を認めてもらう日だ。



この世界の子供達は例外なく、七歳になったその日に加護を貰い受ける。



「おお!ライル似合っているな」

「私たちの子ですもの!」

「はい!父様!母様!」

「そうだな!俺たちの息子だ!」



そう言って笑う父にライルは抱き上げられる。

準備を終え、母に連れられて向かったのは父がすでに待っている馬車。


「父様、僕はもう七歳です!」

「ハハ!そうだったな」


そこにあったのは幸せな家族の姿。

そこは俺の居場所だったはずの場所。


談笑しながら家族と共に馬車に乗り込み走らせる。

そして着いた場所は教会。


ーーそこは俺とアルスター家との最後の場所。


「それでは、父様!母様!行ってまいります!」

「おう、頑張ってくるんだぞライル!」

「ライルちゃん頑張ってね」


ーーそして、これが両親との最後の会話だった。


「いらっしゃい、ライル君」

「はい、神父様!」


教会に入れば人の良い神父に迎えられ、儀式の間へと案内される。

この神父もこの頃を思い出す時によく思い出す一人だ。

父と母に内緒で、教会ここに連れてきてもらった時の共犯者。


教会には人が集まる。

俺はここでできた同年代の友達とよくここにきて遊んでいたのだ。

いつも厳しいリムレットもここだけは「悪いことではないですからね」と許してくれていた。


「そう言えばライル君はよく儀式の間に入りたがっていましたね」

「はい!」

「ようやくと言ったところですね」

「はい、加護を頂いたら父上のようになります!」

「いい心がけです、その気持ちを忘れないでいてくださいね」

「はい!」

「それでは、加護があらんことを」


神父のその言葉に頷き、扉を開く。


ツンと冷たい空気が頬を撫でた。

儀式の間、その場所は教会という場所の中でもさらに神聖な場所だ。

理由は簡単で、神から加護を貰い受ける場所。

つまり、神が住む場所だとされているからだ。


儀式の間を進んでいく。

冷たい空気が徐々に身体に絡み付いていく。

まるで、無機物に触れた時のようなそれは、ここが神聖な場所だと俺という存在・・に認識させる。


置かれている柄杓で聖水の泉から聖水を掬い頭からそれを被る。

これは、儀式であり、神様への礼儀だ。

俺はその儀式を済ましていく。

そして、玉座に置かれた光を放つそれに手を触れ、言葉を紡ぐ。


「私は何者か、答えを《アッシェンテ》」


瞬間、光が身体を包む。

まぶしくない、無色透明な淡い光。

けれど、儀式の間を覆う程の光。


「これが、僕の加護の量……」


その光は加護の力を指し示す物。

俺は、その光の量に喜ぶよりも先に驚愕し、そして顔を綻ばせた。

そして、その光は俺に向かい収束していく。

光が俺の中に収束していくに連れて、自分の加護を理解していく。


綻ばせていた表情。

なのに、加護それを理解していくうちにその表情が曇っていくのが自分でわかる程、俺は困惑した。


「……なんで?」


そして、加護を理解した俺はただ一言、そうつぶやいた。


「なんで、なんで、僕は父さんの子なのに!」


幼い俺は悲痛の声を上げる。

視界・・がぼやけ、玉座が滲んでいく。


「なんで、なんで、なんで!」


玉座の前で膝をつく。

見下ろすように、ただそこのある自分のに映る光を放つそれは、あまりに残酷に見えた。


ーーこの世界には加護と呼ばれるものがある。


大きく分けて三つ。加護には種類がある。


一つ目に五大加護。


火、水、風、土、木。

この世界に圧倒的に多い加護だ。

加護は持つ人はその属性を扱える。

属性は一人につき一つこれは絶対だ。


二つ目に固有加護ユニーク


これは、極稀に与えられる加護。

その人物だけに与えられた加護。

特徴として、この加護を持つほとんどが加護の量が多い。

だからこそ、多くの場合神に愛された子として「神子みこ」と呼ばれる。

母であるエミリアも癒しの加護を与えられた神子であり「聖女」だ。


……そして、俺も。


「僕は、父さんの子じゃないの?」


俺は玉座を見上げそうこぼす。

悲痛に顔を歪ませて。

トクトクとなる心臓な不安を煽る。


ーーだって、その加護、俺がアルスター公爵家から逃げた理由だったから。


幼い俺を襲った不安はその身体を突き動かし、俺は儀式の間を飛び出した。


「ライル君!?」


扉の前に居た神父の呼び止める声が聞こえる。

幼い俺にはそれに反応している余裕はなかった。

それでも、父と母がいない裏口へと真っ先に向かったのは、俺のギリギリの理性だったんだろう。


ーーこの世界には三つの加護がある。


一つ目は五大加護。

二つ目は固有加護


そして三つ目は……《血統加護》。

この加護は他の加護と違いーー遺伝・・する。


雷、炎、聖、慈愛。

それらの加護は、過去の勇者達が過去に残した加護だ。

そして、アルスター家が公爵家である理由。

けれど、血統加護にも極稀に例外は存在する。


「僕は忌み子なんだ!」


幼い俺の口からはそう言葉が漏れる。

忌み子、それは多くの場合極端に加護が少なく加護を使えない者の事を指す。

もしくは、加護の力に振り回された者の事だ。

神に愛されなかった子として。

神を受け入れなかった者として。


けれど、俺の場合大きく意味が変わってくる。

本来、神子の力を持つ俺。

けれど、アルスター公爵家嫡男・・・・・としての俺は「忌み子」だった。

少なくとも、幼き俺にとっては。


ーーだって俺は、アルスター公爵家を継ぐ事が出来ないのだから。


悲痛な心の叫び。

そして、事実であり現実。


「ごめんなさい!ごめんなさい!父様!母様!」


その事実が幼かった頃の俺のあまりに小さい心をえぐった。


血統加護を持たない俺は、後世に加護を残せない。

父と母はそれでも、笑って受け入れるだろう。

けれど、それが怖かった。


ーー僕は忌み子だ!


なんども浮かぶ両親の顔を掻き消して、切り傷を作りながら教会裏の林を抜ける。


どんな顔で両親に会えばいいのか、自分は、どんな顔で父様、母様と呼ぶのか。


ーー忌み子である自分が。公爵家・・・人達・・を!。


だから、逃げた。

もう公爵家を名乗れる資格なんてないのだから。



「……ごめんなさい」


そうつぶやくと、体力の限界だったのか、恐怖・・から逃れた安堵からか、幼い俺のの記憶は《・・》近づいてくる地面を最後に途切れた。

本編に入るまで少し駆け足ですがご容赦ください

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