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ある魔眼持ち薬剤師の日常 ~連載版~  作者: カスミ楓
第一章 白竜さんとカレー
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「カレー……食べたいですね」



 お昼のレシピを悩んでいると、唐突に頭の中にカレーが浮かび上がりました。

 ライスの上にたっぷり乗ったルー。シンプルにジャガイモとにんじん、たまねぎだけの具。ライスとルーを少し絡めて食べると、口に広がるスパイス。まったりとコクのあるルーがライスとコラボをすると絶妙な味わいになります。

 しかもルーに色々な具材を混ぜることにより栄養バランスもばっちり。ほうれん草など入れてもいいですよね。



 ああ、考えただけでよだれが・・・じゅるり。



 っとと、淑女としてはしたないですよね。

 でも私は十二歳なのです。この世界では大人扱いですけど、まだまだ子供です。子供がカレーを食べたがるのはいたって普通なのです。

 しかし残念な事にこの世界、カレーはありません。食べるためには、自作する必要があります。


 カレーの素となるスパイスの基本的な材料は、香り付けするクミン、黄色にするターメリック、そして辛さのペッパーやチリです。

 あとは水と塩、そしてトマトやバター等を煮込んでスパイスを入れれば完成です。

 ただ、これだと本場のカレーになってしまいます。かなりスパイシーです。

 私は辛いの苦手なのですよ。

 いつもカレーは甘口です、ふふん。


 いえ、威張るところではありませんけどね。


 苦手なら何故カレーなんだよ! という突っ込みは不要です。

 でも甘口にしたいなら、リンゴや蜂蜜を加えれば良いと思いますから問題はありませんね。



 しかし、カレー食べたいです。



 思えばこの世界、パンが主食なのです。

 幸いお米は入手可能ですので私はご飯を食べていますけど、やはりカレーも食べたくなりますよね。

 どうせ時間はあるのです。

 ここは一つ、カレーのスパイスを探す旅にでも出ましょう!



 でも闇雲に探してもそうそうスパイスなんて見つかるわけありません。



 まず塩、コショウは町に売っています。これらは肉の味付けに必要ですからね。油も肉から取れますし、売っています。

 バターも牛乳、というより羊乳ですが、それから作れますし唐辛子も冒険者ギルドで売っています。

 ちなみに、唐辛子、コショウ、塩は肉の臭みをなくすものとして、意外と普及されています。

 長い期間旅をする商人や冒険者は、基本的に食料は現地調達となります。

 町で売られている肉類は加工され臭みもあまり無いですけど、解体したての肉は臭いんですよね。そのために、それを消す調味料が発展しています。


 そして町に売っていないのが、ターメリックとクミンです。


 ターメリック。ウコンと呼ばれるショウガ科の草の根っこを煎じたもの。

 そしてクミンはその名の通り、クミンと呼ばれる草の種です。

 どちらもそれなりに暑く水が近くにある場所に生えているものですが、問題はこの世界にあるかどうか。

 まあハーブだってあったのですから、無いとは言い切れません。


 そしてリルリの町周辺の気候はそれほど暑くありません。四季はありますけど、気温差はそこまで激しくないのです。

 私が生まれ育ったザクティル王国のリューザル男爵領はリルリより北側だったので、もう少し気温が低かった感じですね、

 もう少し南へ行く必要があります。



 よし、まずはターメリックとクミンを探す必要があります。目的地は気候が暖かく、それで雨の多い地域です。

 でも私は地理に疎いのですよ。

 となるとまずは地図を手に入れる必要があります。

 しかし地図ってどこにあるのでしょうか?

