エピソード2
ハルくんは幻でした。「2話」ではありません。「エピソード2」であります。
そこのところご理解お願いします。
誤字脱字、至らぬところあれば、ご指摘のほど、よろしくお願い致します。
昨日の奇妙な事件から、もう既に3日たった。治療の合間に児童の病室は全て回ったといのに、あの彼は見当たらない。
もしかして、彼は高校生?高校生なら児童の病室にはいない。それにしては顔つきも身長も幼すぎる。…そういう病気もあるんだろうか。
彼の白い髪を思い浮かべると、心臓がドクンと脈打つ。これも感染症をこじらせたうえでの何かなのだろうか。感染症恐るべし。
こうなったらもう看護師さんに聞いてしまおうか。今まで何の意地をはっていたのか分からないが、私は全て1人で探していた。人に頼るということも、悪くはないだろう。
「あ、あの…篠原さん」
「ハイィィィィィ!?どっ、どうしたの零香ちゃん!?気分!?気分が悪いの!?どうしましょ…あっ!佐藤先生を呼んでこなきゃ…」
なんだこの人。本当に大人なのだろうか。たかが私くらいの子供にびびっているようでは、先が思いやられる。確かに私は今の今まで血を吐こうが気を失おうが看護師さんはおろか、主治医の先生にすら声をかけたことはなかったが。
「違います。「えぇぇ!?何が!?」
「いやその、調子がどうとかではなくて、ただ少し、お聞きしたいことがあるんです。」
そういうと篠原さんは全身の力が抜けたようにヘナヘナと下に座り込んだ。
「良かった〜…零香ちゃん何も言わないから…本当に死んでしまうのかと思ったわ〜…」
「人を勝手に殺さないでください。」
また大人らしくない行動だ。地べたに座るなんて、玩具をねだる子供くらいである。もしくは不良。
私が篠原さんを怪訝とも呼べる目で見ていると、篠原さんはキョトンと固まっていた。そして見る見るうちに体を震わせ、次の瞬間ドッと笑い出した。
「あ、あらあら…零香ちゃんって…とっても面白い子だったのね…ふふふ…」
「それは私が今までつまらない偏屈な子供であったことを遠まわしに伝える嫌味ですか。」
篠原さんはまた笑う。
「ううん!そうじゃないわ…ふふ…零香ちゃんは本当に面白い…」
大人というか人間として理解できなくなった篠原さんと、これ以上話しても拉致があかないと判断した私は、目的の質問をぶつけた。
「そんなことはどうでもいいんです。私と同じくらいの、髪が白い男の子…って、知りませんか?」
いきなりどこの病室か尋ねるのは恥ずかしかったので、知っているかを尋ねることにした。髪が白いなんていう特徴、地球上探したってそうはいない。流石の篠原さん(アホ)でも分かるだろう。
「髪が白い…?遥くんのこと?遥くんなら零香ちゃんの隣のベッドよ。」
「!?!?」
衝撃の余り体勢を崩した私は、ベッドの溝にゴンッと頭をぶつける。痛みの衝撃など今は脳に届かない。ただただ彼の存在の衝撃だけが脳に伝わるのを感じた。
まさか自分と同じ病室にいるとは思ってもみなかった…。これぞまさに灯台もと暗し。先人達の知恵は馬鹿にならない。
「あ、遥くんのお友達だったの…!?それなら遥くん喜ぶわよ〜!遥くん、遥くんー…」
衝撃の余り思考がまとまっていないうちに、何やら篠原さんがとんでもないことを言い出した。
彼を呼ぶ?まだ何を言うかも決まってないのに?よくよく考えたら私の泣き声が聞こえるなんて同じ病室しか有り得ない。いつのまにこんなアホになってしまったのだろうか。これならば篠原さんの方がいくらか上等だ。
そうこう考えているうちに、向こうのカーテンが開く音がした。
そして、私の方に近寄ってくる。次の瞬間、私のカーテンも開かれる。
「はい!零香ちゃん!これが遥くんよ〜」
「えっと…どうも。小日向遥です。」
「……星島…零香です…」
自分の名前すらカタコトになって喋る私は、彼の目にどう写っているのだろうか。コミュ症?ただのアホ?どちらも最悪だ。
彼は困ったように微笑んで、私の方をじっと見つめる。私もまた、彼を見つめた。
しばらく、世界が止まった気がした。
いや、止まった、のだ。
私と彼の世界が。作られ、止まった。
吹き抜ける風、止まらない篠原さんのお喋り、病院の匂い。すべてがどこか遠い世界のよう。
彼も、そう感じているのだろうか。
開かれたカーテンの奥には、透き通る様な青が広がっていた。