少年は嘆く
本編に入るまではパパっと行こうと思います笑
前世の説明会的あれです。笑
こんな感じですけど、この回は少し我慢をお願いいたします笑
俺、天城唯は趣味は読書に、アイドルの追っかけ、とまぁ、一般的な極平凡な人間だった。
……そして、そんな俺の人生に影を落としたのは、16歳の頃であった。
極普通に高校生を送っていた俺は突然、病を患ったのだ。
その病は治る事はなく、徐々に身体を蝕み、進行して行った。
★
病院の一室。真っ白なその部屋で、俺は視線だけを母さんに向けるようにして、床に伏せていた。
「大丈夫?」
「……」
何度目になるだろう母さんの問いかけが、心を揺らす。
今日は確かにいつもよりも調子が良い。
いつもなら、節々が痛むこの身体も少しばかり軽い気がする。新薬のおかげだろうか。
ただ、それでも……俺には母さんに向けるべき言葉が見つからなかった。
16の時に病に罹り、余命数か月と申告されてから、もう二年の月日が経とうとしていた。
延ばし延ばし生きてきたその中で、母さんに、どれだけの苦労を掛けてきたんだろうか。
何故、自分だけが……なんて問いかけはもうやめた。
生きてきたんだ。ただ、今思うのは、何故、母さんが苦しまなければいけないんだ……。
いっそ自分が死んでしまえば……と。
でも、それを口に出してしまえば、母さんはさらに悲しむだろう。
だけど、「大丈夫」そう答えたところで何の気休めにすらならないこともよく理解していた。
「……ごめんね」
「……ッ」
ポツリと呟く母さんに、俺は居た堪れなくなり顔を背ける。
この人はいつもそうだ。
自分は何も悪くないのに、自分を責める。
そう思いながらも俺は口を噤む。
ーー悪いのは自分だ。
こんな貧弱な自分が。
「……そうだ、お母さんまた、練習して来たから、見てよ」
「……いや、いい」
「いいから……ね?」
「良くない」
唐突とも言える母さんの言葉に、俺はこれから起こる事を予期し、母さんを止めようとするが、その甲斐なく、母さんは一つ微笑むと、立ち上がる。
「ーー花束抱いてー貴方を迎えに行きますー♪」
始まったと言うべきか、始まってしまったと言うべきか。
それは、当時に俺がハマっていたアイドルソングを完コピしようとする母さんの姿。
確かに俺は、ご当地だろうと、アニメだろうとアイドルと言うものが好きだったが、それでも、初めて見た時の母さんのその姿には、流石に抵抗があると頭を抱え、情けなさと、悔しさで枕を濡らした。
「ーー青く咲いた花の名前は扉♪」
少しは見慣れた光景となってしまった母さんの姿。
だからって、何も感じないわけじゃない。
ーー悔しくて、情けなくて、そして惨めで。
俺は、ただ何も言えずそんな母さんを見守る。
決してキレの良いダンスではないし、歌がうまいわけでもない。
それでも、俺は、母の想いを理解していたつもりだった。
ーー母さんもまた、悔しいんだ。
何も出来ない自分に。俺と同じように。
「さぁ、青い花束を抱いて貴方をら迎えに行こう。貴方が道を閉ざさぬようにーー」
ただ、今この時間は、情けなくとも、悔しくとも、俺と母さんにとって必要な時間なんだろう。
ーー天邪鬼な慰め合いの時間。
母さんは、俺が大好きなアイドルを真似して、自己満足に浸り、俺は、そんな母を見守り罪悪感を埋める。
そんな手段が、2人にとっての慰めだったんだと思う。
「ーー」
「……」
曲が終わり、母さんは口元にかざす様に握っていた拳を下ろした。
「……じゃあ、また、明日くるね?」
母さんはそう言うと、俺に一度微笑みを残して、病室を去っていく。
「……」
俺は何も言えないままにその母の姿を見送った。
「……ごめん」
その言葉と同時に嗚咽が漏れる。
何を言葉にしても、今の俺には母を傷つける事しか出来ない。
「……なんて……親不孝なんだ」
またポツリと言葉が漏れる。
もうすぐ死ぬ。それを理解してしまった時からーー
ーー自分が生まれて来なければ、母はこんなに苦しむ事はなかったーー
そんな思考が止めどなく溢れ出て、もはやそれは止める事が出来ぬ濁流となって心を責める。
「……ごめんな」
もしも。
もしも、この命が助かるなら、なんて、もはやそんな事は願わない。
ただ、もしも、願いが叶うなら、親孝行をしたかった。
そんな願いを抱えながら、俺はその数週間後に息を引き取ったーー。