 普通に考えれば図書館ですけど、そのようなものは帝都にでも行かない限りありません。

 次にありそうな場所は、軍。

 ここには絶対あるでしょう。

 アーヴェン様に頼めば見せてくれそうな気がしますけど、仮にもこの町の領主様です。更に王族です。

 一般市民がカレーのスパイスを探したいので地図見せて、と言っても会える訳がありません。


 となれば、やはりここは冒険者ギルドでしょう。

 冒険者も魔物の素材集めや町への護衛をする関係上、必ず地図が必要になるはずです。

 商業ギルドでも扱っているとは思いますけど、あっちは商売上手ですからきっと高額な金銭を要求されるに違いありません。思い込みですが。


 では早速冒険者ギルドへ行きましょう。

 自分用に取っておいたおにぎりを食べながら、私はお店を出てギルドへ向かいました。



 △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 ほう、ここが冒険者ギルドですか。


 まるで日本のよくある市民館のような少し安っぽい外見の扉を開けると、いくつも並んだ窓口がまず目に入ってきました。

 中には冒険者たちが十人くらいたむろしているだけで、そんなに人数はいません。今の時刻はお昼ですから、きっと大半の冒険者はどこかへ行っているのでしょう。

 その十人も紙の張ってある掲示板のようなところで、あーでもない、こーでもない、といった雰囲気で和気藹々と何か会話しています。


 定番のお約束、外見の悪い冒険者が絡んでくると予想していたのですけど、これは想定外でした。

 でもそんなにしょっちゅう絡んでたら、ギルドへの依頼がなくなっちゃいますよね。


 まずは窓口にいるおねーさんに聞いてみましょう。

 私は入り口から一番近い窓口にいるギルドの受付さんへと足を向けました。

 見たところ二十歳くらいで、なかなか整った顔立ちをしています。

 長い金髪を後ろで束ねて、青色の目が私を捉えています。こんなところに子供が来るなんて珍しい、という雰囲気ですね。


「少しよろしいでしょうか?」

「はい、いかがなされましたか?」


 うわっ、うわっ、何この人の笑顔。

 大企業の入り口へ行くと受付嬢が数名いるのですけど、彼女達が浮かべる笑みと非常に似ています。

 つまり、ものすごく営業スマイルです。

 私には到底まね出来ないや。


「あの、フィスティス帝国の地図はありますか?」

「地図ですか? ございますが」

「売ってもらうことは出来ますか?」

「申し訳ありませんが、当ギルド員のみしかお売りする事は出来ません」


 えー、そりゃないですよ。

 でも、冒険者になったほうがいいのでしょうか。当初は冒険者になってお金を稼ごうとも思っていましたし。

 それに魔物を狩って魔石を手に入れる事も出来ますしね。


 と悩んでいると、おねーさんがニコリと笑いかけてきました。


「……ですが、お見せすることなら可能ですよ?」


 何この人、マジ天使。

 先ほどまでの営業スマイルとは異なる、本当の笑顔です。

 やばいです、輝いています。きらっきらです。


「え? 本当ですか?」

「はい。ただしギルドマスターの立会いの下となりますが」


 ギルドマスターって、ここで一番偉い人ですよね。

 きっと忙しいと思うのですけど、そんな人の立会いの下ってお時間を割いていただくなんていいのでしょうか。

 でもおねーさんの口が、声を出さず「どうせ暇なんですから、少しは仕事割り振ってあげましょう」と動いているのが何となく分かりました。

 お偉いさんだと忙しい、という訳ではなさそうですね。


 あとは一番重要な事なのですが。


「タダですか?」

「もちろんです」


 おねーさんは、ちゃっかりしてるねこの子、と言わんばかりに少しだけ苦笑いです。

 でも重要な点ですよ。ここで必要経費を抑えれば、その分他に回せるのです。


「お願いできますか?」

「はい、ではこちらへどうぞ」


 おねーさんに受付窓口から部屋の奥へと案内されました。

 周りを見ると、ギルドの職員はみな暇そうにしています。きっと忙しいのは冒険者たちが出て行く時と帰ってきた時なのでしょうね。

 そして壁にはたくさんの資料が並んでいて、綺麗に整頓されています。タイトルを読むと、魔物分布図、魔物の種類、冒険者について、などと書かれています。

 やはり魔物の生態は資料としてあのように残してあるのですね。


 部屋の奥には上へと登る階段がありました。そこを登り終えると、更にもう一つ階段が続いています。

 そして三階まで登ったあと、一直線に伸びる廊下を歩いていきます。

 一番奥の部屋の扉の前へ立つと、おねーさんがノックしました。


「ギルドマスター、リリーです。外部者から地図の閲覧依頼を承りました」


 このおねーさんはリリーさんと言う名前なのですね。

 もし次にここへ来る用事ができた時も、お願いしましょう。


「そうか、入れ」

「失礼します」


 中から低い声が聞こえてきました。

 この声の主がギルドマスターですか。何となく聞き覚えありますね。

 どこで聞いたのでしょうか。


 リリーさんが扉を開けて中へ入っていきました。

 それに続いて私も入ると……。


「おっ? 朝おにぎり売ってる嬢ちゃんじゃねぇか」


 毎朝おにぎりを五個買って行く冒険者さんでした。


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